ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

133.因縁と因果

「な!?」

 コセが倒れてる!?

 それに、ナオやサトミ達が武器を振るって応戦していた!!

「他にも仲間が居たのか」

 黒づくめの男の剣には、青い文字!

「く!」

 咄嗟に“ヴリルの聖剣”に文字を刻み、ナオに攻撃しようとしていた小柄な黒づくめに振るうも、軽やかに躱された!

「ルイーサ!?」
「へ?」

 細く鋭利な短剣を左右に持つさっきの女が、私の名前を呼んだ!?

「アヤナにアオイ……へー、生きてたんだ。レプティリアンに殺されたと思ってたのに」

 小柄な女が、フードを外し――!!

「……リリル…………生きてたのか」

 私達三人が、第二ステージに挑むために買った少女……リス獣人のリリル。

 あの時、第二ステージで死んだとばかり……。

「……良かった」

 無意識に発した言葉だった。

「良かった? それは、私が生きていて良かったって事? それとも――自分達のせいで私が死ななくて良かったって意味?」


 ――傷に時間という薬を塗って誤魔化していた部分に、深く槍が突き刺さった気がした。

 
 奔流と共に……文字が消失する。

「ルイーサは悪くない! 悪いのは……」
「リーダーは私だ……だから、私の責任だ」

 アヤナの言葉を否定する。

「安心してよ。別に恨んでなんていないから。おかげで私は、私らしくなれた。だから……恨みとは関係なく――お前達を殺す」

 リリルの剣が、容赦なく私達に迫る!

「よせ!」

 盾で短剣を受けるも、もの凄いパワーにバランスを崩し掛ける!

「ムカつくわ。お前ごときが、アテル様達と同じ力を!!」
「ぐぅ!!」

 首に横蹴りが入った!!

「やめろ、リリル!」

 アオイが、鞭を使ってリリルを牽制してくれた!

「アオイ。アンタは嫌いじゃ無いけれど、邪魔するなら先に殺すよ」
「私も……ルイーサとお姉ちゃんを殺すなら、容赦しない」


●●●


「リリルちゃん、自分から正体をバラしちゃうなんて」

 私と同じ日本刀を操って、リアルハーレムの人に近づけないよう、適当に牽制してくる黒づくめの女。

 この人……強い。

 あの文字が日本刀に刻まれているとはいえ、私が完全に弄ばれてる!

「なら、私も良いかな。久し振り、ユイ」

 長い黒髪をローポニーテールにしている、綺麗な女の人。

「カオリ……お姉ちゃん?」
「そう、三年ぶりくらいかしら。女らしくなったわね」

 私の……腹違いの姉。
 そして、唯一家を出て行ったもう一人の母の娘。

「でも、弱くなったわね。動きが悪い。天才が秀才に堕ちてしまったかのよう」

「うるさい!」

 気にしている事を!

「驚いたわ。無感情のように見えた貴女が、こんなにも感情を顕わに斬り掛かって来るなんて」

 なにもかも、見透かされているかのよう!

「今の貴女は、私達の仲間に相応しくないわね」

 容易く、鍔迫り合いを押し返してきた!

「少し、稽古を付けてあげる」

 カオリお姉ちゃんが……もう一振りの剣を抜いた!?

「二刀流……」
「昔……貴女に負けたこと、忘れてないんだからね♪」


●●●


「どきなさい、アシェリー」

 気絶してしまったマスターを助けなければならないのに、隠れNPCのタイタンが邪魔してくる!

「隠れNPCは、基本的に主に忠実だ。諦めな、メルシュ」

 元デルタの女に、神代文字を操れる人間が複数居る集団……厄介な!

 それに、手にしている武具のランクが高い。
 いったい、どれだけ突発クエストを乗り越えてきたのか。

「大人しく俺達の仲間になれよ、メルシュ。お前から契約者を説得してな」
「デルタの女を信用しろと?」
 
 シレイアがアシェリーに大剣を振り下ろすも、黒い甲手で受け止められていた。

 Sランクの、“黒曜竜の鱗甲手”で。

「アマゾネス。それに、テイマーまで居るのか。文字を使える人間もチラホラ居るようだし、俺たちが手を組めば怖い物無しだな」
「質問に答えろ、アシェリー!!」

 ダメだ。純粋なパワーじゃ、タイタンであるアシェリーの方が優位。

 現に、シレイアの方が押されている。

 それはつまり、アシェリーとシレイアでは、元々の能力値を覆すほどのLv差が無いということ!

「まあ、あの女は嘘は言ってねーよ。現に、アイツを始末するためにこの村で突発クエストを執拗に仕掛けられたからな。おかげで、俺達の装備はAやSばかりだ」

 私達以上に突発クエストをクリアしているなら、こっちに勝ち目なんて無い!

 状況は……絶望的。


●●●


 “避雷針の魔光剣”を、黒い甲手から伸びた黒刃で止められる!

「ジュリーちゃん、貴女もこのゲームに」
「サキ……お姉さん」

 ――フードが外れると、見知った顔が!

「昔、一緒にあのゲームをプレイしたわよね。協力プレイなんかもしょっちゅう」

 私に匹敵するほど、あのゲーム……ダンジョン・ザ・チョイスに詳しいであろう人!

「また、一緒にゲームしない? 私達が組めば、このデスゲームだって突破出来るに違いないわ」

 私の知っている笑顔のはずなのに、酷く冷たく見える……。

「世界を滅ぼすためにですか?」
「ええ、その通り。ジュリーの大切な人を奪った者達に裁きを与えるには、文字通り神の力が必要だわ」

「断ります!」

 後ろに跳んで、距離を取る。

「まあ、すぐには決められないわよね」

 断るって、ハッキリ言いましたけれど?

「ジュリーちゃんには、これが使える?」

 あの黒い甲手に、青光の文字が刻まれていく!?

「この力を使えるようになれば、きっと私達に賛同するようになるわ。人間が、世界にとってどれ程の害悪なのかを理解できる」

「あり得ない。自ら滅びを望むなんて!」
「目覚めなさい、ジュリー。破滅こそが、人類がなすべき唯一の救済方法よ」

 そんなの……認めない!

「コセは、その文字を使っても滅びなんて望まなかった! だから、私はコセを信じる!」

「それはどうかしらね。彼はそこから、必死に目を背けているから、アテルより文字の扱いが下手なんじゃないかしら?」

 わ、私のコセに対して!!

「その発言は――許せない!」


●●●


「強いですね、貴女達は」
「よく言いますね」

 私とノーザン、二人がかりでも目の前の女の防御を崩せない!

「獣人ですよね?」

 尋ねたのはノーザン。

「ええ。最速猫の獣人、クフェリスと申します」

 金髪碧眼の美人が、油断なくブーメランを構えながらそう言う。

 ブーメランには花びらの絵と炎がまとわりつき、神代文字を六文字刻んでいる……。

 私は、さっきから三文字より多くしようとしても出来ないのに!

「奴隷なのですね。彼のですか?」

 私の胸を見て、気付きましたか。

「ええ」
「それに指輪……私達は、似た者同士のようです」

 興味ない。

「そんな事よりも、ご主人様を返しなさい!」
「私のご主人様が良いと言うまで、絶対にダメです」

「なら、無理矢理にでも!」
「神代文字を修得した獣人が二人。楽しくなりそうです」

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