ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

130.魔神・牛斧

 第七ステージの昼、ルイーサ達がようやくボス部屋に辿り着いた。

 彼女達だけ、暑さにより攻略スピードが遅れていたのだ。

「ああ……涼しい♡」

 シレイア以外の四人、悟りを開いたかのような顔を。

「第七ステージのボスは、魔神・牛斧ぎゅうふ。大斧と突進攻撃がメインのパワータイプ。今までの魔神よりHP高めに設定されているから、油断しないように。危険攻撃は斧による回転攻撃、ハイローリング。ハイローリングは片腕を潰せば使ってこないから。弱点属性は氷。有効武器は槍だよ」

 ボス部屋前の妖精の存在意義を、根こそぎ奪ってしまうメルシュ。

 俺は無言で、妖精に五度目の謝罪をする。

 今度から、お供え物でも用意した方が良いだろうか?

「メルシュ、妖精って好きな食べ物とかあるのか?」
「へ? 蜂蜜……かな? ど、どうしたの?」

 そんなに動揺しなくても。

「じゃあ、行きますよ」

 トゥスカが扉に触れ、ボス部屋が開いていく。

 第七ステージの攻略メンバーそのままで、俺達はボスに挑む。


            ★


『ブモォォォォォォォォォォォッ!!』

 濃い緑光を、血管のように全身に走らせている二足歩行の石の牛人。

 巨大な斧を手にし、地を揺らしながら駆けてくる。

「“竜技”、ドラゴンブレス!」
「“魔力砲”!」
「“光線魔法”、アトミックレイ!」

 モモカ、トゥスカ、メルシュの三人の攻撃に、呆気なく倒される魔神・牛斧。

「……弱くないか?」

 瞬馬の時にやらかしたから、かなり警戒していたんだけれど……魔神の残骸は光となって消えてしまった。

「最初は真っ直ぐ突っ込んでくるだけだし、私達のLvやスキルを考えれば当然だよ」

 そう言うメルシュ。

 度重なる突発クエストにより、俺達のLv、装備、スキルは適性レベルを大きく越えているらしい。

「お前ら……強すぎ。怖ーよ」

 そう言うのはザッカル。

 俺達と比べるとろくな装備もスキルも無いが、今のザッカルくらいがこの辺では妥当だとジュリーは言っていた……Lv以外は。

 それでも、これまで結構死にかけてるんだけれど。

○おめでとうございます。魔神・牛斧の討伐に成功しました。

○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。

★牛斧の大斧 ★持久力のスキルカード
★大斧使いのスキルカード ★牛斧の怪力甲


「“持久力のスキルカード”で良いんだよな、メルシュ」
「“持久力”は戦士専用だから、私は大斧使いのスキルカードを選ぶけれど、皆は“持久力”を選んで」
「”持久力”って、そんなに良いものなのか?」
「ザッカルにも説明したでしょう。疲れづらくなるし、武術スキル発動時のTPの減りを九割にするって」

 疑問顔のザッカルに、説明してあげるメルシュ。

「斧とか甲手が欲しくなるな~」
「今のところ、魔神の武器はCランクがほとんどだよ。Bランクの武器使ってるザッカルが手に入れても仕方ないよ。ザッカルの戦闘スタイルに合わないし」
「ザッカル、私達の方針に従う約束ですよ」
「わーってる、わーってる」

 トゥスカの援護で、なんとか納得してくれるザッカル。

○これより第八ステージ、黒昼の村に転移します。

 
●●●


「“紅蓮魔法”、クリムゾンブラスター!!」

 “紅蓮円輪”を潜り、強化された紅の熱線が魔神・牛斧に直撃!

「“氷炎魔法”、アイスフレイムカノン!!」

 氷と火に特化したナオの魔法が、魔神・牛斧に直撃!

 突進直後に光線状の攻撃が一番効果的って言うジュリーの話し、本当みたいね!

「ユリカさん、魔神の動きが!」

 大分HPを持っていかれたのか、突進から斧を大きく横に振りかぶった姿勢へ!

 メルシュが言っていた、危険攻撃!!

「“咎槍”、パワージャベリン!!」

 タマの黒槍が、遠くから放ったにも関わらず、牛斧の左腕を正確に貫き、胸部分にまでダメージを与えた!?

「“魔眼”か」

 タマの額に、タマに似合わない禍々しい大きな目が開いている。

 始まりの村で起きた突発クエストの報酬で手に入れた、Sランクスキル。

 ジュリーの話しだと、複数のスキルが統合された、かなり特殊なスキルなんだっけ?

「「アイスフレイム!!」」

 ナオと私の魔法で、魔神・牛斧の大半を凍らせることに成功!

「終わりだ!! “悽愴苛烈”!!」

 最近“壁歩き”を手に入れたノーザンが、その手の斧にコセと同じ文字を刻み、天井から魔神に向かって落下! 

 魔神の身体を氷の斧で両断し、綺麗に着地するノーザン。

「まだ三文字……もっともっと強く」

 ノーザン、トゥスカ、ルイーサ……どんどん文字を使える人間が多くなっていく。

 私の“煉獄のネイルステッキ”にも、あの文字を刻めるらしいのに。

「私が牛斧の大斧を選んで、ノーザンに渡せば良いのよね?」

 ナオが幸せそうに確認を取る横で、焦燥を自覚する。

 これから、コセの女は増えていく。

 早く、私も文字を使えるようにならないと……。


●●●


「か、勝ったー!!」

 ”光線魔法”を撃ち続けたアヤナが、床に座り込む。

「お疲れ」
「おう、どう致しまして」

 アヤナと拳を合わせる。

「弱点属性の魔法が使えないから、ちょいと手こずってしまったね」

 シレイアが、大きな槍をチョイスプレートにしまいながら近付いてくる。

「ユイは……調子が悪いのか?」

 ボス戦終了後、遠くでボーッと突っ立っているユイ。

 今まで何度か、ユイの神業とも言える戦いを見てきたが、今日はいつもの切れがない。

「ま、思春期だからね。大いに悩むべき年頃さ」

 なんか、おばさん臭いと思ってしまった。

「まあ、なにもないなら良いんだが」
「それより、私らが最後なんだから、さっさと報酬選択して行きましょうよ」
「そうだな。待たせるのは悪い」

 両親の故郷だったら、もっと時間にルーズなんだよな~。

 日本生まれの私には、どちらが良いのかはよく分からない。

 待たせるのは悪いと思う一方、時間に縛られている感覚が苦手でもある。

○これより第八ステージ、黒昼の村に転移します。

「いよいよ第八ステージか」

 ここに来るまで、およそ一年。

 あっという間のような、長かったような。

 このゲームは、いったいどこまで続くのか。

 そんな事を考えているうちに転移の光が消え、辺りの景色が見えるようになってきた。

 いつもの祭壇。

 祭壇の周りには、黒い杉の木のような樹木が広がっている。

 ――微かに、剣戟の音が聞こえた!?

「誰か戦ってる」
「へ、どこ?」
「あれじゃない?」

 私の指摘に明後日の方向を確認するアヤナに、アオイが方向を指し示した。

 祭壇の下。黒づくめの者達が、コセ達を囲むように立っているのが見えた。

「まずいことになっているようだね」
「行くぞ!」

 シレイアさんの言葉に嫌な予感が込み上げながらも、私はパーティーメンバーと共にコセ達と合流することにした。

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