ダンジョン・ザ・チョイス
72.レシピと稽古
「アスピドケロン?」
「うん。さっきの鯨はアスピドケロンという名の強力なレアモンスターだよ。まさかアレに遭遇するなんて、マスターは色々持ってるね」
持ってるってなんだよ! 危険な目に遭いやすいって事か!?
「それにしても……見せ付けてくれるよね」
「海でキスしていた事か?」
良いじゃないか、夫婦なんだから。
「それもだけれど、今の状態を言ってるんだよ」
メルシュに救助された俺とトゥスカは、砂浜まで運んでもらったあと裸になり、二人で一緒に毛布にくるまりながら焚き火に当たっていた。
「ご主人様はコーヒーで良いですか?」
「うん、ミルクと蜂蜜多めで」
やっぱり、トゥスカは最高だ。
トゥスカ以外の女なんて要らない。
だって、妻が複数居たって面倒くさいだけだから!
「ハアー、バカップルだ」
「それよりも、もう少しで溺れるところだったぞ、メルシュ」
「そんなわけないでしょ。二人とも“潜水”のスキルを持ってるんだから」
「「あ!」」
“ギルマンのスキルカード”で、一昨日のうちに手に入れていたんだった。
“潜水”のスキルがあれば、水中でも呼吸が出来るらしい。
「まさか、忘れてたの?」
「「……はい」」
「……二人って、どっか抜けてるよね」
「「スミマセン」」
「つまり二人は、私がなにも考えずに危険な海に小舟で連れ出したと思っていたわけね」
「「本当にごめんなさい」」
「それよりも、アスピドケロンから手に入った物を確認しようよ」
「そうですね」
俺がチョイスプレートを開いたら、トゥスカが身を寄せて覗き込んできた。
○戦士.Lv25になりました。武術・魔法の威力をアップ出来ます。どちらを選択しますか?
「メルシュ。Lv25になったんだが、バランスよく上げた方が良いのかな?」
個人的には一極化の方が好みだが。
「強敵相手を考慮すれば一極化すべきだけれど、それだとダンジョン攻略の時に危険かも」
魔法じゃないと、効果が薄い奴も居るみたいだしな。
「次にうちのパーティーに入れるのは、魔法使いにするべきか」
戦士二人に魔法使い一人の組み合わせだし。
ジュリーのように近接戦闘もこなせる者か、サポート系の防御重視が良いだろうか?
出来れば、目の前の二人のように一緒に居ると安心する相手が良い。
俺は武術一極化を選択した。
「私は元々魔法特化だから、魔法を上げるね」
「私も、武術に特化させます」
トゥスカもLvが上がっていたか。
これで、今日の目的は一応達成だな。
次に、アスピドケロンのドロップアイテムを確認する。
○島鯨の脳油×3を手に入れました。
○島鯨の骨×12を手に入れました。
○島鯨の肉×43を手に入れました。
○島鯨の髭×6を手に入れました。
○島鯨の歯×14を手に入れました。
○“水流弾のスキルカード”を手に入れました。
○“浮遊のスキルカード”を手に入れました。
○“潮吹きのスキルカード”を手に入れました。
○“超潜水のスキルカード”を手に入れました。
○“索敵のスキルカード”を手に入れました。
「スキルカード、色々手に入ったな」
「“超潜水”は確か……人魚専用のスキルですね」
人魚……獣人が居る世界だ、人魚が居てもおかしくないのか。
「また……奴隷を買う場所があるのか?」
「あるよ、嫌でもね」
「そっか……」
異種族に会える好奇心に任せて、胸糞悪い現実から目を背けた。
●●●
「あっ!」
「きゃ!」
ジュリーさんとタマさんが床に転がる。
「さすがだね、マスター」
シレイアの提案のせいで、ジュリーさん達に道場で稽古を付けることになってしまった。
畳の道場、懐かしい。
この空間、お金さえあれば設備を追加出来るらしく、ハーレム王が昨日のうちに用意してくれた。
「二人がかりなのに、全然勝てない」
「ユイさん、本当に強いです」
私は木刀、ジュリーさんは木製の籠手、タマさんは棍を使っている。
あくまで、スキル無しの模擬戦。
普段の得物を用いた時の立ち回りを磨くための物。
「無駄なく対処されてる」
「コツとかあるんですか、ユイさん?」
「よく……分からない」
気付いたら、自然に出来るようになっていただけだから。
お父さんとお兄ちゃん達の稽古を、小さい頃から適当に見ていただけ。
「教えるの苦手だから……勝手に盗んで」
私はただ、見ていただけ。
最小限の動きで二人の攻めを去なし、厄介な連携をされる前に私から崩しに出る。
対処法は毎回違っても、私には作業のような物。
「無の境地ってやつかな、ハアハア」
「学校では視線を追えっておそわりましたけれど、ユイさんはどこを見てるのかよく分かりません、ハアハア」
「思考が読めない。凄いね、これが達人ってやつかい」
ああ、ハーレムアニメが見たい。
●●●
『デスアーマー・ランサー。お前には突発クエストの中核になって貰うぞ』
ああ? なに言ってんだ、このデブ。
あの”誘い人”とか言うやつと似た格好しやがって。
『ユイという女を殺せ。そうすれば、後は好きにするが良い。好きなだけ殺して犯すが良いさ。以前とは身体がまるで違うが、男性器を特別に追加してやろう』
言ってる意味がわかんねー。
『なんで俺が、お前の命令を聞かなきゃいけねーんだよ』
『元の身体、取り戻したくはないかね?』
元の身体?
