ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

147.深き霧の森と紺碧の霧怪鳥

「凄いわねー」

 サトミさんが、目の前の景色に魅入っている。

 ダンジョン入り口の洞窟を抜けたら、暗く湿った、開けた森の中に出た。

 霧が漂うその中心には、黒い大樹が聳え立つ。

 荘厳というよりは、不気味な木だな。

「第八ステージは植物系のモンスターが多いけれど、フィールド効果で火属性攻撃の威力が半減するから、気を付けてね」

 メルシュが全員に、改めて注意を促す。

「暗めなのに、目がチカチカするな」
「だな」

 ルイーサの呟きに同意する。

 俺達が居た黒昼村は、一日中夜のように暗い。
 数日もの間そんな村で生活していたせいか、なかなか目が馴れない。

 ていうか、痛い。

「全員で行動出来るのは久し振りね! 早く行きましょう!」

 只一人、テンションの高いサトミさん。

「サトミさん、もうちょっと待とう」

 まだ目を開けていられない。

「仕方ないわね! 先に行ってるわ!」
「待ってください、サトミ様!」

 飛行魔法を使って、目の前左に広がる坂道を無視して進んでしまうサトミさんと、慌てて追い掛けるリンピョン。

 ウサギの獣人だからか、跳躍であっという間に降りていく。

「大樹の周りは安全エリアになってるから、昼までにそこまで行こう」
「二人と離れすぎるのはまずいか」

 ジュリーの提案を聞きながら、どんどん二人が離れていくことに不安を憶える。

「メルシュ、タマ、サトミさんを頼む」
「了解、マスター」
「分かりました」

 メルシュが魔法で、タマが青い大槍を使って追い掛けてくれる。

「そろそろ行こうか」

 さすがに、大分慣れてきた。

 飛行手段がある者も何人か居るが、飛べない者のために固まって動く。

「コセ……そろそろ来るぞ」

 ジュリーが警戒を促すと、湿った土からニュキニュキと蔦が生えてきて、葉を生い茂らせていく!

 葉が飛び千切れると舞い集まり、様々な動物のような形となって襲い掛かってきた!

「“雪玉発射”!」

 ノーザンが巨大な雪玉を次々と手から発射し、グリーンビースト達を光に変えていく。

「行くぜ!」

 ザッカルが、新しい武器であるレーザーソードで斬り込む。

 俺も前に出て、足の速い奴を狙ってサムシンググレートソードを振るう。

 今までと違って、生物っぽいようなそうでもないような、半端な躍動感に戦いづらさを感じるな。


●●●


「うーん、空気が美味しい~♪」

 冷たくて湿った空気……人肌が恋しくなるわねー♡

 私の好きな空気。

 私に、世界は冷たくて、寂しいと思わせてくれる。

 だからこそ、誰かを大切にしたいって思える。

 冷たい場所に居る方が、人間を暖かいと思えるから。

 普段は気を付けてないと、人間を虫ケラにしか思えないんだもの♪

「あら? なにか来る……」

 紺碧色の霧が、鳥の形で近付いてくる?

 それに――異様に大きい!?

「“颶風ぐふう魔法”、ストームバレット!!」

 新魔法を、“栄光の杖”から発動する。

『キルォォォォォォォォッッッ!!』

 速い! 翼に一発掠っただけで避けられた!

「く! “暴虐の風”!!」

 “ルドラの装身具”の強力な風を全身から放って、突っ込んできた鳥に接触する際の、攻撃的防御手段とする!

「うあぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 錐もみしながら、墜ちてる!!

「ウィンドカノン!!」

 無理矢理“風魔法”を使った反動で錐もみ状態から脱するも、地面が近い!!?

「サトミ様!!」

 ――横合いから抱き着かれて、すぐに全身を包むように密着されて、地面を転がっていく!

「うッ!!」

 転がっていくなか、女の子の呻き声!?

「ぁ……ぁ……」
「リンピョンちゃん!!」
 
 泥と血だらけになった、全身の至る所が紫に変色していくリンピョンちゃんが……目の前に居た。

「私を庇って……」

 私なんかのために、こんな怪我を……。

「無事ですか……サトミ……様……カフッ!!」

 口から血を!!

「ハイヒール!!」

 お願い、死なないで!!

「早く! 早く早く早く早く早く早く早く!」

 魔法なんだから、早くリンピョンちゃんを治してよ!!

「大分……楽になりました」

 確かに、血色が良くなってるわ。

 ……何でこの子は、こんなにも私に寄り添ってくれるのだろう……。

 私が半分冗談で勧めたエッチな服を、なにかに耐えるように着てくれるし……毒味も喜んでしてくれるし……。

『キルォォォォォォッッ!!』

 アイツの声。

「今回は私の浅はかな行動のせいで、この子に怪我をさせてしまった……だから、大人しく退くなら見逃してあげる」

『キルォォォォォォォォッッッ!!』
 
 ゲームのモンスターみたいな存在に、私はなにを言ってるのかしらね。

「来るなら――ぶっ殺す」

 霧の身体を霧散させ……消えた?

 でも、周囲よりも濃い色の霧がうっすら見える。

「“颶風魔法”」

 霧が左右に別れて移動し、私の後ろに向かって集まっていく。

「ストームカノン!!」

 振り返った一瞬で位置を確認して、紺碧の霧怪鳥にぶつける!

 風からリンピョンちゃんを庇いながら、倒せたかどうか確認。

 周囲に消滅の光は見えない。

 風魔法で倒しても、これまで光に還った場面は何度も確認している。

 つまり、まだあの鳥は生きてる!

『キルォォォォッッッ!!』

 今度は左から、猛スピードで突っ込んできた!?

「暴虐の!!」

 ――リンピョンちゃんの傍では使えない!

「く!」

 跳びあがり、鳥がリンピョンちゃんを傷付けないように誘導する!

「ああッ!!!」

 霧みたいな嘴なのに――深々と私のお腹にッ!!

 そのままリンピョンちゃんから大きく離れるのを待ち、森の木々にぶつかる前に減衰を始めたのを合図に、“暴虐の風”を使用!!

 首から下の身体が吹き飛ぶも、その首も消えて、再び離れた場所に集まっていく。

「ゥぐぅッ!!」

 周りが冷たいからか、自分の中から血と一緒に温かさが流れていくのが分かる。

 ……私って、ちゃんと血が通ってたのね。

『キルォォォォォォォォッッッ!!』

 また突撃してくるつもりの、霧の怪鳥。

「ゴフッ! ゴフッ! ……お礼……してあげる」

 私も人間だって感じさせてくれた――お礼を!

『キルォォォォォォッッッ!!!』


「”颶風魔法”、ストームダウンバースト!!!」

 
 頭上より、ダウンバーストを越える無慈悲な風が、紺碧の霧怪鳥を押し潰す!

「金剛の鞭」

 右手の“金剛の鞭の指輪”から、ダイヤモンドの鞭を宙に出現させ、備える。

 光は見えない。アイツはまだ生きてる。

『キルォォォォッッ!!!』

 声、出してくれて助かるわ~!!


「“激鞭術”、ハイパワーウィップ!!」


 頭上に出現した怪鳥を、意識が遠退くような感覚を味わいながら――打ち払った!!

「ハアハア、ハアハア……やった」

 膝が折れて、頭がクラクラしてきた……。
 これ……死んじゃいそう。

「サトミ!!」

 誰かが近付いてくる?

「私より……リンピョンちゃんを……」

 私なんかをバカみたいに慕ってくれるあの子を……看て……あげて…………。

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