ダンジョン・ザ・チョイス
161.婚姻ランクの正体
結婚式ののち、昼まで自由行動となったため、俺はメルシュを部屋に呼びだして尋ねた。
今まで気にしてこなかったが、モモカに対して”最高級の婚姻の指輪”が生まれた事で、俺は悩んでいる。
自分が、モモカのような少女にまで性的欲求を抱いてしまうような男だったのかと!
「なんとなく気付いてたと思ってたけれど……ま、教えてもいっか。簡単に言うと、愛だね」
「愛?」
「相手に対し、どれだけの愛情を向けられるか。具体例は無粋でしかないから上げないけれど、相手と、とても深く深く深く想い合っている必要があるんだよ」
想いとか言われると、どのくらいでランクの線引きがされているのか分からないな。
「マスターは多分、根底には博愛主義があるんだと思うよ」
「人類は皆、異常者とか思っている男なのに?」
「マスターは分かってるんだよ。博愛主義の虚しさ。矛盾点に」
「……そうかな」
博愛主義の……虚しさね。
「他人を異常者呼ばわりする人達はたくさん居るかもしれないけれど、マスターは決定的に違う点があるでしょう」
目頭が、少し熱くなってきた。
「自分を含めて異常だと言える人間が、世の中にどれだけ居ると思う?」
異常じゃない人間なんて居ない。
自分は正常だと思い込んでいる、もしくは正常だと思いたい人間だけ。
自分を異常だと、正しくないと認めたら、どうやって生きれば良いのか分からなくなるから。
人間は、生きるという行為そのものが、なんらかの形で他者を傷付ける許されない事だと、本能的に理解しているから。
だから、自分の行動に正当性を持たせるために、物事を美化し、世界を虚飾し、真理を捻じ曲げようとする。
それが、自分で自分を食い散らかす行為だと気付かずに。
「大丈夫、マスター」
「……ああ」
以前から漠然と思っていたけれど、神代文字を刻んだ際に流れ込んでくる奔流に苛まれたときと、似た感覚に陥っていた。
「……アテルの言っていた意味……本当は分かるんだ」
身体から力が抜け、膝を付く。
あの奔流が神の意思なのだとしたら、神は……本当に人類の滅びを願っている。
少なくとも、俺達のような異常な人類の淘汰を望んでいる。
「落ち着いて、マスター。焦っちゃダメ」
メルシュが抱き締めてくれた。
「マスターなら、いずれその枠から飛び出すことが出来る。人間を越えて、人になれる日が来る。それを助けることで、結果的に私達、隠れNPCも救われる」
頭を掴まれて、上を向けさせられ、視線が交わる。
NPCとは思えない、メルシュの生きた目と。
「マスターの人としてのあり方が、トゥスカ達を導いてる。だから諦めないで。私も……マスターを支えるから」
メルシュの唇が、俺の唇に重ねられた。
「それにね、私にだって……トゥスカみたいに甘えても良いんだよ♡」
メルシュの女になってる顔、初めて見たかもしれない。
「本当は、メルシュが甘えたいんじゃ……」
「だったら……今から甘えても良い?」
身体に、力が戻ってきた。
とても俗的で、甘美な力が。
「私に子供は出来ないから……生で良いよ♡」
メルシュを抱き上げ、俺のベッドに連れ込む。
「一応処女だから……最初は優しくね♡」
「……ああ」
この日初めて、俺はメルシュを抱いた。
★
昼過ぎ、メンバー全員で中央区の冒険者ギルドへとやって来た。
「レギオン結成の手続きを」
メルシュが受付嬢の一人に申し込む。
ギルド内部には、他レギオンの名前や規模、軍団長の顔や名前が書かれている。
公開される情報、結構多いな。
「他レギオンに加入申請することも出来ますが、結成ということで宜しいですか?」
「加入申請?」
「申し込んで、既に先に進んでいるレギオンメンバーになることで、質の良い武器を恵んで貰ったりするんだよ」
それは、攻略が楽になりそうだな。
「その代わり、この方法でレギオンに入ると従属契約って事で、軍団長の許しなくレギオンから抜けられなくなるから」
第九ステージまでに出来るだけ仲間を集めるって言ってたのは、このためか。
ここから先は、基本的にレギオンに所属している者がほとんどだろうし、中には安全を求めて上位レギオンに入った者も居るだろう。
ここから先は、仲間集めが難しくなる。
奴隷を買うという方法を除いて。
「結成で続けて」
「承知しました。では、軍団長になる方は100000Gお支払いください」
手続き料って事か?
「マスター」
「ああ」
出現したチョイスプレートに触れ、俺がお金を払う。
「では、軍団長コセ様。レギオンの名前を入力してください」
「ああ……考えてなかったな」
言っておいてよ、メルシュ。
「ハーケンクロイツ、もしくはラストバタリオンっていうのは?」
メルシュの提案、響きは格好いい気がする。
「誰か、他に案はあるか?」
「リアルハーレム軍団!」
「茶色い剣士!」
「却下」
ユイとジュリーのネーミングセンス、酷すぎるだろ!
それに、茶色い剣士って俺のこと?
「サトミと愉快な仲間達って言うのはどうかしら~?」
「「「却下」」」
わざと言ってるだろう!
「あら、残念」
これだと、メルシュの案のどちらかかな。
「他のレギオンは色々ですね。《ゴムゴムのカメハメハ》とか、《邪眼に見初められし者達》、《プリティームーン》、《ガンターク》、《剣の芸術》、《マジックスクール・見せかけの劣等者》、《ターミロイド》、《円卓の騎士》、《結社タスラム》、うわ、芸能人の名前のレギオンが……」
クマムが参考例を示してくれる。
「こっちは、《攻略中毒》、《英雄願望》、《不倫はブランド》、《愛国天誅》、《陵辱上等》、《ウルトラ仮面》、《メタル戦隊》、《一番星》、《シャーマンプリンス》」
ザッカル、わざと変な名前の奴をチョイスしてない?
「アテルとかいう奴のレギオンは、《日高見のケンシ》って言うらしいぜ」
意味はよく分からないけれど、凄いまともだ! この中では!
「どうするかな」
パッとしたのが思いつかない。
「ここで決めたら、もう二度と変更出来ないからね」
余計に悩むな!
「龍意の英雄と言うのはどうでしょうか?」
牛獣人のノーザンからの提案。
「……ノーザンのアイディアを貰って、龍意のケンシじゃダメかな?」
「良いですね! それにしましょう、コセ様!」
原案のノーザンが気に入ってくれる。
「アテル達への対抗意識ですか?」
尋ねてきたのはトゥスカ。
「というよりは、アイツへのメッセージって言うか……決意表明かな」
「龍意……つまり天意というわけか。ある意味傲慢だな」
ルイーサの指摘はもっともだ。
お前よりも、俺の方が正しい! て言う意味だと、アイツは受け取るだろうな。
「なんか格好いい! リュウってところが好き!」
俺の一番小さなお嫁さん、モモカがとても喜んでくれている。
「決まりみたいだね」
「だな」
チョイスプレートに、レギオン名を入力する。
俺達のレギオンの名前は、《龍意のケンシ》で決まった。
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