ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

190.三つのルート

「どうですか、ご主人様?」

 今日出来上がったばかりの服を、トゥスカが着て俺に見せてくれる。

 黒い獣毛があしらわれた、真っ黒な服……前の服よりも大人びていて――妖艶だ!

 特に、胸元の谷間の見え方が以前よりもヤバい!

「似合っている……似合いすぎているくらいだ」

 男共の邪な感情を、以前よりも引き寄せてしまいかねない程に!

「前に英知の街で手に入れていたヴァナルガンドの素材と、“ブラックオリハルコンの生織物”に、この町で購入出来る素材を合わせて作れる“災禍狼の戦装束”、Aランクだよ」

 以前の服と、基本的な作りは同じようだ。

「ルイーサ……その服、どことなくエッチね」
「そうだろうか? 私は気に入ったが」

 太股が映えるデザインの、剣をモチーフにした服か……うん、エッチだと思う。

「“聖剣の白衣”、Aランク。聖剣と名の付く武器を特に強化してくれる効果がある。聖剣だけでなく、剣と名の付く物、分類される物なら全てに多少の補正が加わるようだ」
「さすが、メルシュが見繕ってくれた物だな」

 フェルナンダの解説に、ご満悦の様子のルイーサ。

 昨日、一昨日とどこか落ち込んでいるように見えたけれど、少しは元気になったようだ。

 でも……なんで落ち込んでたんだろう?

「アオイもだけれど、アンタも服に興味が無いわよね」

 ルイーサに、呆れている様子のアヤナ。

「コセは、買い物が長い女と短い女、どっちの方が良い?」

 急に話を振ってくるアオイ!

「それは……短い方が良いし、そもそも買い物が長いというか……なかなか選ぶことが出来ない人間は、頭が悪いって……話しが…………」


「コセ……今なにか言ったかしら?」


「……いえ、なにも」

 ――アヤナに殺されるかと思った!!

「ノーザンのその服……ちょっと透けてる?」
「いえ、青味を帯びた白なので、そう見えるだけかと」
「“薄氷の胴着”、Bランク。氷耐性と氷属性の攻撃を強化してくれるよ。凄く軽くて動きやすい分、直接攻撃に対しては前のEランクと大して頑丈さは変わらないから、気を付けな」

 シレイアが、ノーザンとナオの前で解説している。

「確かに、以前よりも動きやすいです。肌に引っ掛かる感じがほとんど無くて、肌触りも良いですね」

 ノーザンは気に入ったようだ。

「下着がうっすら見えている気がするんだけれど、気のせいかしら?」
「うん、実際透けてるよ、ノーザン」

「へ!?」

 困ったように俺を見てくるノーザン。

「ど、どうしましょう……コセ様……」
「普段はその上に鎧を着るんだし、大丈夫だと思うぞ?」
「そ、そっか」

 数日前に関係を持ってから、みんなに対して隙を晒しやすくなったかもしれないな、ノーザンは。

 それにしても……最近、本当に俺だけ新装備が無いんだけれど。

 武器の形状が変わったのを除けば、最後に手に入れたの“紫雲猿の靴”だからね。

 
            ★


 機織りの町に着いてから三日後の早朝、俺達は第十二ステージのダンジョン入り口に来ていた。

「ルートは三つに分かれてて、左から順に山ルート、川ルート、トンネルルートになってるよ」

 山に向かって上り坂になっている道と、小さな川が続く道と、暫く歩いた先にある煉瓦造りの古そうなトンネルが見える。

「別パーティーと接触する恐れがあるから、みんな気を付けてね」

「「「はい!」」」

 俺とトゥスカ、メルシュ、ルイーサ、アヤナ、アオイ、フェルナンダはトンネルへ。

 ジュリー、サキ、ユリカ、ヨシノ、タマ、モモカ、スゥーシャ、クマムは川沿いの横道を。

 サトミさん、メグミさん、リンピョン、クリス、ザッカル、ナオ、ノーザン、ユイ、シレイアが山へと向かう。

「サトミさん達のルート、人数は多いけれど大丈夫かな?」

 隠れNPCもアマゾネスのシレイアしか居ないため、心配だ。

 クリスはシステム上隠れNPCだが、精神的に隠れNPCと認識しない方が良いだろう。

「向こうは飛べないし、地形的な危険はあるけれど、出て来るモンスターで言えば一番楽だから。それよりも、私達が一番危険なルートを通るんだから、気を引き締めよう!」
「ああ」

 山は一番時間が掛かるけれど安全で、トンネルは一番短くて危険で、河は平均らしい。

 一応話は聞いているけれど、いったいなにが起こるのか。


●●●


「ゼー、ゼー、キッツいわね~」
「大丈夫ですか、サトミ様?」

 リンピョンちゃんが心配してくれる。

「だ、大丈夫よ」

 や、山ルート……お、思ってたよりキツいわ。

「クリスちゃんは平気?」
「わたぁし、日本の遺跡、たくさんいきまぁした! 凸凹多くて最初は大変だったけどぉ、もうなれまぁした」

 け、結構逞しいのね。

「そ、空さえ飛べれば」
「空を飛べないステージ、結構多いらしいな」
「歩くのは健康に良いですよ、サトミ様」

 わ、私以外、みんな涼しい顔しちゃって。

 ユイちゃんやザッカルちゃんは、先に行って様子を見てくれてるし、ナオちゃんですら平気そう!

「それにしても、ここまでまったくモンスターが出て来ないな」
「間引いてくれた人間が居たのかもね」

 メグミちゃんの言葉に、シレイアちゃんが返す。

「だとすると、近くにプレイヤーが?」
「複数のパーティーが同時に進めるタイプのステージは、モンスターのポップ率が曖昧だからね~。そうとも限らないだろうさ」

 シレイアちゃん、今回は得物が槍というか……銛なのね。

「みんな! グールバードズが来るよ!」
「スゲー数だ! 気をつけろ!」

 ユイちゃんとザッカルちゃんが戻ってきて、警告してくれる!

 嘴が鋼鉄で出来ているという、肉を引き裂くための鋭い歯を持った、烏くらいの大きさの鳥が空を覆いだした!?

「ねぇ……山ルートが一番安全なのよね?」
「この数は洒落になってないねー。仕掛けてきたタイミングも、戦いづらい急な坂を登ってる最中とは……観測者に狙われたかもしれないね」
 
 シレイアちゃんが冷静に分析。

「やるしかないようね! “二重魔法”、ストームダウンブラスト!!」

 “紺碧の空は憂いて”を黒く覆われた鳥群の空に向け、“颶風ぐふう魔法”を放った。

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