ダンジョン・ザ・チョイス
71.島鯨アスピドケロン
コセ達が館を出て行くのを目撃しながら、エントランスで一人思考を巡らせていた。
小さい頃、食べ物に感謝をするようにとか、命を戴くことに感謝をって教わったけれど……シレイアやコセに言われて、全然実感していなかった事に気付いた。
コセ達が、毎回わざわざ戴きます言ってるのを見て、内心ちょっと笑ってたし。
「ハァー、恥ずかしい女」
コセが槍の男を殺したのは、多分私のせいだ。
私が、コセが槍の男に目を付けられる状況を作ってしまったのだから。
私が今笑って生きていられるのは、コセが私の恐怖そのものであった槍男を殺してくれたおかげ。
なのに私、コセ以外の人が人を殺したって聞いて、胸糞悪く……違う、そこじゃない。
人殺しが偉いわけじゃないって、コセだって言ってたじゃない。
コセ以外の皆を軽蔑してしまった私に、嫌気がさしたんだ!
結局私は、自分が感情的にどう思うかで物事を判断していた。
トゥスカやユイが、好き好んで人殺しをするような人間じゃないって分かってたのに。
「でも、私には分からないよ……コセ」
コセ達の考えを受け入れてしまったら、私の中の正しさが壊れちゃうよ。
それが、どうしようもないくらい……怖い。
「助けて……コセ」
◇◇◇
『ユイめ、まさかアルバートのお気に入りと組むとは!』
ユイをメインに動画を作製したら、最初は人気が出たのに! あの小娘ときたら英知の街で数か月も無駄に……腹いせに鬼武者と強制戦闘の突発クエストを仕掛ければ、クリアされる始末!
『居ますか、セルゲイ』
『なんの用だ、アルバート!』
モニターの一つにアルバートが映る。
『オルフェ担当の第二ステージでバグが発生し、私一押しのコセ様の活躍をあまり編集出来ていないのです』
『それがどうした!』
貴様のお気に入りのせいで、ユイに仕掛ける予定だった突発クエストを修正せねばならなくなったんだぞ!
俺の担当は第三と第四と第五の港まで。
第五ステージのダンジョンに入られたら、突発クエストを仕掛けられない!
『ボス戦も一撃で終わらせてしまったため、イマイチ撮れ高に欠けるのです。そこで、貴方にはコセ様が死んでもおかしくないくらい危険なクエストを仕組んで欲しいのですよ』
本気で言っているのか、コイツは?
『そのコセが死んでも、構わないと言うのだな?』
『死んだらそれまで。でしょ?』
このゲームは元々、奴等が死ぬまでの過程を娯楽にしただけ。
『その通りだな』
良いだろう、急に楽しくなってきた!
『大衆が喜びそうなクエストを用意すると、約束してやろう』
『よろしくお願いしますね。では、その一助にコレを使ってください』
アルバートから送られてきたデータを確認する。
『デスアーマー・ランサー? 九十ステージ以降に登場するモンスターではなかったか?』
『能力値は相応に弱めてありますよ。大事なのは中身です』
『……ああ、そういう事か』
アルバートの動画人気に繋がるのは癪だが、確かにコレは面白い!
●●●
俺はトゥスカとメルシュの三人で、砂浜に来ていた。
怪魚の港は周りの六割が山で囲まれ、四割が海に面している。
「海に出るのかい? そこの小舟を使っても良いよ。一人1000Gだ」
チョイスプレートを操作し、漁師らしき男に3000G払う。
三人で小舟に乗り込むと、勝手に進み出す。
「それで、この後はどうなるのですか?」
「ジャイアントフィッシュが出現する沖合に着くから、そこでひたすらLv上げだね。たまにジャイアントフィッシュ以外のモンスターも出るけれど」
「ジャイアントフィッシュ以外?」
嫌な予感がしたので聞いてみる。
「アビスホエールとか、ボーンホエールとか」
「アビスホエールって、かなり厄介だって聞いた気がするんだけれど?」
「むしろ、ボーンホエールの方が厄介かも。魔法が効かないから」
本当に大丈夫か? 不安になってきた。
「“索敵”に反応。来ますよ」
トゥスカの言葉に遅れて数十秒後、海面が盛り上がって、ジャイアントフィッシュが飛び出してきた!
「“万雷魔法”、トワイライトスプランター!!」
ジャイアントフィッシュが、メルシュの魔法により一撃で倒される。
「“雷属性付与”、ハイパワーブーメラン!!」
海面から飛び出しかけた別のジャイアントフィッシュの頭を、“荒野の黄昏は色褪せない”で両断するトゥスカ。
「俺もやるか…………メルシュ、あそこ……異様に海面が盛り上がってないか?」
ジャイアントフィッシュの比じゃない!
「え? アレって!」
海面から飛び出したのは…………あまりにも巨大すぎる白い鯨。
「アレが、アビスホエールか!!」
空を飛んでいる。
「が、ガルガンチュアより大きいのでは?」
「うそ……昼間の出現率は十万分の一以下なのに!」
『ボウヲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!』
耳が!!
