ダンジョン・ザ・チョイス
193.原種の正体
朝食の席で、メルシュが皆に解説を始める。
昨日、ルイーサが夕食の席に居なかったためだが……そのルイーサは、さっきから俺と目を合わせてくれないと言うか……避けてる?
ご飯も、いつもに比べると細々と食べている気がするし。
「おい、手が止まって居るぞ」
「ああ、すみません」
反射的に謝り、フカフカのパンを千切ってバトルパペット・マリアの口に運ぶ。
首の向きを確認し、スープを所望されている事に気付いて飲ませて差し上げる。
「今日は調子が悪いわね、コセ」
最近はモモカ、ローゼにこうして食べさせる事があったけれど、そこに気の強いマリアが参戦してくるとは。
「申し訳ない」
ルイーサとの昨日のやり取りに、少なからず悶々とさせられて居るのだろう。
「なにかあったのかしら?」
ニヤリと嫌らしい笑みを向けてくるマリア。
「ちょ、ちょっと……髪を切ろうか悩んでただけだよ」
下手な誤魔化しだなとは思ったけれど、気にしていたのは事実だ。
散髪屋に行くのがこの上ない苦痛だったから、向こうでは三、四ヶ月に一回しか行ってなかったけれど、戦っていると以前よりも鬱陶しく感じやすいんだよな。
あんまり切りたいとは思っていないのだけれど、切らないとマズいかな? という感じ。
「それはダメ!!」
解説を中断してまで……メルシュに止められた?
「ご、ごめん、マスター……」
こんな情緒不安定なメルシュ、初めてだな。
「コセさん、初めて会ったときより髪が伸びて、なんだか女の子っぽいわ♪ 色気が出て来たんだから、そのまま伸ばせば良いじゃない♡」
サトミさん、今俺のこと女の子っぽいって言った?
「前髪が鬱陶しいのであれば、私が少し整えますよ。後ろは縛ればよろしいのでは?」
なぜか、サキまでもが切らない方向に持っていこうと!
「コセだと、ロー、ゴールデン、どっちが良いかしら?」
「サイドもありじゃね?」
アヤナとアオイの会話の意味が分からないんですが?
「コセは渋可愛いからな、どれでも似合うんじゃねぇか?」
ザッカル、渋可愛いってなんだ!? 初めて聞いたぞ!
「コセ様が髪を結ぶ……ポッ♡」
「か、可愛いかも♡」
「意外と似合いそうです♡」
スゥーシャ、ノーザン、クマムのその反応はなんなんだ!?
「私と同じ、ゴールデンタイプはどうだ?」
メグミさんまでもが訴え掛けてきた!
だから、ゴールデンってなに!?
「ロータイプ一択で」
トゥスカさんの一言に、その場が凍った。
「そ、そうだな」
メグミさんすら怯えている!?
「あの……ローってなんですか?」
★
「……こういう事か」
リビングでサキに前髪を整えて貰い、髪を首裏の辺りで一つに縛ってもらった。
と言っても、まだそこまで長くないから、正面から見た時に少しだけ目立っていた、首周りの髪が無くなっただけ。
それだけでも、スッキリした感じはするものだな。
「ありがとう、サキ」
「いえいえ。動物の毛刈りの知識が、役に立って良かったです♪」
俺の散髪を、家畜の毛刈りと同じ扱い……。
「……よ、予想以上に似合ってるな」
「うわ、本当に女の子みたい」
「コイツ……下手したら私より色気あるんじゃ?」
ルイーサとアオイ、アヤナが俺を見て……褒めてる? いや……むしろ引いてる?
「…………」
「ど、どうした、リンピョン?」
「サトミ様に匹敵する美しさ♡」
「……大袈裟が過ぎるだろう」
サトミさんは、控え目に言ってももの凄い美人なんだから。
「ヤバい。洒落になって無いわよ、アンタ。胸に風船でも入れたら完全に女の子よ? いえ、立派な女よ!」
ユリカさん、女の子から女と言い直した部分に、深い意味なんてありませんよね?
「男装の麗人って感じで、ちょっとお姉様呼びしたくなりますね♡」
クマムさん、冗談ですよね?
ていうか男装の麗人って、それ俺を女扱いしてるって事じゃん!
