ダンジョン・ザ・チョイス
188.機織りの町
いつもの祭壇の上から見える景色は、様々な色合い、柄の布にまみれていた。
風が吹くと、鯉のぼりのように棚引く。
「ここでは衣服の素材になる物を買えるから、それを使って皆の衣服装備のランクを上げたいな」
先に来ていたジュリーの発言に、複雑な気分に。
俺の“偉大な英雄の鎧”は同時に衣服を装備出来ないため、この町でも新装備は手に入らなそうだ。
「もう少し進まないと、魔法使い向けの衣服は作れないね」
「あら、そうなの? それは残念ね」
メルシュの言葉に、あからさまに残念がるサトミさん。
「それで、このあとはどうする?」
「全員揃ったら、”気紛れ見繕い婆さん”に会いに行こう」
「「「なにそれ?」」」
ジュリーの言葉に、何人かが思わず聞き返してしまった。
●●●
「いらっしゃい。あたしの質問に答えてくれたら、10000Gで凄い服を作ってあげるよ」
やたら声がキーキー高い長身のお婆さんが、裁縫をしながらカウンター越しに話し掛けてきた。
「彼女が“気紛れ見繕い婆さん”。質問に答えると、その答えを元に衣服を作製してくれる」
「ただし、ランクはランダムだからあまり期待しない方が良いよ。そもそもSランクは出ない仕様だし」
「しかも、一人に対して一度しか作ってくれないから、あまり良いのが出なくても諦めるしかない」
ジュリーとメルシュが、順に解説してくれる。
「質問に答えてくれるかい?」
○10000G払い、衣服を作製して貰いますか?
俺はYESを選択。
「アンタは男、女、どっちだい?」
「このババアを殴って良いか?」
「「「アハハハハハハハハハハッ!!」」」
「「「フフフフフフフフフフフフフ!!」」」
二十三人プラス人形二体の笑い声が響く!
「お、落ち着いて、マスター……ブフッ! そういう決まりだからフフフフフフ……ブフフフハハハッ!!」
「相手はNPCだ。マジになるな……クククク、ハハハハハハハハハ!!」
メルシュにジュリー、覚えてろよ! 今晩は寝かせねー!!
「俺は男だ!」
チョイスプレートで男を選択!
「職業は戦士? それとも魔法使い?」
戦士を選択。
「魔法はどれくらい使う?」
使わない、あまり使わない、かなり使う、もの凄く使うの中からあまり使わないを選択。
「近接戦、中距離戦、遠距離戦、どれが得意だい?」
近接戦を選択。
「スピードとパワー、どっちが大事だい?」
……どちらかと言えばパワー主体か。
ていうか、こうやってアイテムの条件を絞っていくのか。
パワーを選択。
「得意な属性は?」
「属性か……」
一番使うのは竜属性か。
火、水、風、氷、闇、光、竜、古代の中から竜属性を選択。
「種族は?」
異世界人、獣人、人魚と出たので異世界人を選択。
「質問は以上だよ。ちょいと待ってな」
どこからともなく大量の布が店のカウンターに置かれ、お婆さんが鋏と針を持って高速で手を動かす!
「キェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッッッ!!」
かん高い奇声を上げたと思ったら、お婆さんの手には一枚の服が!
「アンタには、この“偉大なる竜戦士の服”がお似合いだよ」
伸縮性のある、表面がザラ付いた黒に、銀と赤色のラインが入ったズボン付きの服。
「Aランクの防御向きの服だね。竜属性に強く、竜属性攻撃を僅かに強化してくれるよ。肉体の再生能力も上がるみたい」
「なら、メグミさん向きかな?」
どうせ俺は装備出来ないし、竜属性スキルを多く持ち、盾によるタンクを務めるメグミさんは肉体の消耗も激しいだろう。
「私が貰っても良いのか?」
「一番役立てられる人が身に着けるべきかと」
メグミさんに差し出す。
「羨しいわね、メグミちゃん。服の名前も偉大なって付いてるし、コセさんとペアルックみたいね~♪」
サトミさんの一言に……なんとなく空気が凍った気がした。
さっきまで笑ってた集団はどこに行ったの?
「へ、変なこと言うなよ! ……その、ありがたく使わせて貰おう」
頬を赤くしたメグミさんだけが、なんだかあったかそうだった。
●●●
全員が質問に答えて服を手に入れた後、神秘の館のリビングに移動。
「新しい服……良いわね、アオイ」
「前のはアヤナより低級だったんだから、別に良いでしょ」
アオイの動きやすそうな緑色の服、“器用戦士服”を見て、羨ましがっているアヤナ。
「サトミ様……この服はさすがに……」
「よく似合ってるわよ、リンピョンちゃん♡ すっごくエロいわ♡♡」
なぜかサトミは、質問の中で戦士と答え、種族を獣人と偽り、以前のリンピョンの格好に酷似した、より過激な服を手に入れた。
あの穴だらけの水色ライダースーツみたいだったのが、より大胆な露出の藍色の服に変わっただけ……うん、私にあの格好は無理だ。
「タマさん、凄く似合ってます!」
「格好良さの中に、可憐さがあるわね」
「か、可愛い~♪」
「素敵ですよ、タマさん」
「あ、ありがとうございます……フリフリで恥ずかしい」
タマは格好いい鎧のようなデザインの白い衣服、“敬虔な獣人ドレス”を着て、スゥーシャ、ユリカ、クマム、ヨシノに褒められていた。
結局、“気紛れ見繕い婆さん”のところでランクの高い自分に合った服を手に入れられたのは四人だけ。
「どうかしたのか、ルイーサ?」
メグミさんが話し掛けてきた。
「……いえ」
メグミさんがコセから服を受け取ったのを見て……胸がチクッとしたなんて言えない。
まさか、自分が異性関係で嫉妬する日が来るとは。
「ちょっと剣を振ってきます」
悩ましい感情に振り回されるこの感覚……甘酸っぱくも切なくて…………嫌いな感覚だ。
●●●
「また隠れNPCだけ対象外になってたし!」
「まあまあ」
イラ立ちげなメルシュを宥め、ご主人様とクリスの四人でお店を回っていた。
“気紛れ見繕い婆さん”の気紛れは、メルシュ達隠れNPCには起きなかったのである。
ま、隠れNPCの衣服系装備は高ランクな上、専用の物が最初から用意されてますからね。
「店によって売っている素材が違うんだっけ」
「それに、出来上がった物はほとんど売っていないようですね」
そのため、機織りの町の店を、もう八軒もハシゴしていた。
「チラホラプレイヤーも居るし、そろそろ夕方だから戻ろうか」
「その前に、集めた素材で服を注文させて。マスター」
「私にぃは、NPCとプレイヤーの区別、なかなかつきませぇん。ゲームプレイ、ろくにしたことないからですかぁ?」
たまに異世界人の人が口にするゲームというのが、よく分からない。
私達獣人の感覚で言うと、ゲームって言うのはルールのある遊びを差す言葉。
間違っても、このダンジョンの中で起きている事を遊びで楽しむなんてあり得ない。
「トゥスカさん達はぁ、昔から獣人だったぁですか?」
「ええ、そうですけど……」
クリスの突然の質問に、疑問を抱く。
「この世界には、人魚やエルフ、他にも様ざぁまな種族が居るんでぇすよね?」
「はい。私は、獣人以外の種族に会ったことはありませんでしたが」
「…………だとすると、やっぱり人類の起源が一つとする方に……無理があるのかもしれませぇん」
クリスさんの言っていることは、難しくてよく分からない。
そうこうしているうちに、私達は仕立屋に辿り着くのだった。
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