ダンジョン・ザ・チョイス
202.囚われた女
「ハァー……またやってしまったし」
夜のバルコニーで、深いため息をついてしまう。
私は人間が嫌い……近くに居られるだけで、酷く気疲れしてしまうから。
パーティーを組んでは別れ、組んでは別れを繰り返して……四年掛けてここまで来た。
「……帰りたい」
別に、元の世界に帰りたいわけじゃない。
ただ私は、疲れを感じるとほぼ無意識にそう呟く傾向があった。
「まあ、向こうの世界よりはマシだけれどさ」
色んな物に縛られて雁字搦めにされずには済んでるから、気持ち的にはこの世界の方がずっと楽だ。
けれど、こんなゲームじみた気味の悪い世界になんていつまでも居たくない。
まあ、Lv上げとかスキルを試したりするのは……ちょっと楽しいと思ってるけれど。
「……独りで攻略を進められたら、色々楽だったのに」
ゲームなら当たり前の事だけれど、いずれどこかで一辺倒なやり方が通じなくなるのは目に見えてるし。
どうせなら、最後まで攻略したいって思いもあるし。
――パーティーメンバーに私の敏感な考えを理解して欲しくて、HSPという性質の人間が居るという事を説明した。
いつも「気にしすぎ」とか言われて、そのくせ巻き込まれて死にかけたりもするのに反省してくれなくて……何度かそういうことが重なったため、とうとう我慢できなくなってしまったから……みんなみたいに、私もたまには言いたいこと言いたいって思って……。
その結果は……まるで精神異常者のような扱いをされた挙げ句の……レギオンからの追放。
それなりにパーティーに貢献していた自負があったから、パーティーメンバーが私を追い出すためにレギオン全体に悪口を流布していたと知ったときは…………さすがに堪えたな。
「レギオン、龍意のケンシ……か。酷い目にはあったけれど……なんで私なんかを迎え入れてくれたんだろう?」
「単純に、利害が一致したからだろう」
「ヒエッ!?」
いつの間にか、背後にこのレギオン雄一の男の子が!?
「な、なんか用?」
「ああ、ちょっと二人だけで話したいなって」
な、なんなのこの子?
主張が激しいわけじゃないけれど、間違いなくこのレギオンの中心人物である男の子。
アヤナとサトミという人は微妙だけれど、他の人達は間違いなく彼に一定以上の敬意を抱いている。
でも……リアルなハーレム作ってるとかキモい。
「昔、俺もHSPと診断された事がある」
「へ?」
私も、極度の怯え方から病院に連れて行かれ、そう診断された事があった。
「でも……私と全然違う」
私と違って落ち着いているように見えるし、多くの人に慕われている……本当にHSPなの?
「あんまり、HSPという言葉に囚われない方が良い。カナさん、どっかでHSPって言葉に対して選民思想じみた考えを持っていないか?」
「それは……」
自分の根底に、HSPという言葉を盾にした差別的考えが少なからずあるのは……自覚していた。
その考えが、今まで私を支え続けてくれたことと……苦しませ続けている事にも。
「理解して貰いたいって気持ちは分かるけれど、その言葉を振りかざしても壁を作るだけだよ。特に、自分の都合の良い思い込みに利用なんてしてたらさ」
「……確かに私は、HSPっていう言葉に縋って、周りを見下す傾向はあったけれど……でもそれは……皆が私をバカにするから!」
いつもなら恥だと思って言わないような事まで――口にしてしまっている! 嫌な自分を引きずり出されてる!
「分かるよ。誰も俺達の事なんて相手にしてなくて、伝えようとしても理解されないって感覚は。そもそも、まともに相手の話しを聞ける人間なんてほとんど居ないし」
この子も……私と似たような事を感じて生きてきたんだ。
「……自分から話題を振る人ほど、自分が話すこと、自分が大勢の中心に居ると思い込むことにしか……興味無いのよね」
「尋ねておいて、コッチの返事とかろくに聞かずに別の話題を振って来るから、正直ついていけないんだよな」
「その気持ち、すっごく分かる!」
こんなにまともに会話が成立してるの、生まれて初めてかも!
鼻の穴から植物の指が入り込んできたときは死ぬほど怖かったけれど、このレギオンに入れて良かったかもしれない!
