ダンジョン・ザ・チョイス
150.危ない女達
「ええ。それに、杖の見た目と名前も変わったわよ」
ユリカが戻ってきて、リビングで皆に成果を報告していた。
「なんて名前なんだ?」
「……」
なぜ黙る!
「”荒野の黄昏は色褪せない”と比べて、どっちの方が変なんだ?」
「ご主人様、ハッ倒しますよ」
「ごめんなさい」
最近のトゥスカ、尻に敷こうとしてくる気がする。
「……ドッコイドッコイよ」
凄い聞きたい!
「で、どんな名前なんです?」
俺が昔笑ってしまったせいか、トゥスカさんの圧力が凄い。
「……れ、“煉獄は罪過を払いけり”……よ」
……思ったほど笑えない。
「私が今日手に入れた、“紺碧の空は憂いて”も文字を刻めるんでしょ? 文字に対応した武器って、変な名前が多いわよね」
サトミさんが変って言っちゃった。
「タマさんとノーザンさんの武器の名前も……変わってる」
ユイの言葉に、全員がジュリーの顔を見詰める。
「……言っておくけど、神代文字に対応してる武器って私が知らない物しか無いからな。多分、オリジナルには無かった物をデルタが加えたんだろう」
「てことは、あの名前のセンスの持ち主がデルタ側に居るんだな」
詩的な気もするけれど、厨二病っぽい気もする。
「でも、コセのだけ名前のセンスが違うわよね」
「”サムシンググレートソード”だからな」
ナオの言葉に、実体化させて見る。
「それは元々、龍の民からこの世界にもたらされた剣ですので」
なぜか、ノーザンが答えた。
「へと……この世界にって事は、別の世界から来た剣ってこと?」
「元々はコセ様の世界にあった物のはずです。それ以前に関しては分かりませんが」
「……そうなんだ」
俺の世界にあった剣……でも、向こうの世界から持ち込んだ物はアイテムとして認識されていなかったよな?
……元を辿れば、この世界にあった物なんじゃないのか?
「まあまあ。ユリカさんも疲れてるでしょうし、この話はここまでにしましょう」
「そうだね」
なんか、サキに無理矢理遮られ、シレイアがそれをアシストしたみたいな感じだな。
隠れNPCにとって、都合の悪い話しなのだろうか?
「マスターは、例の特訓を続けようか」
「ああ、うん」
メルシュも露骨に話しを変えに来るし……なんだかな。
まあ、メルシュ達が敵対するとは考えづらいし、別に良いか。
●●●
「ねー、ジュリー。私達は例の魔女のイベント、やらなくて良いの?」
アヤナが尋ねてきた。
「あれは隠れNPC入手のためのイベントだから、一度クリアされると二度と起きないらしい」
元々はオリジナル版にあった期間限定の隠しイベントの一つで、ユニーク魔法である”星屑魔法”が使えるようになるというものだった。
もしかしたら、オリジナルの期間限定のイベントも幾つか実装されてるかも。
思い出せる限り、これからは確認してみようかな。
「ジュリー、これあげる」
メルシュが差し出して来たのは、ユリカが持ち帰ってきたスキルカードの一枚。
「“冥雷魔法”か」
闇と雷の二種属性の魔法。
「“天雷魔法”ならともかく、他の雷属性の魔法は私には必要ない。メルシュが使ったらどうだい?」
魔法スキルなら、上限無しで修得出来るんだから。
「先に進めばこのくらいの魔法は幾らでも手に入るだろうし……武術系のカードと合わせてサブ職業にしちゃうのもありかな」
「次の水上都市でなら、基本的な武術系カードは揃えられるしな」
深淵魔法のスキルカードはたくさんあるから、都市に居る間にサブ職業化しておくのも悪くない。
「私も、そろそろ新しい攻撃手段が欲しいところなんだけれど……なんかないの、メルシュ?」
「今回ユリカが手に入れてきた“混沌魔法”は私が貰うつもりだし、”煉獄魔法”はユリカ用に“煉獄爪使い”のサブ職業にするつもりだし……うん、アヤナは“闇属性強化”を持ってるから“冥雷魔法”も良いかもね」