『……なんだよ、これはアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?』
――――この醜悪で不気味な姿が、俺だと!?
『一度死んだ君は、データの一部が欠落している。使い回すには他のデータを組み合わせないといけなかったのだよ』
なにを言っている! なにを言っている! なにを言っている!!
『さあ、このセルゲイに従え! デスアーマー・ランサー!!』
●●●
「魚ばっかりだな」
港を見て回ったが、売り物は魚ばかりで肉はまったく売っていない。
海藻は色々あって、海苔が買えたのは嬉しいけれど。
明日の朝はおにぎりと豚汁に、焼き魚だな!
そういえば、海藻を消化できるのって日本人だけらしいけれど、トゥスカ達はどうなのだろう?
まあ、焼けば消化しやすくなるらしいから、そんなに気にしなくても良いか。
黒いボロ屋で売られている魚を、チョイスプレートの表示を見ながら確認する。
「シャケにカレイ、ヒラメ、マス……ウナギ!?」
う、ウナギなんて、もう八年くらい食べてない!
「でも、うな重の作り方なんて分からないし……」
食べたい、うな重!!
それに、どれも捌いてあるわけじゃない。
魚の裁きかたなんて分からないぞ?
「そこでレシピが買えるよ」
メルシュが教えてくれたぼろ小屋には、お婆さんが居た。
「美味しいレシピは要るかい?」
近付いたら声かけられた。
○レシピを買えます。
★にぎり寿司のレシピ:15000G
★くさやのレシピ:15000G
★うな重のレシピ:15000G
★海鮮ラーメンのレシピ:15000G
★海鮮パスタのレシピ:15000G
★海苔巻きのレシピ:15000G
★蒲焼きのレシピ:15000G
地味に高い。
「これに作り方が書いてあるのか。でも、道具も無いよな」
ウナギを捌くとき、杭かなにかが必要だった気が。
チケットの交換リストの中にあるだろうか?
「材料があれば一瞬で出来るよ?」
「ん?」
どういうこと?
「これ、料理スキル持ち専用のレシピなんだよ」
「スキルとレシピと材料、この三つがあれば自動で出来上がるって事なのか?」
「そうそう。最初に調味料や分量の調整も出来るから、好みに合わせる事も出来るんだよ」
「でも、料理スキルなんて……」
「ご主人様。私、持ってますよ?」
そうだった!
トゥスカは、出会った時から料理スキルを所持していたんだった!
「トゥスカさん、俺にうな重を作ってください!」
気付いたら、手を握っていた。
「は、はい、喜んで♡!」
トゥスカの尻尾がブンブン揺れる!
可愛い!
「もうすぐ日が暮れるし、そろそろ帰ろうよ」
「そうだな、帰ろう」
帰る……か。自然と口にしていた。
あの家を、自分が帰る場所だって、ちゃんと思えてるんだな。
レシピを全て買った後、ウナギを人数分購入。
チョイスプレートを操作して、家に帰るための鍵を出現させようとした時だった。
『これより、突発クエストを開始する!』
偉そうな男の声が、港中に響いたのは。
「うん。さっきの鯨はアスピドケロンという名の強力なレアモンスターだよ。まさかアレに遭遇するなんて、マスターは色々持ってるね」
持ってるってなんだよ! 危険な目に遭いやすいって事か!?