……あのサトミって子とアヤナって言うのは、あまり好きになれそうにないけれど。
「ご主人様、そろそろ寝ません?」
「マスター、今夜も慰めてくれるんでしょ?」
「ああ……うん」
トゥスカって獣人とメルシュって子が、バルコニー入り口から声を掛けてきたら――とても気まずそうに、私を窺ってやがるコセ。
「そう言えば、沢山奥様がおられるんでしたね。フフフフフフ」
クソキモい。女遊びしてるって感じではないけれど……クソキモい。
「……スミマセン、お休みなさい」
居たたまれないという感じで出ていく男の子……コセ。
「おやすみなさい、カナさん」
「おやすみ、カナ」
「おやすみなさい、皆さん」
三人が居なくなると、夜風の空気が私の心に浸透してくる。
「……そう言えば、相手に皮肉を言ったのなんて何年ぶりだろう?」
自分の独り言に、少しだけ心を弾ませている自分がいた。
●●●
「カナ、このスキルカードを使って」
メルシュが、カナに向かって二枚のスキルカードを差し出す。
「あ、あああありがとうございます!」
昨夜のバルコニーでは普通に話せてたのに、今はダメなのか。
「それで、このカードは?」
「一つは”辻斬り侍のスキルカード”で、”魔斬り”、魔法を斬ることが出来るスキルだよ。もう一枚は、超レアなスキルカード、”禍螳螂のスキルカード”」
”潜水”と”反骨”のカードを渡さないって事は、カナはもう覚えてるのか。
……昨日の一件のせいか、四つは年上なのに敬語を使う気になれない。
「禍カマキリ?」
「”禍鎌切”っていう鎌専用のスキルなんだけれど、振りの強さに合わせてジグザグのエネルギーの刃を伸縮させられるんだよ。鎌系の武術スキルと併用も出来る、鎌使い必須のスキルだね」
話を聞く限りだけれど、扱いづらい鎌の利便性が格段に上がりそうだな。
「……そ、それではありがたく」
「今日はカナに私達の事情を説明して、午後にダンジョン攻略のレクチャーと飛行訓練で良いかな、マスター?」
飛行訓練?
「そうだな。もし何日か休みが欲しいって人が居たら、遠慮無く言って――」
「明日にはダンジョンに入るわよ! 必ず!!」
「私もぉ、明日の朝早くダンジョン願いまぁす! 蜂さん飛ぶ前に、ゴーゴゴー!!」
アヤナとクリスが必死だ……俺も、この村に長居するのはさすがにキツいけれどさ。
「じゃあ、明日の朝六時にダンジョン探索開始で良いか?」
全員の了解を得て、俺達は今日一日を準備と休息に当てることにした。
夜のバルコニーで、深いため息をついてしまう。
私は人間が嫌い……近くに居られるだけで、酷く気疲れしてしまうから。
パーティーを組んでは別れ、組んでは別れを繰り返して……四年掛けてここまで来た。
「……帰りたい」
別に、元の世界に帰りたいわけじゃない。
ただ私は、疲れを感じるとほぼ無意識にそう呟く傾向があった。
「まあ、向こうの世界よりはマシだけれどさ」
色んな物に縛られて雁字搦めにされずには済んでるから、気持ち的にはこの世界の方がずっと楽だ。
けれど、こんなゲームじみた気味の悪い世界になんていつまでも居たくない。
まあ、Lv上げとかスキルを試したりするのは……ちょっと楽しいと思ってるけれど。
「……独りで攻略を進められたら、色々楽だったのに」
ゲームなら当たり前の事だけれど、いずれどこかで一辺倒なやり方が通じなくなるのは目に見えてるし。
どうせなら、最後まで攻略したいって思いもあるし。
――パーティーメンバーに私の敏感な考えを理解して欲しくて、HSPという性質の人間が居るという事を説明した。
いつも「気にしすぎ」とか言われて、そのくせ巻き込まれて死にかけたりもするのに反省してくれなくて……何度かそういうことが重なったため、とうとう我慢できなくなってしまったから……みんなみたいに、私もたまには言いたいこと言いたいって思って……。
その結果は……まるで精神異常者のような扱いをされた挙げ句の……レギオンからの追放。
それなりにパーティーに貢献していた自負があったから、パーティーメンバーが私を追い出すためにレギオン全体に悪口を流布していたと知ったときは…………さすがに堪えたな。
「レギオン、龍意のケンシ……か。酷い目にはあったけれど……なんで私なんかを迎え入れてくれたんだろう?」
「単純に、利害が一致したからだろう」
「ヒエッ!?」
いつの間にか、背後にこのレギオン雄一の男の子が!?
「な、なんか用?」
「ああ、ちょっと二人だけで話したいなって」
な、なんなのこの子?
