ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

103.終末夫婦

「ハイパワースラッシュ!」

 紫炎纏わせた一撃をレプティリアンに叩き込み、強力な爆発で頭を吹き飛ばして絶命させる。

「ハアハア、ハアハア」

 これで三体目。
 ハルマゲドンを温存しているのもあって、時間が掛かってる。

「TP・MPの消費が激しいですね」
「ああ、体力もな」

 消費を抑えるようにしないと、あっという間にTP・MPが底を尽きそうだ。
 だが、長引かせると体力がキツい。

「ご主人様、二匹近付いてきます」

 トゥスカの感知能力に引っ掛かったか。

「このまま力任せじゃまずいな……そうだ」

 ”シュバルツ・フェー”と”強者のグレートソード”の使い勝手が良いため、頭から除外していた武器。

「武器交換、”ヴェノムキャリバー”」

 黒銀の大剣を、金の刃持つ赤紫色の毒々しい大剣に変更する。

 二体の陸竜の接近を目視。

『死ね、ノルディック!』
『くたばれや、コラ!』

 居るよな、わざと小者感出してるんじゃないかってくらい素で小者な奴。

 バカみたいに突撃して来る竜の脚を、すれ違い様に斬りつける!

『痛ーだろうが!』
『よけんじゃねぇよ、生意気な!』

 抵抗せずに死ねと?

「ハッ!」

 もう一体の首にも斬りつける。

『チビが、粋がってんじゃねー!』

 今のお前らに比べたら、人間は皆チビになるよ!

 こんなにも分かりやすいくらい話しが通じない相手、中学卒業以来だぞ!
 
『あん?』
『身体が……』

 二体の竜がフラフラし出し、すぐに動けなくなる。

「状態異常Lvが高い”猛毒”効果。効くのが早かったな」

 状態異常対策をまったくしていなかったようで、助かった。

『おい……回復魔法を』
『キュア……あれ?』

 魔法が発動しない。

『なんで? お前の……仕業か!』
「いや、知らないけれど」

 猛毒にそんな効果は無い……はず。

 使ったの初めてだから分からん。

『くそう…………アレは……まさかモモカ様!!』

 竜の一体がそう叫ぶと、ゾワリとした悪寒と共に突風が吹き荒れた!

「ご主人様……来ます!」

 トゥスカの、怯えと危機感が一体となった声が響くと――それは降り立ち、地を揺らした。

 黄土色の皮膚を持つ、ガルガンチュア並みにデカい竜の巨人が。


『皆、大丈夫?』


 竜の巨人から、凄い無邪気な声が聞こえてきた。


●●●


『離れろ!』
『グラアアアアアアアアアアア!!』

 サタちゃんが、レプティリアンドラゴンの喉に噛み付き、その皮膚に爪を立てる!

 体格は向こうが一回り大きいけれど、あまり上手く竜の身体を使えていないよう。
 おかげで、サタちゃんの方が明確にダメージを与えられている。

「頑張れ! 頑張れ! サーターちゃん!! 頑張れ! 頑張れ! サーターちゃん!! ワーーー!!」

 ワーーーじゃない! 

「サキ……なにしてるの?」
「”応援”のスキルです。サタちゃんは私の契約モンスターになってるから、私の応援で身体能力が上がるんです!」

 隠れNPC、テイマー。

 序盤は他の隠れNPCよりも弱いけれど、契約モンスター次第では最強の隠れNPCにもなれるという。

 まさか、性格がこんなだとは思っていなかった。

「あ! 押し始めてますよ、マスター!」

 サキの言う通り、サタちゃんにより無理矢理、レプティリアンドラゴンの頭が地面に近付けられていく。

「サタちゃんが居なかったら、危なかった」

 今頭に攻撃を集中すれば、この巨体でも倒せるはず!

「ジュリー様ーー! 私達じゃ頭を狙いづらいので、お願いしますーー!!」

 タマも同じ事を考えてたか。

「任せて!!」

 飛んだまま、竜の頭に近付く。

「サタちゃんに当たらないようにしてくださいね、マスター」
「分かってる」

 現時点での最高威力の攻撃手段は、”魔力砲”か。

『離せぇぇぇぇぇえ!!』


 ――悲痛なあがきに、目の前の化け物が人間だと言うことを思い出してしまった。


「マスター?」
『ぶっ殺してやる、女共!』

 口内に光が!!

