ダンジョン・ザ・チョイス
148.紺碧の空は憂いて
「……ぅうん」
冷たい空気を恋しく感じながら、意識が覚醒していく。
「サトミ様、目が覚めましたか」
綺麗な青い髪のツインテールと、白いウサギ耳が見える。
「リンピョンちゃん、怪我は?」
「私は大丈夫です。むしろ、サトミ様の方が重傷でしたよ」
そう言えば、お腹に大きな穴が……。
「魔法で治したけれど、大分血を流してたから、なにか食べた方が良いよ」
メルシュちゃんと、タマちゃんが近付いてきた。
「マスターに言われて追い掛けたんだけれど、霧で見失っちゃって。見付けられなかったら危なかったよ」
助かったのは、コセさんのおかげでもあるのね♡
「正直、あんなに強いモンスターが出て来るなんて思いもしなかったわ」
レベルも装備もこの辺の適性レベルを大きく越えてるって聞いてたから、油断しちゃった。
「あれはレアモンスターの一種みたい。極めて遭遇率が低いから、運が悪かったのか良かったのか。きっと、良い物が手に入ったんじゃないかな?」
「良い物?」
チョイスプレートを開いて、確認してみる。
○“紺碧の空は憂いて”を手に入れました。
「なにかしら、これ?」
名前からじゃ、どういう物なのか全然分からない。
「あ、武器なのね、これ」
適当に操作したら、サブ武器の所にセット出来た。
「……杖?」
実体化すると、逆三角の盾が付いた大きな杖に?
「盾と杖の複合武器だね。それに……神代文字に対応してるみたい」
「へー、そうなんだ~♪」
メルシュちゃんが教えてくれた内容に、思わず喜んじゃう!
これで、トゥスカちゃん達と同じ土俵に立てそう♡
「そう言えば、皆は?」
「ここは元々予定してた大樹前の安全エリアだから、まだ暫く掛かるんじゃないかな」
大樹?
「あら本当」
背後に、葉っぱが一枚も生えていない黒い巨大な木が。
よく見ると、木の奥が赤く明滅しているみたい。
「不気味な木ね~」
「悪い魔女が、栄光の魔女と木の精霊によって封印された大樹だからね」
そういう設定なんだっけ。
「じゃあ、私は一足先に館に戻って、草餅を完成させようかしらね♪」
あれ以来、まだ状態異常の治療アイテムとなる草餅のレシピを確立できていないの。
もう少しで、どの材料をどれくらい使えばアイテム化するのか分かりそうなのよね~。
●●●
「ようやく……見えてきたわね」
アヤナが、いかにも疲れたように言葉を紡ぐ。
「おーい!」
メルシュとタマの姿に、取り敢えず安心する。
二人は大樹の前、明らかに土が乾いている場所に居た。
「サトミさんとリンピョンは?」
「二人は館に戻って、草餅の改良するって」
メルシュが答える。
「良かった。無事か」
「皆さん……泥だらけですね」
俺達の姿を見たタマが苦笑い。
度重なるグリーンビーストとの戦闘で、濡れた土が跳ねて皆汚れていたのだ。
「ここに居る全員で、一度にお風呂には入れないな」
「男湯も使えば良いじゃない」
メグミさんの何気ない言葉に、ナオがなんて事のないように答える。
「そ、そうだな。俺が我慢すれば……」
こういうとき、男一人って肩身が狭いな。
男同士の裸の付き合いなんて、ストレス溜まって嫌だけれど。
「なに言ってるのよ? 奥さんならなんの問題も無いでしょう」
ナオさん!?
「……そうですね」
別の意味での問題が……我慢出来るかな?
「私も、コセと一緒に入りたい」
「「「「「「へ?」」」」」」
モモカの言葉に、正式な妻五人と俺が気まずい声を出す。
「ダメ?」
「いや……」
相手は七歳…………倫理的に微妙。
意識している俺って……もしかしてヤバいのかな?