「とってもお似合いですよ、コセ様」
「ククク! 悪くないねぇ」
「ある意味、当然と言えば当然かもな。文字を引き出せるんだから」
ヨシノとシレイアはともかく、フェルナンダの言葉は引っ掛かるんだが?
「フェルナンダ、今のって……」
「オゥ! ビューティフォー…………」
クリスに遮られた!!
やっぱ俺、この女嫌い!
「リアルハーレムの人……めちゃくちゃエロい♡ ……ベッドに行こう♡♡」
取り敢えず、ユイが一番スケベだってことは良く分かった。
●●●
「ご主人様……」
食事を片付けながら思う。
「だんだん、お肉を食べなくなって来ている」
それに、甘い物も以前ほど食べようとしない。
「それを言うなら、ユイやルイーサ、メグミもだけれどな」
「へ?」
ザッカルの、意外な指摘に驚く!
「奇しくも、文字の力を引き出しているトップ3が、菜食主義者みたいな食事をしてやがる。案外、メグミは対応武器さえあれば簡単に文字を引き出せるんじゃねぇか?」
菜食主義と神代文字に因果関係が?
「あ、気付いちゃった?」
メルシュが、いつの間にかそこに居た。
「別に菜食主義者になれば文字をより引き出せるってわけでもないんだけれど、文字を引き出せるようになればなるほど、野菜や果物ばかり好むようになる傾向はあるよ」
「だから、食生活をどうこうとは言わなかったのね」
「まあ、無意味では無いけれど、あんまり意味は無いって感じだから」
「フーン、そうなんだ」
いつの間にか、ナオとノーザンまで現れる。
「でも、無意味では無いんでしょ?」
「いきなり変えると、反発心を煽る危険性もあったからさ。機を見て、ちょっとずつ変えさせる気だったの。白米を玄米にするとかね」
「他にも色々隠してるんじゃない? 神代文字
を引き出せる意味とか」
「ナオ?」
ナオは、急にどうしたの?
「誰かになにか吹き込まれたみたいだね。情報はノーザンから? でも、その辺の事は全部説明するわけにはいかないかな。ただ、私は皆の不利になるような真似はしないよ」
さっきご主人様の髪を切るのに反対したのも、なにか意味があるの?
「お前、デルタが用意した人工生命体かなんかなんだろう? 断言できんのかよ」
ここで、ザッカルが突っ掛かってしまう。
「私達隠れNPCに使われているトライアングルシステムは、元はデルタと袂を別かった側が作った物。デルタと言えど、システムの根幹にまでは干渉出来ないよ」
「ならぁ、私の居た世界の種の起源についてぇ、教えてくださ~い」
クリスまでやって来たか。
「ハァー……それに答えたら、取り敢えず許してくれる?」
「良いわ。ザッカルもナオも、それで良いわね」
このままだと、私達が内部崩壊しかねない。
「仕方ねー、種の起源になんて興味ねーけど」
「ま、メルシュにはたくさん助けて貰ってるしね」
「コセ様が信用している以上、僕がとやかく言うつもりはありません」
さすがに、三人共分かってたか。
「フー……種の起源は一つじゃない。様々な宇宙人による干渉によって、地球由来じゃない遺伝子がたくさん入り込んだの」
「この世界の人達のようにぃ……ですね?」
「そこまでは断言できないけれど、多分そうなんでしょうね」
この話、私達にも関係あるってこと?
「俺達が宇宙人だってのか?」
「原種と呼ばれる、本来の正統な星の民はどの星にも存在するよ。ザッカル達が、その血を引いているのかまでは分からないけれど」
原種……レプティリアンがたびたび口にしていたような。
「ならぁ、私の居た世界の原種は…………日本人……いえ、日高見の方々ですねぇ?」
「縄文人……て言った方が正しいかな」
「……やはり、そうですか…………」
クリスが、深く気落ちしている?
「この話し、この空間の外では絶対にしないように。デルタが本気で仕掛けてくるかもしれないから」
「ようやくぅ、腑に落ちまぁした。なぜ、アメリカが日本の文化を恐れ、排斥しようとしたのかぁ。日本、大国から国際的虐めに晒され続けてるのかぁ」
私にはなんの事かサッパリ分からないけれど、クリスはよほどのなにかに気付いた様子。
「デルタの目的はぁ……原種から星の所有権、奪い取る事……違いますかぁ?」
「……ここまで言ったんだし、まあ、いっか」
メルシュが、クリスを強く見据えて語り出す。
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