 ――その時、突風が吹き荒れた!

 空を飛んでいたため風に流され、光がすぐ横を掠める!!

「マスター!!」

 建物の二階に激突しそうになると――サキが私を庇った!?

「サキ!!」

 急いで地上に降り、回復魔法を掛ける。

 私は――なんて間抜けな!

『アレはモモカか? おのれ、あの小娘が! 勝手に抜け出したか!! だが、おかげで解放されたぞ』

 突風のおかげか、サタちゃんの拘束から逃れた竜の男。

『もっと、圧倒的な力を!』

 竜が飛び立ち、巨大な竜人が居る方角へ。

「あんなのまで……」

 このクエスト、私達は勝てるのか?


●●●


『モモカ様! コイツらを殺してください!』
『お助けを、モモカ様!』

 コイツらが様付けするってことは、この竜巨人がリーダーなのか?

『殺すのは良くないって、パパとママが言ってたけど?』
『相手はノルディック! 幾ら殺しても問題ありません!』
『我々の同胞がたくさん殺されたのです! 爪には爪を! 死には死を!』

『……でも』

「もしかして、子供なのか?」

 カズマさん達の子供のように、このダンジョンで生を受けた子供が居てもおかしくない。

『ノルディックを殺せば、ご両親が喜びますよ!』
『パパとママが? 分かったー!』

 子供の無邪気程残酷な物は無いって言うが、嫌でも実感してしまう!

『ノルディックさん、バイバイ』

 ウンコ座りして、右手で潰そうとしてきた!?

「ご主人様!」

 飛び込んできたトゥスカに抱えられ、回避に成功する。

「ホロケウカムイを常に使っていないと、回避は絶望的ですね。私が囮になるので、ご主人様はハルマゲドンを!」

「分かった。装備変更」

 ”ヴェノムキャリバー”を”滅剣ハルマゲドン”へ。

『獣さん、凄ーい! 速ーい!』

 無邪気な声に、罪悪感を煽られる!

「悪いな。どちらか一方しか生き残れない以上……るしかない」

「行きます!」

 竜人が立ち上がると同時に、トゥスカが青い気を発しながら、神代文字を武器に刻んで駆ける!

 俺もグレートソードに三文字刻み、思考を研ぎ澄ませていく。

「ハイパワーブーメラン!」

『痛! もー、なにすんのー!!』

 トゥスカの攻撃も、少し皮膚を裂いただけか。
 でも、注意は引いた。

 トゥスカが危ない目に遭う前に、この子を仕留める!

「”壁歩き”」

 俺に気付いていない竜人の脚に足裏を張り付かせ、駆け上る!

『なんか痒い?』

 太股付近を走っていたら、爪が近付いてきた!

「爆裂脚!」
『痛い!』

 竜人の首元辺りで、爆発が起きる。

「く!」

 身じろぎされると、落ちそうに!

「これ以上は無理か! ”終末の一撃”!!」

 胴部分で、暴虐の一撃を発動!


『ああああああああああああああああああああああッッッッ!!!? イダいいぃぃぃぃぃぃぃ!!』

「がハッ!! ……ぐ、ハイヒール」

 思ったより高かったか。着地したら両足が折れた。

 回復しながら、敵の様子を探る。

『いだいよぅぅぅぅぅぅ』

「噓だろ……ハハ」

 腹の肉の一部を吹き飛ばしただけで、大して効いていない。

 乾いた笑いが漏れる。

「トゥスカ!」

 俺を庇うため、再び注意を惹こうと飛び上がるトゥスカに、”滅剣ハルマゲドン”を投げ渡す!

 ”連携装備”により、俺の奴隷であるトゥスカは、俺の装備武器を自分の装備として使用できる!

 そして、一日一度しか使えない”終末の一撃”は、他の者ならば使用可能!


「終末の一撃!!」


『あああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!』

 頭に向かって放たれた二度目の暴虐が、竜巨人の頭に炸裂した!!
 

「ダンジョン・ザ・チョイス」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く