ダンジョン・ザ・チョイス
142.正体
オッペンハイマーは仮面越しに、私を見ていた。
『ジュリーをダンジョン・ザ・チョイスに招いたのは君だったな……オルフェ』
神との親和性の高さと、ゲームを知り尽くしている人間。
それらの条件から、私はジュリーに白羽の矢を立てた。
――椅子が変形して、私を拘束した!?
オッペンハイマーが近付いてきて、私の仮面を奪う。
『オルフェ!? 貴様、アジア人だったのか!!』
セルゲイのデブが吠える。
『彼女は日系アメリカ人だ』
『つまり、原種の末裔か!! 白人に泥を付けた、薄汚い猿が!! 我等を裏切るとは、やはり日本人は日本人というわけだ!!』
『黙れ、セルゲイ』
――オッペンハイマーの言葉に、辺りに闇が広がったように重くなる!!?
『彼女の先祖は、アメリカでもっとも勲章を与えられた日系人部隊の一人だ。日系人というだけで侮辱する事は、私が許さない』
『も、申し訳ありません……オッペンハイマー様』
セルゲイ、本当にくだらない男。
相変わらず、虎の威を借りるしか脳が無い。
『だが、裏切り者には相応しい罰を与えねばならない』
「……どうする気?」
覚悟なら……出来てる。
『君にはちょうど、日本に留学中の姪が居たね。名前は……そう、クリスティーナだ』
「――罰なら、私に与えるのが筋だろう!! あの子に手を出すな!!」
『実に日本人らしい物言いだ。だからこそ、身内に害が及ぶ方が辛かろう?』
「――――オッペンハイマーああああああッ!!!」
やはりこの男も、デルタの人間か!!
『では、そのクリスティーナ嬢を僕に預けて貰えませんか? 最高のショーを思いつきました』
ミハエルが、狂気に滲んだ声を漏らす。
『君は第十一ステージを担当していたな。良いだろう、任せようじゃないか』
「ごめんなさい……クリス」
後はお願い、ジュリー。
『これで、コセ一派が我々にとってどれ程特殊で危険なのか、皆に分かって貰えただろうか』
そして……コセ。
一度は殺そうとしておいてなんだけれど、このクソッタレなゲームを……貴方の手で終わらせてちょうだい!
●●●
ジュリーとの一夜を過ごした俺は、朝食後、ユイに稽古を付けて貰っていた。
「ハッ!」
「く!!」
神秘の館の稽古場で、グレートソードに近い形状の木剣を操り、ユイの木刀をひたすら受ける。
今おこなっているのは、防御の訓練だ。
「――早くするよ」
かろうじて対応していた均衡が――崩れる!
「ゴホッ!!」
腹に、良いのが入った!
「ゲホッ! ゲホッ!」
「リアルハーレムの人……休憩にしよう」
「あ、ああ……」
集中が途切れると、自分が全身から汗を掻いているのに気付く。
ユイ……分かっていたけれど、強い。
今朝、シレイアからいきなり提案された稽古だったけれど、結構有意義かもしれない。
「ちょっと加減間違えた……大丈夫?」
「少し休めば大丈夫だよ。それにしても、全然歯がたたないな」
武術系のスキルのおかげで、剣の振り方とかを頭では理解できていたけれど、どうやら基本中の基本だけだったようだ。
それとも、ユイの剣技がそれだけ卓越しているということだろうか?
どちらにせよ、学べることは多そうだ。
それに、修行しているみたいでちょっと楽しい。
「私……人に教わった事ないから……どう教えたら良いか分からない」
天才の発言って奴だろうか。
「見てたら……出来るようになってたから」
「そうなんだ……」
近くに良い見本が居たなら、最初から出来たというのも理解できる。
下の兄弟が上の兄弟のやっているのを見て、自分にだって出来るはずと思い込むと上達が早いって聞いたことあるし……。
俺の弟と妹は、俺にまったく見向きもしなかったけれど。
アイツら俺と違って、根底に寄生虫根性があったからなー。
「……木刀じゃ、埒が明かない」
ユイが……普段使っている真剣を構えた!?
「リアルハーレムの人は、多分練習じゃ本気になれない。そういうタイプの人間。本気になれないなら、稽古してもほとんど無駄」
ユイを取り巻く気が――のほほんとした物から、凄まじくも静かな圧に変わっていく!!
覇気や剣気と呼ばれる物の類いだろうか……同じ人間とは思えない質の気。
「構えないと死ぬよ……リアルハーレムの人」
◇◇◇
『フフフフフフフ!』
管理者の面々が居なくなった会議室で、鳥と道化師をモチーフにした白面を外す。
「人を謀り弄ぶのは、何万年経っても楽しいものだ」
今回も私の勝ちだ、創造主。
「そして今回から、未来永劫私が勝ち続ける」
文明ごと破滅させるなど、もう許すものか。
そのために、この世界から徹底的に神を、神との親和性の高い人間を排除してきたのだ。
「アテルにコセ。たとえお前達が創造主の真意に辿り着けたとしても、ダンジョン・ザ・チョイスの最奥へは行かせない」
世界を維持するためには、神々の力が必要。
神の影響力をこの星から排除し尽くした事で、別の世界の神を必要とした。
完全に神との関係を断てぬのは皮肉だが、利用する側に居るのはこの上ない愉悦!!
アクァッホが手を加えた地球人の肉体は、私の同類の魂が定着しやすい。
逆に、真の地球人には小癪なワンダラー、ライトワーカー共の魂が。
ライトワーカーが転生してきたとしても、時代が経てば経つほど奴等の高次の資質を封じ込められる環境が整っていく。
音楽、映像、食、空気、人々の触れ合い。
五感を刺激し、世界を虚飾で満たし、ありのままの世界から目を背けさせ続ける。
気付いたときには、目を背けずには居られない状態にしておく。
そうなれば、たとえまたサナンダか、奴に比肩する存在が現れたとしても、人を目覚めさせるなど出来まい。
むしろ、また利用してくれる!
「そして、神の呪縛から解き放たれたこの世界を中心に――――私が新たな神になる」
このルシファーが!!
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