ダンジョン・ザ・チョイス
116.石階段の町
ボス戦終了後、いつもの祭壇とは違う感じの場所に出た。
「いつもと逆ですね、ご主人様」
「ああ」
これまでは高い場所に転送され、決まって数百段ある階段を降りねばならなかった。
だが、今回は登っていかねばならないらしい。
それも、人がなんとかすれ違えるくらい狭く、螺旋状に伸びている階段を。
「皆は先に行ってて。他の人が来たら飛んで追い付くから」
メルシュは残るらしい。
一方通行だし、メルシュが他の人間に襲われる心配はないか。
「なら、大地の盾、“竜剣“。よし、俺が先頭になろう」
「ちょっと待て」
俺が六角形の盾と、浮く剣を出現させた事に驚くルイーサ。
アヤナも引いているよう。
「どうした?」
そう言えば、いつの間にかタメ口で話してたな。
「いや、なんで武器を出したのかなと。ここは町なのに」
「いきなりプレーヤーに命を狙われる可能性があるだろう」
「まあ……ないとは言わないけれど……」
「自意識過剰じゃない?」
ルイーサ達と俺達の間には、危機意識に差があるようだ。
「町に来た直後に命を狙われた事が二度もある。集団で襲撃されたことも」
ジュリーと殺し合いになったのは置いておいて。
「いつ、誰が襲って来るか分からないんだ。備えるのは当然だろ」
レプティリアンのケースが特殊だったとでも思っているのだろうか?
「そう……だな。その通りだ」
「……そうね」
二人が落ち込んだ?
アオイは無表情なので分からないが、視線を明後日の方向に向けていた。
★
五人で暫く石柱の周りの螺旋階段を登って行くと、石柱が膨れるようにどんどん太くなっていく。
どうやら、独楽状の巨大石の周りに、巻き付くように階段が存在しているようだ。
「ゼー、ゼー、まだ着かないの?」
「お姉ちゃん、情けない」
「うっさい」
アヤナ一人だけバテてる。
「横穴?」
階段の途中で、横穴を発見。
警戒しながら覗くと、かなり広い空間になっているようだ。
「暗くてよく見えないな」
「ちょっとで良いから休ませて!」
喚くアヤナ。
仕方ないか。
「横穴についてなにも聞いてないし、暫く待とう」
石階段の町について、もっとジュリーかメルシュに聞いておけば良かったな。
休んでいた間に、注意力が鈍ったかもしれない。
「少し、中を見て来る」
「では、私も行きましょう」
ルイーサと共に行くと言い出すトゥスカ。
「なら俺も」
「ご主人様は休んでいてください。ボス戦の後、ずっと神経を研ぎ澄ませていたのですから」
「……そうだな」
それに、ここにアヤナとアオイだけ残していくのも不安だし。
「なにかあれば、すぐに戻ります」
「気をつけて」
二人が横穴の奥へと入っていく。
「そう言えば、コセってルイーサと無理矢理キスしたんだっけ」
姿が見えなくなって数分後、突然そんな事を言い出すアヤナ!!
「あれは……」
どう説明するべきか。
「メルシュから話しは聞いたわ。よく分からないけれど、ルイーサも納得しているみたいよ」
「……そうなんだ」
どっちもあの件に触れないようにしていたから、ルイーサがどう思っているのか分からなかった。
「でもさ~。あんなに乙女になってるルイーサ、私初めて見たな~」
「私も……」
スッゴイ分かりやすくからかい出した!
「これ、責任取るレベルなんじゃない?」
「いやー……」
ただでさえ、最低でも四人居るのに!
「俺は……複数人と結婚してるので……やめた方が良いんじゃないかな」
言ってて気持ち悪!!
人間の男女の出生率は一対一。
なら、単純に考えて一対一の結婚は理にかなってるし、自然なこと。
一夫多妻は不自然……なはず。
「ま、私がどうこう言う事じゃないか」
良かった、しつこく言われなくて。
「よいしょっと」
アヤナが立ち上がって、近付いてきた?
