ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

134.世界の意への反逆

「ワイズマンだけでなく、アマゾネスにテイマー。そしておそらく、マクスウェルも狙っている」

 ということは……居るな。隠れNPCの入手条件を知る者が。

 もっと早くアテルとサキに出会っていれば、私の情報でワイズマンを手に入れられたものを。

「マクスウェルにこだわらず、先に進むべきでしたか」

 火の宝珠さえあれば、強力な”精霊魔法”を操るマクスウェルが手に入ると考え、留まり過ぎた。

 アテルを中心としたこの組織の面子がもっと早く揃っていれば、全ての宝珠を回収出来たのに!

「早く……この醜くて汚い世界を終わらせたい」

 それだけが、私の望み。



「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



「な!?」

 コセとかいう男、神代文字を九文字も刻んだ!!?


●●●


「ぐぅぅッ!!」

 意識が……持っていかれそうだっj3y!!

「僕以外で九文字刻める人、初めて見たよ」

 あ、アテルの奴が、喜んでいるf3g?

「やはり君も、ケンシの末裔だったんだね。あのクソみたいな社会の中で神との親和性を失わないのは、とても辛かった事だろう」

 俺は一度、その親和性を捨ててるjf3。

「そして、それほどの親和性を持っているのであれば理解出来るはずだ。星が、世界が、宇宙が、この次元が、我々人類になにを望むのか!」

「うるk3hfさいj……」

 こんなものに……なぜ……屈しなきゃいけない!!

「あああああああッ!!」

 アテルへと、剣を振り下ろす!

「負け……ない。操られるのは……ごめんだ」
「世界の意思、龍意に逆らうのか? 君が壊れて、世界の奔流の中に残滓となって消えてしまうぞ?」

 今まさに、ガリガリと俺が削り取られていってる!

「知った……事か!!」

 なんで俺が、世界の意を汲まなきゃならない!

 無視はしない! 目も背けない! でも! だからって……従う道理はない!!

「人類を滅ぼし、数多の世界を救済する。それで終わらせられるんだ。世界をくだらぬカルマにまみれさせた、愚かな先人共の罪を!! これこそが、絶対的に唯一正しい事なんだ!!」

 ――ああ、分かった。どうして従いたくないのか。

「この世に、正しい事なんて無い。もしそんな物があると本気で信じているのなら――お前はただの異常者だ」

 襲い来る奔流の流れが、少しだけ変わった気がした。

「僕は……異常じゃない!!」

 アテルの剣に、文字が十二も刻まれた!!?

「異常なのは、くだらぬカルマに吞まれたクズだけだ!!」
「クズじゃない人間なんて、存在するわけないだろう!!」

 俺の剣の光りが増大し――更に文字が刻まれる!!



「「あああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」」



 神代と神代の力がぶつかり合い――――爆ぜた。

「く……ぅ……」

 起き上がれない……身体に、力が入らない。

「ハアハア、ハアハア……さすがだよ、君は」

 アテルの奴は……剣を支えに、激しく肩を揺らして呼吸しているが…………立っていた。

 完全に……俺の負けだ。

「……君は、君の道を行けば良いさ。でも、最後まで道が交わらなければ……僕等は殺し合うことになる」

「「ご主人様」」

 俺の傍にトゥスカが、アテルの傍にも獣人の女性が寄り添い、肩を貸した。

「ハアハア……デボラさん、撤退する」
「今がチャンスなのですよ!? ワイズマンとマクスウェルを手に入れられる――」


「僕が、退くべきだと判断したんだぞ」


 空気が、一気に重く!!?

「も、申し訳ありません……」

「我が同胞よ……君の考えが変わるのを、楽しみにしている」

 アテルが獣人の女と共に背を向けると、黒ずくめの集団は後を追っていった。

「……クソ」


●●●


「……ハハハ」

「嬉しそうですね、ご主人様」

 肩を貸してくれているクフェリスに、そう言われた。

「初めて……十二文字刻めたからね」

 それに、”

 ――確信したよ。

 コセの存在が、僕をより高みへと押し上げてくれると。

「僕は、もっと強くなれる。彼のおかげで」
「……置いて行かれないように、私も頑張ります。旦那様」

 始まりの村で出会った妻、クフェリスと共に……僕は世界を救済する。


●●●


 ワイズマン。オルフェの計画通りなら、アレには、このゲームのコアシステムとコンタクトを取るための機能を与えられているはず。

 最終的に、ワイズマン無しではどうにもならない。
 一応、ワイズマンが手に入らない場合の策もありますが。

 アテル……原種は、時折論理を無視した行動を取る。

 なにが真の地球人。

 だけれど、世界を終わらせたいという望みは私と同じ。

「必ず手に入れるわ……ワイズマン」

 闇の勢力に汚染された愚かな人類を一掃し、全ての世界を浄化する!!

 このデボラが、世界の救世主となるのです!!


●●●


「……ぅ」
「目が覚めましたか、ご主人様」

 トゥスカが心配そうに、俺の顔を覗き込んでいた。

 いつもの寝室か。

「皆は……トゥスカは無事か?」
「誰も、怪我などはしていません。ただ、因縁のある人間が居たとかで、ショックを受けているのが何人か居るようです」

 後で、その辺聞かないとな。

「マスター、ちょっと良い?」
「メルシュ……」

 ゲームの最深部に、世界を、人類を消滅さられるかもしれない物が存在すると、断言した少女。

「メルシュは……このゲームを終わらせてどうするつもりだったんだ?」

 この世界の神様が変容させられた、このゲームのコア。

 それに神との親和性が高い者とメルシュが接触しなければ、このゲームを終わらせられない。

 俺達は、そうとしか聞いていなかった。

「それは、私が決めることじゃない。それに、人類を消し去るっていうのは一用途に過ぎないんだよ。その気になれば、新しい世界を構築することだって出来るかもしれないし……そこは、接触した人次第な部分だから」

 俺をこの世界に送り込んだいざない人は、ゲームクリア時の報酬は幾つかの選択肢の中から選ぶと言っていたけれど、この事を差していたのか?

「……そうか」

「マスター、これ見て」

 メルシュが差し出してきたのは、一振りの大剣。

「これ……グレートソードか?」

 面影を残しつつ、今までの無骨さが薄れ、格好良くなってる。

 色はあまり変化が無いけれど、鍔の部分に白い拳大の宝玉が埋め込まれていた。

 こんなの、今まで無かったのに。

「“サムシンググレートソード”。神代文字を十二文字引き出した事で、この剣はマスター用に進化したんだよ」

 ベッドから起き上がり、剣を受け取る。

 握り心地に違和感はない。

 むしろ、よく馴染む。

「アテル……止めないとな、アイツらを」

 世界を終わらせようとする破滅主義者達。

「改めてよろしくな、相棒」

 応えるように、白の宝玉が青く明滅した。

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