ダンジョン・ザ・チョイス
104.竜人の姫モモカ
痛みに悶え苦しんでいる様子の竜巨人。
でも、見た目では大したダメージを受けているようには見えない。
どうやら、頭の兜のような部分を破壊するに留まったよう。
「ハルマゲドンの威力を過信しましたか」
正直、絶望一歩手前の状況。
あと思いつくのは、”魔力砲”を眼球に叩き込んで、頭の中から破壊するくらい。
でも、”終末の一撃”を放った事でMPが半分以下に落ちた。すぐに”魔力砲”は撃てない。
「時間を稼がないと」
『助けて、モモカ様ーーー!!!』
『止めてください、リーダー!! あああああああああああッッッ!!!』
毒で動けなくなっていた二体の竜が、より大きな竜に……食い殺された?
頭をバリバリと噛み砕いて呑み込む、赤黒いドラゴン。
『ああああああ……赤い玉をチマチマ食うよりも、一気に力が増大したぁぁぁあ!』
ドラゴンの身体が、メキメキと更に巨大に!!
『……なにしてるの? ユウヤ……』
竜の巨人から、震える声が漏れる。
『モモカ様~。もう、お前の親父にへりくだる必要は無くなった。これだけの力が手に入ったんだからな~ーーーーー!!』
赤黒いドラゴンから、野蛮な気がこれでもかと滲み跳ぶ!
『お前も、俺の経験値になれ!!』
赤黒いドラゴンが黄土色の竜巨人に躍り掛かり、爪をその身体に突き立てた!?
『いやぁぁぁ!! 止めてよ! 止めてよユウヤ!!』
押し倒され、馬乗りされる竜人。
『自分がレプティリアンの血が濃いからって、偉そうにしやがって! ムカつくんだよ、テメーの親父がよ!』
私達はいったい……なにを見せられて居るんだ。
『お前の母親も母親だ!! あんな奴に! あんな奴に!! チクショーーーー!!!!』
『痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛いぃぃ!!』
少女の声を発する竜人の中に、爪が更に深く刺さっていく。
さっきまであの子の命を奪おうとしていながら、少女の声に悲痛な想いが去来する!
「トゥスカ!」
「ご主人様!!」
ご主人様が走って来る姿を見て、自分の一貫性の無い想いが強くなってしまう!
「ご主人様……私、あの子を助けたいです」
多分あの子、メシュと同じくらい幼い。
「……助けても、殺さなきゃいけなくなるかもしれないんだぞ」
ご主人様の厳しい言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているようだった。
当然の言葉だ。この突発クエストを終わらせるには、どちらか一方が全滅しなければならないのだから。
「……たまには、一緒に偽善者になってみようか」
「ご主人様……」
どうしてこの人は、私が欲しい言葉をこんなにもくれるのだろう。
「お願いします!」
私の心が、ご主人様と溶け合っていく気がする!
「へ?」
「これは……」
ご主人様の剣と私の転剣に、青く輝く文字が六つ刻まれた。
●●●
「パパとママ達は先に進んで、モモカのためにレプティリアン皆の拠点を用意しておくからな。何年かかっても、必ずお前をこのふざけた世界から脱出させてやる」
「貴方が大きくなったら、私達を追ってきて良いから。ユウヤおじさんの言うことを、よく聞くのよ」
そう言って、パパとママは居なくなった。
それからすぐに、怖いことが起きたんだ。
皆が、ノルディックって人達に酷いことをされて、復讐を始めた……らしい。
それから皆が口にするようになった言葉は、私がママとパパからダメだと教えられたことばかりで……ユウヤまで、今私に酷いことをしている!
『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! あの男と女の子供は、死んでしまえ!!』
もう……なにを信じたら良いのか分かんないよ。
「オミナススラッシャー!!」
「ハイパワースラッシュ」
『――がああああああああああああああああああああああッッッ!!!』
ユウヤの左目から血が吹き出すと、右腕からも血が!
