ダンジョン・ザ・チョイス
189.マッチポンプ見下し
衣服の注文を終えた次の日、ジュリーが購入した砦城の中庭に、全員が集まっていた。
「ハァッ!!」
「フッ!」
タワーシールドとバックルを巧みに駆使し、クリスの攻撃を去なすメグミさん。
「スキルを戦術に組み込まないと、対人戦で勝てないぞ!」
「ハイ! “薔薇剣術”、ローズチャージ!!」
薔薇を吹き散らしながら、“薔薇騎士の剣”を突き出して高速で突っ込むクリス。
「シールドバニッシュ!」
“メタルクラッシュバックル”という、盾と言うより突起物みたいな形状の丸盾から衝撃波を放つと、クリスは地面を転がっていった。
「大丈夫か、クリス?」
「ぅ……日本人、みんな武術が得意という噂、本当でぇした。銃なら、すこぉし扱えるですけど」
アメリカは銃社会で、小さいうちに銃の扱い方を教わる事も少なくないらしい。
学生が銃の乱射事件を起こせるのって、そういう理由もあるんだろう。
「みんなが得意というわけじゃないが、コセはどうなんだ?」
「いや……特には習ったりしてないけれど」
アニメの影響で蹴りの練習とか身体を使うイメージトレーニングはしたりしたけれど、弟とかに見られるたびにバカにされてたからな。
それに、勝負事は苦手だ。
勝者が居るって事は、敗者が居るって事でもある。
勝って喜ぶ人間と、それを賞賛する人間の神経がイマイチ理解できないため、対戦タイプの遊びはあまり熱中出来ない。
なにかを競うと、すぐにバカにしてくる奴も多かったし。
辛いかと尋ねられて辛いと答えると、イコール我慢できない辛さと勝手に解釈する、マッチポンプ見下し人間が周りに多すぎたから。
「コセ、そろそろ始めようか」
「ああ」
ルイーサと向き合い、互いに神代文字を引き出す。
「早いな」
“サムシンググレートソード”に、瞬時に九文字刻んだ。
「ルイーサこそ」
俺より二秒程遅れたただけで、九文字刻んでいるルイーサ。
「気をぬくと、意識を一気に持っていかれそうだ」
「俺も、これ以上文字を刻もうとすると、同じ衝動に襲われるよ」
メルシュの提案で、たまにこうやって文字を引き出す訓練に付き合っている。
「九文字……ユイさんも九文字刻めますし……凄いですね」
まだ、三文字しか安定して引き出せないノーザンが羨む。
「私も、そろそろ次のステップに進みたいですね」
トゥスカの“荒野の黄昏の目覚め”に、瞬時に文字が六つ刻まれる。
そこから先に、なかなか進めずにいるトゥスカ。
人魚達の前で九文字刻めたのは、あの時限りの物だったらしい。
「見てください、サトミ様!」
僅かに、“殺人鬼の円鋸”から青い燐光を振り撒くリンピョン……へ、あのリンピョンが?
「わ、私は一文字も引き出せてないのに! リンピョンちゃんのくせに!」
「サトミ様の言い草が酷い!?」
「サトミは我が強いから、手こずるかもね」
「そういう物なの、メルシュちゃん?
メルシュ達隠れNPCは文字を引き出せないようだけれど、アドバイスは出来るらしい。
「私は……なんとか六文字刻めそうだ」
橙の翼に刻まれた文字が五つまで光るも、三つに戻ってしまうジュリー。
「ハアハア、ダメか」
「惜しかったですね。三の倍数になると安定しやすいので、もうちょっとで次のステップに進めますよ」
ジュリーを慰めるサキ。
「な、なんとか……行けたわ……」
「素晴らしいです、ユリカ様!」
爪の生えた大杖に、六文字刻んだユリカ。
なんとなく、ジュリーの方が文字を引き出しやすいと思っていたけれど、ユリカの方が一歩リードか。
「お前らスゲーな。俺の方はうんともすんとも行かねーぞ」
「私もです」
文字対応の武器を手に入れたザッカルとスゥーシャだが、切っ掛けを掴めずにいるようだ。
「私も……上手くいきません」
タマはリンピョンよりも文字を光らせて居るけれど、二文字に届くかどうかで、すぐに消えてしまっていた。
「コセ、ヒントをくれ」
ザッカルに頼まれ、三人の元へ。
「ヒントって言われてもな……自分の内側に目を向けるっていうか…………そもそもの、自分の存在を疑うっていうか……世界を疑うっていうか……」
「なんじゃそりゃ?」
「自分の存在を疑う……」
「世界を疑う……」
スゥーシャとタマは、なにかを掴んだ様子。
「それで……世界の嘘を曝く! 解き明かす! 白日に晒す! ……って感じかな?」
「ますます分からねー」
「す、少し光りました!」
「さ、三文字……な、なんとか」
スゥーシャは切っ掛けを掴み、タマは安定していないけれど、三文字に辿り着いたようだ。
「おめでとう、二人とも」
「今のアドバイスで、なんでそんなに変わるんだよ。全然分からねー」
「ザッカル、あのね」
メルシュがザッカルの耳元で囁く。
「ハァー? …………あ、光った」
メルシュのアドバイスを聞き、容易く一文字刻んだザッカル。
「ザッカルは、切っ掛けさえ掴めれば行けると思ってたよ」
「メルシュ、ザッカルにどんなアドバイスをしたんだ?」
変な笑みを向け、耳を貸すようにジェスチャーしてきた?