それに、今は平気でも、のちのちモモカの心の傷になるのでは……。
『モモカ姫!! この黒ピカと一緒に入ろうぞ!』
「イヤ!」
『そ、そんな!!?』
――モモカに不条理な名を付けられた騎士モンスターへの同情心が、一気に無くなった。
これからはアイツのこと、心の中でロリ騎士って呼ぼうかな。
「黒ピカ……館の中に出入り禁止ね」
『なぜだぁぁぁぁぁぁ!!』
サキの目が冷たい。
「ありがとう、サキ! 大好きーー!!」
「えへへへへ、どう致しまして~♡」
モモカに抱き付かれて喜ぶサキ。
サキめ、黒ピカをダシに使ったな。結果的にかも知れないけれど。
●●●
「気を付けてな、ユリカ」
「……うん、行ってきます」
夜、コセとキスをして、私は神秘の館から例の不気味な大樹の前に移動した。
夜風の匂いが鼻孔をくすぐり、初秋のような冷たさが私の不安を煽る。
コセの熱がもう恋しくて……唇だけがあたたかさを携えているよう。
「試し撃ちするには良い木ね!」
わざとらしく杖を振り、魔女が封印されているという大樹に杖を向ける。
「”煉獄魔法”、インフェルノカノン!!」
――紫の浄化の炎を、大樹にぶつけてやった。
『ギャあああああああああああああああああああああッッッ!!』
知っていたとはいえ、気味の悪い声ね。
『誰だ……この私に火なぞ付けてくれやがったクソ魔法使いは!』
「わ、私よ!」
魔法使いが火属性魔法を木にぶつけた場合にのみ発声するイベントが……始まった。
『こっちにおいで、罰当たりな魔法使いめ! 私に勝てたら良い物をあげようじゃないか! フェフェフェフェフェ!!』
木の幹が開き、赤い光が広範囲を照らす。
「……やってやろうじゃない」
ここまでが、偶然を装ってイベントを起こすための一連の行動。
つまり、第九ステージの隠れNPC、ドライアドを手に入れるための布石!
火属性で魔法使いしか受けられないと来たら、私しか居ないでしょ!
……独りでクリアしなきゃいけない。
その事に強い不安を感じながら、私は禍々しい赤い光の中へと踏み込んだ。
◇◇◇
『あら……やっぱりドライアド入手に動くのね』
ジュリーとかいう娘にオルフェが情報を流したって話し、どうやらマジのよう。
『レアモンスターの”紺碧のシムルグ”も倒されちゃったし、一人くらい私の手で始末しておきたいわ』
多少の悲劇は、物語を盛り上げてくれるものだもの。
『ピチピチの東洋人娘ってムカつくし』
東洋人ってだけで欧州人よりも若く見えがちとか、黄色人種は生意気なのよ!
まあ、ナオちゃんだけは別だけれどー!
『クククククク、見てなさい!』
”邪悪な魔女”のステータスを、大急ぎで書き換えてやるわ!! アハハハハハハハハハハハッ!!
冷たい空気を恋しく感じながら、意識が覚醒していく。
「サトミ様、目が覚めましたか」
綺麗な青い髪のツインテールと、白いウサギ耳が見える。
「リンピョンちゃん、怪我は?」
「私は大丈夫です。むしろ、サトミ様の方が重傷でしたよ」
そう言えば、お腹に大きな穴が……。
「魔法で治したけれど、大分血を流してたから、なにか食べた方が良いよ」
メルシュちゃんと、タマちゃんが近付いてきた。
「マスターに言われて追い掛けたんだけれど、霧で見失っちゃって。見付けられなかったら危なかったよ」
助かったのは、コセさんのおかげでもあるのね♡
「正直、あんなに強いモンスターが出て来るなんて思いもしなかったわ」
レベルも装備もこの辺の適性レベルを大きく越えてるって聞いてたから、油断しちゃった。
「あれはレアモンスターの一種みたい。極めて遭遇率が低いから、運が悪かったのか良かったのか。きっと、良い物が手に入ったんじゃないかな?」
「良い物?」
チョイスプレートを開いて、確認してみる。
○“紺碧の空は憂いて”を手に入れました。
「なにかしら、これ?」
名前からじゃ、どういう物なのか全然分からない。
「あ、武器なのね、これ」
適当に操作したら、サブ武器の所にセット出来た。
「……杖?」
実体化すると、逆三角の盾が付いた大きな杖に?
「盾と杖の複合武器だね。それに……神代文字に対応してるみたい」
「へー、そうなんだ~♪」
メルシュちゃんが教えてくれた内容に、思わず喜んじゃう!
これで、トゥスカちゃん達と同じ土俵に立てそう♡
「そう言えば、皆は?」
「ここは元々予定してた大樹前の安全エリアだから、まだ暫く掛かるんじゃないかな」
大樹?