主張が激しいわけじゃないけれど、間違いなくこのレギオンの中心人物である男の子。
アヤナとサトミという人は微妙だけれど、他の人達は間違いなく彼に一定以上の敬意を抱いている。
でも……リアルなハーレム作ってるとかキモい。
「昔、俺もHSPと診断された事がある」
「へ?」
私も、極度の怯え方から病院に連れて行かれ、そう診断された事があった。
「でも……私と全然違う」
私と違って落ち着いているように見えるし、多くの人に慕われている……本当にHSPなの?
「あんまり、HSPという言葉に囚われない方が良い。カナさん、どっかでHSPって言葉に対して選民思想じみた考えを持っていないか?」
「それは……」
自分の根底に、HSPという言葉を盾にした差別的考えが少なからずあるのは……自覚していた。
その考えが、今まで私を支え続けてくれたことと……苦しませ続けている事にも。
「理解して貰いたいって気持ちは分かるけれど、その言葉を振りかざしても壁を作るだけだよ。特に、自分の都合の良い思い込みに利用なんてしてたらさ」
「……確かに私は、HSPっていう言葉に縋って、周りを見下す傾向はあったけれど……でもそれは……皆が私をバカにするから!」
いつもなら恥だと思って言わないような事まで――口にしてしまっている! 嫌な自分を引きずり出されてる!
「分かるよ。誰も俺達の事なんて相手にしてなくて、伝えようとしても理解されないって感覚は。そもそも、まともに相手の話しを聞ける人間なんてほとんど居ないし」
この子も……私と似たような事を感じて生きてきたんだ。
「……自分から話題を振る人ほど、自分が話すこと、自分が大勢の中心に居ると思い込むことにしか……興味無いのよね」
「尋ねておいて、コッチの返事とかろくに聞かずに別の話題を振って来るから、正直ついていけないんだよな」
「その気持ち、すっごく分かる!」
こんなにまともに会話が成立してるの、生まれて初めてかも!
鼻の穴から植物の指が入り込んできたときは死ぬほど怖かったけれど、このレギオンに入れて良かったかもしれない!
……あのサトミって子とアヤナって言うのは、あまり好きになれそうにないけれど。
「ご主人様、そろそろ寝ません?」
「マスター、今夜も慰めてくれるんでしょ?」
「ああ……うん」
トゥスカって獣人とメルシュって子が、バルコニー入り口から声を掛けてきたら――とても気まずそうに、私を窺ってやがるコセ。
「そう言えば、沢山奥様がおられるんでしたね。フフフフフフ」
クソキモい。女遊びしてるって感じではないけれど……クソキモい。
「……スミマセン、お休みなさい」
居たたまれないという感じで出ていく男の子……コセ。
「おやすみなさい、カナさん」
「おやすみ、カナ」
「おやすみなさい、皆さん」
三人が居なくなると、夜風の空気が私の心に浸透してくる。
「……そう言えば、相手に皮肉を言ったのなんて何年ぶりだろう?」
自分の独り言に、少しだけ心を弾ませている自分がいた。
●●●
「カナ、このスキルカードを使って」
メルシュが、カナに向かって二枚のスキルカードを差し出す。
「あ、あああありがとうございます!」
昨夜のバルコニーでは普通に話せてたのに、今はダメなのか。
「それで、このカードは?」
「一つは”辻斬り侍のスキルカード”で、”魔斬り”、魔法を斬ることが出来るスキルだよ。もう一枚は、超レアなスキルカード、”禍螳螂のスキルカード”」
”潜水”と”反骨”のカードを渡さないって事は、カナはもう覚えてるのか。
……昨日の一件のせいか、四つは年上なのに敬語を使う気になれない。
「禍カマキリ?」
「”禍鎌切”っていう鎌専用のスキルなんだけれど、振りの強さに合わせてジグザグのエネルギーの刃を伸縮させられるんだよ。鎌系の武術スキルと併用も出来る、鎌使い必須のスキルだね」
話を聞く限りだけれど、扱いづらい鎌の利便性が格段に上がりそうだな。
「……そ、それではありがたく」
「今日はカナに私達の事情を説明して、午後にダンジョン攻略のレクチャーと飛行訓練で良いかな、マスター?」
飛行訓練?
「そうだな。もし何日か休みが欲しいって人が居たら、遠慮無く言って――」
「明日にはダンジョンに入るわよ! 必ず!!」
「私もぉ、明日の朝早くダンジョン願いまぁす! 蜂さん飛ぶ前に、ゴーゴゴー!!」
アヤナとクリスが必死だ……俺も、この村に長居するのはさすがにキツいけれどさ。
「じゃあ、明日の朝六時にダンジョン探索開始で良いか?」
全員の了解を得て、俺達は今日一日を準備と休息に当てることにした。
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