ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

186.古城の探索

 メグミが、四色の長方形の盾を掲げ、フレイムウルフの炎の弾を防ぐ。

「今だ!」
「オケッ!」

 クリスティーナが踏み込み、“薔薇騎士の剣”Sランクを振り下ろす。

 綺麗に両断されるフレイムウルフ。

 契約したサトミのLvが高いのもあるけれど、思いきりが良いからこその結果。

「クリスちゃん、上達が早いんじゃない?」
「そぉですか? だったら嬉しいでぇす!」

 サトミ、年上でも関係なくちゃん付けなんだ。

「それにしても、地下に降りただけで雰囲気が一変するのね。モンスターまで出て来るし」

「地下の最奥まで進むと、ボス部屋に辿り着くのよね? メルシュ」
「うん、そうだよ」

 リンピョンの尋ねに答える。

 クリスの戦闘訓練もかねて、宝箱からアイテムを回収するために古城遺跡の地下へとやって来ていた。

 ここの宝箱は、稀にAランクが出るし。

「橋を渡った一階部分だけがこれまでの村や街と同じ扱いで、それ以外はダンジョン扱いなの。上は甲冑系、下は生物系モンスターが出て来る仕様になってるよ」

 甲冑系の方が強いから、本当は上の方がレアアイテムが出やすい。

 ただ、戦闘経験の無いクリスには荷が重いと考えてこっちに来た。

 地下の方が、色んなタイプのモンスターが出て来るから実力を見やすいし。

「今度は魔法を試してみます!」

 薔薇騎士特有の魔法か。

 奥の天井から、張り付きヤモリが数体接近して来ている。

「“薔薇魔法”、ローズフラッシュ!!」

 紅い薔薇が舞い、ヤモリに張り付いていって動きを拘束。

 やがて、光に変えていく。

 拘束と持続ダメージを発生させる魔法か。

 職業は戦士だけれど、バランスの取れた能力みたい。

 昨日のドレスの上に、専用装備の“薔薇騎士の鎧”Sランクを着ているクリス。

 隠れNPC扱いのプレイヤーっていう特殊な存在だけれど、精神的にも能力的にも戦力になりそう。

 問題は、彼女がという点か。

 彼女からの情報により、私達の間に不和が発生しなければ良いんだけれど。


●●●


「“爆走”!」

 黒い煙を上げながら、トゥスカが甲冑のモンスター、リビングアーマーに急接近。

「ハァッ!!」

 ただの蹴りで、その胸を貫いてしまう。

「“古代王の転剣”!」

 昨日手に入れた”転剣倉庫の指輪”を使って、古代文字のような物が刻まれた石っぽいブーメランを手にする。

「“二重武術”――ハイパワーブーメラン!!」

 “荒野の黄昏の目覚め”と共に投げ、リビングアーマー五体をあっという間に切り裂いた。

「新しい装備の使い心地はどうだ?」
「良いですね。状況に置ける対応力が、地味に上がってます。あとは、私が使いこなせるかどうかですね」

 良いな……俺は新装備が無いから。

 強力な武器がそれなりに揃ってるから、当然と言えば当然なんだけれど。

「“悪穿うがち”――おりゃ!!」

 少し離れた場所で、“巨悪を穿て”を投げて甲冑を貫くザッカル。

「“雪玉発射”!」

 リビングアーマーを雪で固め、その隙に氷の斧で切り裂く牛獣人のノーザン。

 銀の鎧を身に着けた、白味がかった青髪と二本角を持つ小柄な少女。

「”レーザーソード”に刀身は無いし、そこまで邪魔にならないな。メインはこの黒い投剣槍で、“レーザーソード”が予備武器ってところか。ククク、気に入ったぜ!」

 ザッカルは、どんどん戦い方が多彩になっていくな。扱う武器の種類が変わっていくし。

「この鎧の効果なのか、背中に武器をくっ付けられるし、思ってたほど邪魔にならねー」

 “漆黒の軽鎧”の効果か。

「今日も休みなんだから、別に俺に付き合わなくても良かったんだぞ?」
「ご主人様、一人で探索するのは危険です! ついて行くに決まってるじゃないですか!」
「俺は身体を動かしたかったし、気にすんな」
「コセ様とお姉様のお供をするのは、僕にとって当然のこと」

 なんだかな。

 久し振りに、誰の目も気にせず行動したくなってしまったんだだけれど……ま、俺の我が儘だよな。

「にしても、豪華な城だな……その辺蔦だらけだけれど」
「そうですね……落ち着かないですけれど、一度くらいはこういう場所に住んでみたくなります」

 ザッカルもノーザンも、意外と乙女だ。

「この部屋なんて、良いですよね」

 と言って、部屋に入ってしまうトゥスカ。

「宝箱がありましたよ」

 俺達が部屋に入る頃には、既にトゥスカによって開けられていた。

「”ブラックオリハルコンの生織物”という素材みたいですね」

 オリハルコンって名前が付いていると、なんか凄そうだな。

「大きなベッドですね…………ゴクり」

 今、ノーザンから生唾を飲み込む音が……。

「ノーザンに譲ってあげるわ。私達は出口に居るから」
「頑張れよ、ノーザン」

 そう言って、部屋を出て行くトゥスカさんとザッカル……トゥスカさん?

「ありがとうございます、トゥスカお姉様! ザッカルさん!」
「ノーザン……本気か?」

 小柄な女の子が、窓からの陽射しを浴びながら真っ直ぐに俺を見詰めている。

「僕はもうキスしてますし……指輪も、最高級ですから、コセ様の愛に疑いようがありません♡」

 ……最近、抵抗が無くなって来ている自分が居る。

「ノーザン……将来を共にしてくれるって、誓えるか?」

「もちろんです!」

「……ありがとう、俺を選んでくれて」
「僕こそ……光栄です」

 ノーザンが、銀の軽鎧と白い服を脱ぎ出す。


●●●


「貴方は……」

 剣を背負った白面と紫のロングパーカーの巨漢が、翠の人魚と白髪の一本角の少女と共に歩いてくる。

「キクルの知り合い?」
『どちらも覚えは無いが……』

「失礼しました。私の名はトゥスカ。昨日はご主人様を助けてくださったそうで、ありがとうございます」

 警戒したまま、頭を下げた。

「ああ、アンタが。俺からも礼を言うよ。俺の旦那を助けてくれてあんがとな」

 ザッカル……ま、いっか。

『昨日の彼の仲間か……また美人だな』
「キクル?」

 翠の人魚が、トライデントから雷を迸らせる。

 フーン……そういう関係ですか。人魚の方は、異世界人嫌いだとナオから聞いていたのに。

『ウウン! ……俺たちは、これから地下に入る。彼によろしく言っておい――』


「コセ様、キス上手い♡♡♡ んっ♡♡ ん♡♡♡ もっと……来てっ♡♡♡ ああッ♡♡♡♡」


『「「……そこでヤッてんのかよ」」』

 ……ご主人様、ノーザン……ごめんなさい。

『相手は昨日の二人のどっちかか? 羨ましい!』
「――キクル?」

 さっきよりも、強めに雷を煌めかせるグダラ。

『ヒッ!! ……そ、それでは失礼する!』
「じゃね、獣人のお姉さん達!」
「……ナオの仲間なら、心配は要らないか」

「三人とも、ご武運を」
「気を付けてな」

 ……そういえば、魔法の家がある空間以外だと観測者に見られ…………二人には黙ってよ。

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