「あら良いの? 催促したみたいで悪いわね!」
「でも、サブ職業化して使った方が良いかな」
サブ職業欄は、魔法使い職の人間は持て余し気味だからちょうど良いだろう。
「雷が有利な敵のときには、フェルナンダだけでなく戦士職のルイーサやアオイだって使えるしな」
精霊魔法に雷属性は無いから、アヤナよりもフェルナンダの方が使うことが多いかもしれない。
「まあ……そうね。その方が良いかもね。じゃあ、サブ職業には私がやっておくわ」
アヤナはカードを受け取ると、なにかを逡巡しているよう。
「……覚えたスキルをカードにする方法って、あるのかしら?」
「あるよ。“空白のスキルカード”というのを使えば良い。手に入るのはまだ先になるはずだが」
「そう……ありがとう」
私に礼を言うと、アヤナは部屋を出て行った。
●●●
「なに、フェルナンダ?」
夜中に、わざわざ隠れNPC全員を自分の部屋に呼び出すなんて。
マスターであるコセは、今夜はトゥスカとユリカと一緒だからいつも以上に騒がしいし、今日はサトミの部屋からも嬌声が聞こえてきた。
秘密裏にNPCだけで話してるのがバレるのは怖いから、出来るだけ避けたいのに。
「ノーザンという女、始末しておくべきではないのか?」
以前、私も似たような事を考えたっけ。
「却下よ。そんな事をして、せっかくの神代文字を操る者達の信頼を失いたくないもの」
「秘密裏にやれば良いだろう」
「ノーザンも神代文字を刻むことに成功した。つまり、少なからず世界があの子を認めたんだ。そう簡単に殺せるわけが無い」
シレイアも、フェルナンダを諫めようとしてくれる。
「あまりおかしな事を話されて、我々が意図しない方向に進んだ結果、覚醒しきれない可能性も出て来る」
「一理ありますけれど、その程度のことでダメになるなら、しょせんその程度だったと言うことでは?」
フェルナンダを諫めるために発せられたサキのドライ発言は、普段の彼女の雰囲気と懸け離れているため、少し怖い。
「……まあ、確かにその通りだな。で、次の話だ……ルイーサという女は……いったいなんだ?」
「彼女がどうかした?」
フェルナンダが直接契約した相手。
私達じゃ感じ取れないようななにかを、彼女から感じ取ったのかな?
「時々だが、違和感を感じる。あの女は、根本的に違う次元からやって来た存在……なのではないかと……思いたくなるのだ」
「例えば、aからaではなく、bからaにやって来たみたいな?」
「ああ、そうだ。まあ、この世界のルールがコセ達の世界のルールから変質し過ぎているため、かなりおかしくなっているが。本来はaなのに、bになりつつある感じでな。なら、b系統からこの世界に干渉してきた可能性も考えられる」
根本的に違うルールの世界からとなると、計りかねる部分が出てくるか。
「だけれど、ルイーサはコセ達と同じ世界から来たはずだ。なら、別の系統がaに干渉したことになる。既に神に見放されたと言って良いa系統にわざわざ、神代文字を引き出す素質を持った者を」
シレイアの言うとおりだ。
「何者かは分からないけれど、誰かが彼女を使ってなんらかの干渉をしようとしてきたのかも」
この世界に飛ばされる事まで、計算付くかは分からないけれど。
「暫くは、注視しておくで良いんじゃないですか?」
「そうね」
「んだね」
「分かった。任せろ」
サキの提案に、全員がひとまず同意した。
それにしても、元は同じ存在なのに、わざわざ言語なんていう未熟な意思疎通手段を取らないといけないなんて……歯痒いわね。
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