「マスターとエッチしたあとの、幸せで呆けている瞬間を思い浮かべてって言ったの」
「…………なんじゃそりゃ」
俺の感覚と全然違うんだけれど?
文字を使うと精神的な消耗が激しいため、この日は全員、早めに休息を取ることにした。
★
「元気出しなさいよ、モモカ」
「うん……」
また両親が見付からなかったため、モモカが食堂の椅子の上で落ち込んでいる。
そんなモモカにローゼが声を掛けるが、反応は芳しくない。
「アンタ、そんなに両親に会いたいの?」
「へ……うん」
無口なマリアが、モモカに尋ね始めた。
「でも、アンタの親って、コセ達をノルディックってバカにして嫌ってるんでしょ? 再会したら「そんな奴等と一緒に居るな!」って言われて、引き離されるかもしれないのよ?」
「……それはイヤ! コセ達と一緒に居る!」
モモカが……実の親より俺達を選んでくれた!!
「ご主人様……泣いてるんですか?」
「……うん」
嬉し涙を流すのって……生まれて初めてかもしれない!
「コセ!」
モモカが抱き付いてきたため、抱っこしてあげる。
「私、絶対にコセのお嫁さんになるもん!」
いったいいつまでお嫁さん発言を続けてくれるか分からないけれど、お父さんは嬉しいよ。
「モモカ、今日は一緒に寝ようか」
「うん!」
「やっぱり……ペドファイル?」
クリスが懐疑的な眼差しを向けていたが、無視することにした。
あの女、絶対に許さん。
「ハァッ!!」
「フッ!」
タワーシールドとバックルを巧みに駆使し、クリスの攻撃を去なすメグミさん。
「スキルを戦術に組み込まないと、対人戦で勝てないぞ!」
「ハイ! “薔薇剣術”、ローズチャージ!!」
薔薇を吹き散らしながら、“薔薇騎士の剣”を突き出して高速で突っ込むクリス。
「シールドバニッシュ!」
“メタルクラッシュバックル”という、盾と言うより突起物みたいな形状の丸盾から衝撃波を放つと、クリスは地面を転がっていった。
「大丈夫か、クリス?」
「ぅ……日本人、みんな武術が得意という噂、本当でぇした。銃なら、すこぉし扱えるですけど」
アメリカは銃社会で、小さいうちに銃の扱い方を教わる事も少なくないらしい。
学生が銃の乱射事件を起こせるのって、そういう理由もあるんだろう。
「みんなが得意というわけじゃないが、コセはどうなんだ?」
「いや……特には習ったりしてないけれど」
アニメの影響で蹴りの練習とか身体を使うイメージトレーニングはしたりしたけれど、弟とかに見られるたびにバカにされてたからな。
それに、勝負事は苦手だ。
勝者が居るって事は、敗者が居るって事でもある。
勝って喜ぶ人間と、それを賞賛する人間の神経がイマイチ理解できないため、対戦タイプの遊びはあまり熱中出来ない。
なにかを競うと、すぐにバカにしてくる奴も多かったし。
辛いかと尋ねられて辛いと答えると、イコール我慢できない辛さと勝手に解釈する、マッチポンプ見下し人間が周りに多すぎたから。
「コセ、そろそろ始めようか」
「ああ」
ルイーサと向き合い、互いに神代文字を引き出す。
「早いな」
“サムシンググレートソード”に、瞬時に九文字刻んだ。
「ルイーサこそ」
俺より二秒程遅れたただけで、九文字刻んでいるルイーサ。
「気をぬくと、意識を一気に持っていかれそうだ」
「俺も、これ以上文字を刻もうとすると、同じ衝動に襲われるよ」
メルシュの提案で、たまにこうやって文字を引き出す訓練に付き合っている。
「九文字……ユイさんも九文字刻めますし……凄いですね」
まだ、三文字しか安定して引き出せないノーザンが羨む。
「私も、そろそろ次のステップに進みたいですね」
トゥスカの“荒野の黄昏の目覚め”に、瞬時に文字が六つ刻まれる。
そこから先に、なかなか進めずにいるトゥスカ。
人魚達の前で九文字刻めたのは、あの時限りの物だったらしい。
「見てください、サトミ様!」
僅かに、“殺人鬼の円鋸”から青い燐光を振り撒くリンピョン……へ、あのリンピョンが?