「それにしても……見せ付けてくれるよね」
「海でキスしていた事か?」
良いじゃないか、夫婦なんだから。
「それもだけれど、今の状態を言ってるんだよ」
メルシュに救助された俺とトゥスカは、砂浜まで運んでもらったあと裸になり、二人で一緒に毛布にくるまりながら焚き火に当たっていた。
「ご主人様はコーヒーで良いですか?」
「うん、ミルクと蜂蜜多めで」
やっぱり、トゥスカは最高だ。
トゥスカ以外の女なんて要らない。
だって、妻が複数居たって面倒くさいだけだから!
「ハアー、バカップルだ」
「それよりも、もう少しで溺れるところだったぞ、メルシュ」
「そんなわけないでしょ。二人とも“潜水”のスキルを持ってるんだから」
「「あ!」」
“ギルマンのスキルカード”で、一昨日のうちに手に入れていたんだった。
“潜水”のスキルがあれば、水中でも呼吸が出来るらしい。
「まさか、忘れてたの?」
「「……はい」」
「……二人って、どっか抜けてるよね」
「「スミマセン」」
「つまり二人は、私がなにも考えずに危険な海に小舟で連れ出したと思っていたわけね」
「「本当にごめんなさい」」
「それよりも、アスピドケロンから手に入った物を確認しようよ」
「そうですね」
俺がチョイスプレートを開いたら、トゥスカが身を寄せて覗き込んできた。
○戦士.Lv25になりました。武術・魔法の威力をアップ出来ます。どちらを選択しますか?
「メルシュ。Lv25になったんだが、バランスよく上げた方が良いのかな?」
個人的には一極化の方が好みだが。
「強敵相手を考慮すれば一極化すべきだけれど、それだとダンジョン攻略の時に危険かも」
魔法じゃないと、効果が薄い奴も居るみたいだしな。
「次にうちのパーティーに入れるのは、魔法使いにするべきか」
戦士二人に魔法使い一人の組み合わせだし。
ジュリーのように近接戦闘もこなせる者か、サポート系の防御重視が良いだろうか?
出来れば、目の前の二人のように一緒に居ると安心する相手が良い。
俺は武術一極化を選択した。
「私は元々魔法特化だから、魔法を上げるね」
「私も、武術に特化させます」
トゥスカもLvが上がっていたか。
これで、今日の目的は一応達成だな。
次に、アスピドケロンのドロップアイテムを確認する。
○島鯨の脳油×3を手に入れました。
○島鯨の骨×12を手に入れました。
○島鯨の肉×43を手に入れました。
○島鯨の髭×6を手に入れました。
○島鯨の歯×14を手に入れました。
○“水流弾のスキルカード”を手に入れました。
○“浮遊のスキルカード”を手に入れました。
○“潮吹きのスキルカード”を手に入れました。
○“超潜水のスキルカード”を手に入れました。
○“索敵のスキルカード”を手に入れました。
「スキルカード、色々手に入ったな」
「“超潜水”は確か……人魚専用のスキルですね」
人魚……獣人が居る世界だ、人魚が居てもおかしくないのか。
「また……奴隷を買う場所があるのか?」
「あるよ、嫌でもね」
「そっか……」
異種族に会える好奇心に任せて、胸糞悪い現実から目を背けた。
●●●
「あっ!」
「きゃ!」
ジュリーさんとタマさんが床に転がる。
「さすがだね、マスター」
シレイアの提案のせいで、ジュリーさん達に道場で稽古を付けることになってしまった。
畳の道場、懐かしい。
この空間、お金さえあれば設備を追加出来るらしく、ハーレム王が昨日のうちに用意してくれた。
「二人がかりなのに、全然勝てない」
「ユイさん、本当に強いです」
私は木刀、ジュリーさんは木製の籠手、タマさんは棍を使っている。
あくまで、スキル無しの模擬戦。
普段の得物を用いた時の立ち回りを磨くための物。
「無駄なく対処されてる」
「コツとかあるんですか、ユイさん?」
「よく……分からない」
気付いたら、自然に出来るようになっていただけだから。
お父さんとお兄ちゃん達の稽古を、小さい頃から適当に見ていただけ。
「教えるの苦手だから……勝手に盗んで」
私はただ、見ていただけ。
最小限の動きで二人の攻めを去なし、厄介な連携をされる前に私から崩しに出る。
対処法は毎回違っても、私には作業のような物。
「無の境地ってやつかな、ハアハア」
「学校では視線を追えっておそわりましたけれど、ユイさんはどこを見てるのかよく分かりません、ハアハア」
「思考が読めない。凄いね、これが達人ってやつかい」
ああ、ハーレムアニメが見たい。
●●●
『デスアーマー・ランサー。お前には突発クエストの中核になって貰うぞ』
ああ? なに言ってんだ、このデブ。
あの”誘い人”とか言うやつと似た格好しやがって。
『ユイという女を殺せ。そうすれば、後は好きにするが良い。好きなだけ殺して犯すが良いさ。以前とは身体がまるで違うが、男性器を特別に追加してやろう』
言ってる意味がわかんねー。
『なんで俺が、お前の命令を聞かなきゃいけねーんだよ』
『元の身体、取り戻したくはないかね?』
元の身体?