「もし私になにかあったら、妹とルイーサをお願いね」
耳元で小さく、そう言われた。
また冗談を言っている。そう思いたかった。
でも……アヤナの目は真剣だった。
「まあ、もしもの話しだけれどね♪」
誤魔化すように作った豪快な笑顔が、やけに印象に残った。
「マスター、ここに居たんだ」
メルシュが飛んで現れた。
「皆は無事か?」
「うん、問題無いよ。トゥスカとルイーサは?」
「そこの穴の中を見に行った。これってなんなんだ?」
「……へ? こんなの知らないよ」
訪れたステージの情報をほぼ全て知ることが出来るはずのメルシュが、分からない?
「ちょっと待ってね…………そういう事か」
「なにか分かったのか?」
メルシュが、難しそうな顔をしていたる。
「この町、二ヶ月前から突発クエストがずっと続いてるみたい」
●●●
「なにもありませんね」
「宝箱どころか採取出来そうな物も無く、NPCすら居ない。なんのための空間なんだ?」
ゲーム的に考えると、まるで意味が無い空間。
「それにしても、歩きづらい」
凸凹した石の道だから、鎧と同じ石の靴を履いている私には歩きづらい。
「向こうから明かりが見えるな」
「外のようですね。ここ、上に登れそうです」
石の中を、荒々しく削って作ったような迷路。
横だけでなく、上や下へと穴が続いている。
「まるで、巨大な蟻の巣の中に居る気分だ」
まさか、巨大蟻が出て来るってオチじゃないだろうな!
「誰か居ます」
トゥスカが静かに警戒の声を上げ、私は彼女の視線を追い掛けた。
「ここで何してる?」
悪そうな見た目の女獣人が、さっきの穴から入って来るなりそう口にする。
浅黒い肌に長身と、炎のようなくせっ毛の黒髪。
耳の形は……猫だな。
「ただの探索だ」
答えながら、彼女を注意深く観察する。
メタリックレッドの鉤爪を右手。黒い短剣が左腰。
僅かに左足が前に出ていることから、右利きと推測。
だとすると、やはりメイン武器は鉤爪の方。
「……私達は今日初めてこの町に来たんだ。良ければ色々教えてくれないか」
「嫌だね。獣人を奴隷にしているような女に、教える事なんてなにも無い!」
いきなり前傾姿勢になって、右手を大きく――違う! これはフェイント!!
「く!!」
「やるじゃん」
咄嗟に盾で左脚の蹴りを防ぐも、凸凹の石の地面のせいで踏ん張りが効かず、倒れてしまう!
「待ってください! 私はこの人の奴隷というわけでは!」
「待ってな。その女痛め付けて、奴隷から解放してやるよ」
トゥスカの言葉を信じない!
「ガアッ!!」
立ち上がるよりも早く両腕を拘束され、左脚が鎧の胸部分に置かれて起き上がれなくなる!
「武器を捨てて、奴隷契約を解除しろ。そうすれば命までは取らないでやる」
「彼女は私の奴隷ではない! こん真似は無意味だ!」
「俺は、無意味って言葉が一番嫌いなんだよ!! ……なんのつもりだい?」
女が右足を上げて攻撃しようとした瞬間、トゥスカの斧が彼女の首に添えられていた。
「少しは人の話を聞いてください。私のご主人様は彼女ではありませんし、私は夫の奴隷であることを自ら望んだのです。貴方が口出しする事ではない」
「……悪かったね。お前が獣人としてのプライドも持たないクソ女だとは思わなかったよ」
二人から濃密な殺気が放たれ始めた時、不意になにかの気配を感じた。
「これは!」
「チッ! 騒ぎすぎたか!! 死にたくなければ逃げな!!」
巨軀の女は、急いで入って来た穴へと逃げていく。
「私達も逃げましょう!」
トゥスカが手を貸してくれたため、立ち上がるも、私の耳は高い獣の鳴き声と複数の獣の気配を感じ取っていた!
「まずい!」
暗がりの方から、猛スピードで気配が近付いてくる!!
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