「わ、私は一文字も引き出せてないのに! リンピョンちゃんのくせに!」
「サトミ様の言い草が酷い!?」
「サトミは我が強いから、手こずるかもね」
「そういう物なの、メルシュちゃん?
メルシュ達隠れNPCは文字を引き出せないようだけれど、アドバイスは出来るらしい。
「私は……なんとか六文字刻めそうだ」
橙の翼に刻まれた文字が五つまで光るも、三つに戻ってしまうジュリー。
「ハアハア、ダメか」
「惜しかったですね。三の倍数になると安定しやすいので、もうちょっとで次のステップに進めますよ」
ジュリーを慰めるサキ。
「な、なんとか……行けたわ……」
「素晴らしいです、ユリカ様!」
爪の生えた大杖に、六文字刻んだユリカ。
なんとなく、ジュリーの方が文字を引き出しやすいと思っていたけれど、ユリカの方が一歩リードか。
「お前らスゲーな。俺の方はうんともすんとも行かねーぞ」
「私もです」
文字対応の武器を手に入れたザッカルとスゥーシャだが、切っ掛けを掴めずにいるようだ。
「私も……上手くいきません」
タマはリンピョンよりも文字を光らせて居るけれど、二文字に届くかどうかで、すぐに消えてしまっていた。
「コセ、ヒントをくれ」
ザッカルに頼まれ、三人の元へ。
「ヒントって言われてもな……自分の内側に目を向けるっていうか…………そもそもの、自分の存在を疑うっていうか……世界を疑うっていうか……」
「なんじゃそりゃ?」
「自分の存在を疑う……」
「世界を疑う……」
スゥーシャとタマは、なにかを掴んだ様子。
「それで……世界の嘘を曝く! 解き明かす! 白日に晒す! ……って感じかな?」
「ますます分からねー」
「す、少し光りました!」
「さ、三文字……な、なんとか」
スゥーシャは切っ掛けを掴み、タマは安定していないけれど、三文字に辿り着いたようだ。
「おめでとう、二人とも」
「今のアドバイスで、なんでそんなに変わるんだよ。全然分からねー」
「ザッカル、あのね」
メルシュがザッカルの耳元で囁く。
「ハァー? …………あ、光った」
メルシュのアドバイスを聞き、容易く一文字刻んだザッカル。
「ザッカルは、切っ掛けさえ掴めれば行けると思ってたよ」
「メルシュ、ザッカルにどんなアドバイスをしたんだ?」
変な笑みを向け、耳を貸すようにジェスチャーしてきた?
「マスターとエッチしたあとの、幸せで呆けている瞬間を思い浮かべてって言ったの」
「…………なんじゃそりゃ」
俺の感覚と全然違うんだけれど?
文字を使うと精神的な消耗が激しいため、この日は全員、早めに休息を取ることにした。
★
「元気出しなさいよ、モモカ」
「うん……」
また両親が見付からなかったため、モモカが食堂の椅子の上で落ち込んでいる。
そんなモモカにローゼが声を掛けるが、反応は芳しくない。
「アンタ、そんなに両親に会いたいの?」
「へ……うん」
無口なマリアが、モモカに尋ね始めた。
「でも、アンタの親って、コセ達をノルディックってバカにして嫌ってるんでしょ? 再会したら「そんな奴等と一緒に居るな!」って言われて、引き離されるかもしれないのよ?」
「……それはイヤ! コセ達と一緒に居る!」
モモカが……実の親より俺達を選んでくれた!!
「ご主人様……泣いてるんですか?」
「……うん」
嬉し涙を流すのって……生まれて初めてかもしれない!
「コセ!」
モモカが抱き付いてきたため、抱っこしてあげる。
「私、絶対にコセのお嫁さんになるもん!」
いったいいつまでお嫁さん発言を続けてくれるか分からないけれど、お父さんは嬉しいよ。
「モモカ、今日は一緒に寝ようか」
「うん!」
「やっぱり……ペドファイル?」
クリスが懐疑的な眼差しを向けていたが、無視することにした。
あの女、絶対に許さん。
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