『……なんだよ、これはアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?』
――――この醜悪で不気味な姿が、俺だと!?
『一度死んだ君は、データの一部が欠落している。使い回すには他のデータを組み合わせないといけなかったのだよ』
なにを言っている! なにを言っている! なにを言っている!!
『さあ、このセルゲイに従え! デスアーマー・ランサー!!』
●●●
「魚ばっかりだな」
港を見て回ったが、売り物は魚ばかりで肉はまったく売っていない。
海藻は色々あって、海苔が買えたのは嬉しいけれど。
明日の朝はおにぎりと豚汁に、焼き魚だな!
そういえば、海藻を消化できるのって日本人だけらしいけれど、トゥスカ達はどうなのだろう?
まあ、焼けば消化しやすくなるらしいから、そんなに気にしなくても良いか。
黒いボロ屋で売られている魚を、チョイスプレートの表示を見ながら確認する。
「シャケにカレイ、ヒラメ、マス……ウナギ!?」
う、ウナギなんて、もう八年くらい食べてない!
「でも、うな重の作り方なんて分からないし……」
食べたい、うな重!!
それに、どれも捌いてあるわけじゃない。
魚の裁きかたなんて分からないぞ?
「そこでレシピが買えるよ」
メルシュが教えてくれたぼろ小屋には、お婆さんが居た。
「美味しいレシピは要るかい?」
近付いたら声かけられた。
○レシピを買えます。
★にぎり寿司のレシピ:15000G
★くさやのレシピ:15000G
★うな重のレシピ:15000G
★海鮮ラーメンのレシピ:15000G
★海鮮パスタのレシピ:15000G
★海苔巻きのレシピ:15000G
★蒲焼きのレシピ:15000G
地味に高い。
「これに作り方が書いてあるのか。でも、道具も無いよな」
ウナギを捌くとき、杭かなにかが必要だった気が。
チケットの交換リストの中にあるだろうか?
「材料があれば一瞬で出来るよ?」
「ん?」
どういうこと?
「これ、料理スキル持ち専用のレシピなんだよ」
「スキルとレシピと材料、この三つがあれば自動で出来上がるって事なのか?」
「そうそう。最初に調味料や分量の調整も出来るから、好みに合わせる事も出来るんだよ」
「でも、料理スキルなんて……」
「ご主人様。私、持ってますよ?」
そうだった!
トゥスカは、出会った時から料理スキルを所持していたんだった!
「トゥスカさん、俺にうな重を作ってください!」
気付いたら、手を握っていた。
「は、はい、喜んで♡!」
トゥスカの尻尾がブンブン揺れる!
可愛い!
「もうすぐ日が暮れるし、そろそろ帰ろうよ」
「そうだな、帰ろう」
帰る……か。自然と口にしていた。
あの家を、自分が帰る場所だって、ちゃんと思えてるんだな。
レシピを全て買った後、ウナギを人数分購入。
チョイスプレートを操作して、家に帰るための鍵を出現させようとした時だった。
『これより、突発クエストを開始する!』
偉そうな男の声が、港中に響いたのは。
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