「あら本当」
背後に、葉っぱが一枚も生えていない黒い巨大な木が。
よく見ると、木の奥が赤く明滅しているみたい。
「不気味な木ね~」
「悪い魔女が、栄光の魔女と木の精霊によって封印された大樹だからね」
そういう設定なんだっけ。
「じゃあ、私は一足先に館に戻って、草餅を完成させようかしらね♪」
あれ以来、まだ状態異常の治療アイテムとなる草餅のレシピを確立できていないの。
もう少しで、どの材料をどれくらい使えばアイテム化するのか分かりそうなのよね~。
●●●
「ようやく……見えてきたわね」
アヤナが、いかにも疲れたように言葉を紡ぐ。
「おーい!」
メルシュとタマの姿に、取り敢えず安心する。
二人は大樹の前、明らかに土が乾いている場所に居た。
「サトミさんとリンピョンは?」
「二人は館に戻って、草餅の改良するって」
メルシュが答える。
「良かった。無事か」
「皆さん……泥だらけですね」
俺達の姿を見たタマが苦笑い。
度重なるグリーンビーストとの戦闘で、濡れた土が跳ねて皆汚れていたのだ。
「ここに居る全員で、一度にお風呂には入れないな」
「男湯も使えば良いじゃない」
メグミさんの何気ない言葉に、ナオがなんて事のないように答える。
「そ、そうだな。俺が我慢すれば……」
こういうとき、男一人って肩身が狭いな。
男同士の裸の付き合いなんて、ストレス溜まって嫌だけれど。
「なに言ってるのよ? 奥さんならなんの問題も無いでしょう」
ナオさん!?
「……そうですね」
別の意味での問題が……我慢出来るかな?
「私も、コセと一緒に入りたい」
「「「「「「へ?」」」」」」
モモカの言葉に、正式な妻五人と俺が気まずい声を出す。
「ダメ?」
「いや……」
相手は七歳…………倫理的に微妙。
意識している俺って……もしかしてヤバいのかな?
それに、今は平気でも、のちのちモモカの心の傷になるのでは……。
『モモカ姫!! この黒ピカと一緒に入ろうぞ!』
「イヤ!」
『そ、そんな!!?』
――モモカに不条理な名を付けられた騎士モンスターへの同情心が、一気に無くなった。
これからはアイツのこと、心の中でロリ騎士って呼ぼうかな。
「黒ピカ……館の中に出入り禁止ね」
『なぜだぁぁぁぁぁぁ!!』
サキの目が冷たい。
「ありがとう、サキ! 大好きーー!!」
「えへへへへ、どう致しまして~♡」
モモカに抱き付かれて喜ぶサキ。
サキめ、黒ピカをダシに使ったな。結果的にかも知れないけれど。
●●●
「気を付けてな、ユリカ」
「……うん、行ってきます」
夜、コセとキスをして、私は神秘の館から例の不気味な大樹の前に移動した。
夜風の匂いが鼻孔をくすぐり、初秋のような冷たさが私の不安を煽る。
コセの熱がもう恋しくて……唇だけがあたたかさを携えているよう。
「試し撃ちするには良い木ね!」
わざとらしく杖を振り、魔女が封印されているという大樹に杖を向ける。
「”煉獄魔法”、インフェルノカノン!!」
――紫の浄化の炎を、大樹にぶつけてやった。
『ギャあああああああああああああああああああああッッッ!!』
知っていたとはいえ、気味の悪い声ね。
『誰だ……この私に火なぞ付けてくれやがったクソ魔法使いは!』
「わ、私よ!」
魔法使いが火属性魔法を木にぶつけた場合にのみ発声するイベントが……始まった。
『こっちにおいで、罰当たりな魔法使いめ! 私に勝てたら良い物をあげようじゃないか! フェフェフェフェフェ!!』
木の幹が開き、赤い光が広範囲を照らす。
「……やってやろうじゃない」
ここまでが、偶然を装ってイベントを起こすための一連の行動。
つまり、第九ステージの隠れNPC、ドライアドを手に入れるための布石!
火属性で魔法使いしか受けられないと来たら、私しか居ないでしょ!
……独りでクリアしなきゃいけない。
その事に強い不安を感じながら、私は禍々しい赤い光の中へと踏み込んだ。
◇◇◇
『あら……やっぱりドライアド入手に動くのね』
ジュリーとかいう娘にオルフェが情報を流したって話し、どうやらマジのよう。
『レアモンスターの”紺碧のシムルグ”も倒されちゃったし、一人くらい私の手で始末しておきたいわ』
多少の悲劇は、物語を盛り上げてくれるものだもの。
『ピチピチの東洋人娘ってムカつくし』
東洋人ってだけで欧州人よりも若く見えがちとか、黄色人種は生意気なのよ!
まあ、ナオちゃんだけは別だけれどー!
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