「見たくなければ、目を瞑っていろ」
私の胸の上に、さっき戦っていたお兄ちゃんが居る。
『お兄ちゃんが……助けてくれたの?』
「どうかな」
今まで見たこと無いくらい、綺麗な目をしているように見えた。
嘘の無い目に。
●●●
メシュと、色々重なってしまうな。
トゥスカの言葉に、自分の想いを否定出来なくなってしまった。
でもそのおかげで、今までに無いくらい、トゥスカと深く繋がれている気がする。
「”咎の転剣”」
禍々しい、X字のブーメランを生み出すトゥスカ。
「”二重武術”、オミナススラッシャー!!」
トゥスカが同時に放った二つのブーメランが、ドラゴンの両翼を半ばから切り裂いた!
『ゴミみたいな劣等種が、俺になにをしているううううううううッッ!!』
「頭が劣等感でいっぱいなのは、お前の方だろう」
『なん……だとううううううううううッッ!!』
他者を見下そうとするのは、おのれを卑下しているという事実を受け入れられない精神的弱者の行動原理。
「さっきから自分が口にしている事が、猿よりも低脳だと証明していることに、いい加減気付けよ」
モモカから離れ、無骨な相棒を手に駆ける!
『きぃさまああああああああああああッッッ!! ノルディック風情がぁぁぁぁあああああああああッッッ!!!』
「もう、聞き飽きたよ」
神代文字を刻んだ時の、あの大きな奔流が押し寄せてきていた。
でも、俺の意志を、魂を、トゥスカとの絆が繋ぎ止めてくれている!
「今なら行ける!」
『神代文字……お前が報告にあった原種か!! チクショーが!! 自分が真の地球人だからって、調子に乗るなよぅぅぅぅッッッ!!』
尻尾による薙ぎ払いが迫るも、両手で握ったグレートソードの振り下ろしにより――切り開いた。
『がああああああああああああ!!!? そんなバカなああああああ!!』
スキルキラーと戦った時よりも、世界が洗練されて見える。
トゥスカの存在が、俺をより強くしてくれている。
いや、トゥスカだけじゃない。
トゥスカ程じゃなくても、ジュリーやユリカ、タマ、ノーザン、ナオ達の存在が、俺の個を強固にしてくれている!
これが、これまでの出会いに感謝したい……って口にする人間の気持ちなのだろうか。
『一部とはいえ、神に認められている証……ふざけるな……そんな物、存在してたまるか!!』
ドラゴンの口内に、光が溜まっていく。
「お前は、自分が生み出した流れに負けるんだ」
『訳の分からない事を!! ドラゴンブレスゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!』
強光が発射されたが、俺は動く必要が無いと知っている。
『ドラゴンブレス!!』
モモカが重ねた両手から放った光が、ユウヤとか言う奴の放った光とぶつかった。
『モモカ!! 貴様ぁぁぁぁあああああああああ!!!』
『お兄ちゃんは殺させない!』
モモカが押されている。
『超えた! 超えたぞ! 俺は、王族の血を超えたんだ!!』
「すぐに、流れを見失う奴だ」
「”魔力砲”!!」
トゥスカの砲撃が、泡立って再生し始めていた左目に直撃。
直後にユウヤのドラゴンブレスが消え、モモカのドラゴンブレスが押し返す!
『……あ……ああ……ぁ』
奴の胸部分に、風穴が開いた。
『もう、無理』
モモカが膝を着く。
『ごめん……ユウヤ』
『許……さない……絶対に……』
「それは、お前が口にしていい言葉じゃない」
痛みと憎しみを広げるだけの人間が誰かの人生に干渉すれば、悲劇しか生まない。
『ぐう……』
倒れ伏す巨大なドラゴン。
「忘れるな。俺達が共闘する流れを作ったのは、お前だと言うことを」
慣れ親しんだ柄に、力を込める。
『ノル……ディック……風情が』
「お前は、自分で自分を殺したんだ……ハイパワースラッシュ!!」
――グレートソードを、全力で一閃!!
ドラゴンの巨体を、真っ二つに切り裂いた。
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