「ぐぅ……き、来ます!」
鯨の周りから、幾つもの水弾が飛んでくる!!
「”古代竜魔法”、ドラゴコフィン!!」
竜の骨で造られた棺の盾で、水弾を受けきる!
サブ職業の“古代竜”によって使用可能となった、強力な魔法。
「マスター、“滅剣ハルマゲドン”を!」
「へ?」
最近、強敵相手にアレばっかり使ってるから嫌なんだけれど。
「アイツは、下手したら魔神よりも強いんだよ! 早く!!」
ジュリー達から聞いていた話しだと、そこまで強くないと思うんだけれど?
「“飛行魔法”、フライ!」
浮かび上がったメルシュが俺を抱きかかえ、空へと誘う!
メルシュはかなりの勢いで高度を上げているのに、中々近付かない。
飛んでくる水弾を躱しながら上昇を続け、ようやくアビスホエールの上を取る!
「一撃で決めて、マスター!!」
メルシュに――勝手に墜とされた!!?
「クソ! “終末の一撃”!!」
憶えてろよ、メルシュ!
アビスホエールの背に、黒の衝撃を叩き込んだ!!
『ボウヲエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェ……』
鯨の背が派手に吹き飛ぶも、消滅しない!!
「魔神だって一撃倒せるのに、耐えたって言うのか!?」
まずい! このままだと、下に居るトゥスカが!!
「ハイパワーフリック!」
“強者のグレートソード”に持ち替え、大剣術で深々と突き刺す!
「ハイパワーブレイク!!」
終末の一撃程じゃないが、内側から派手に肉を吹き飛ばした!
「“二重武術”、ハイパワーブレイク!!」
”武器隠しのマント”から“鯨骨の大刀”を取り出し、二発同時のハイパワーブレイクをぶつける!
「“古代竜魔法”、ドラゴノヴァ!!」
巨大鯨の内側に入り、全てのMPを消費して発動する魔法を行使!
全方位に向かう赤銅色の閃光が、巨大鯨の身体を四散させた。
MPを全て消費し、TPも半分以下になってしまったか。
急速に疲れた状態で、俺は海に叩きつけられる。
「ぐ……イッテー」
腹から落ちた。
「鎧……重い!」
武器もどこかに落としてしまった!
疲れで……浮くのを維持するのが!
「ご主人様!」
トゥスカが必死に泳いできた!
「無事ですか、ご主人様!」
抱き締められた事で、溺死する未来が回避されて一安心する。
「トゥスカこそ無事か?」
「私は大丈夫です……ボートは沈んじゃいましたけれど」
無言で見つめ合って――キスをした。
「しょっぱいキスですね♡」
「だな」
その後、メルシュが迎えに来るまで、俺とトゥスカは唇を重ね続けた。
小さい頃、食べ物に感謝をするようにとか、命を戴くことに感謝をって教わったけれど……シレイアやコセに言われて、全然実感していなかった事に気付いた。
コセ達が、毎回わざわざ戴きます言ってるのを見て、内心ちょっと笑ってたし。
「ハァー、恥ずかしい女」
コセが槍の男を殺したのは、多分私のせいだ。
私が、コセが槍の男に目を付けられる状況を作ってしまったのだから。
私が今笑って生きていられるのは、コセが私の恐怖そのものであった槍男を殺してくれたおかげ。
なのに私、コセ以外の人が人を殺したって聞いて、胸糞悪く……違う、そこじゃない。
人殺しが偉いわけじゃないって、コセだって言ってたじゃない。
コセ以外の皆を軽蔑してしまった私に、嫌気がさしたんだ!
結局私は、自分が感情的にどう思うかで物事を判断していた。
トゥスカやユイが、好き好んで人殺しをするような人間じゃないって分かってたのに。
「でも、私には分からないよ……コセ」
コセ達の考えを受け入れてしまったら、私の中の正しさが壊れちゃうよ。
それが、どうしようもないくらい……怖い。
「助けて……コセ」
◇◇◇
『ユイめ、まさかアルバートのお気に入りと組むとは!』
ユイをメインに動画を作製したら、最初は人気が出たのに! あの小娘ときたら英知の街で数か月も無駄に……腹いせに鬼武者と強制戦闘の突発クエストを仕掛ければ、クリアされる始末!
『居ますか、セルゲイ』
『なんの用だ、アルバート!』
モニターの一つにアルバートが映る。
『オルフェ担当の第二ステージでバグが発生し、私一押しのコセ様の活躍をあまり編集出来ていないのです』
『それがどうした!』
貴様のお気に入りのせいで、ユイに仕掛ける予定だった突発クエストを修正せねばならなくなったんだぞ!
俺の担当は第三と第四と第五の港まで。
第五ステージのダンジョンに入られたら、突発クエストを仕掛けられない!
『ボス戦も一撃で終わらせてしまったため、イマイチ撮れ高に欠けるのです。そこで、貴方にはコセ様が死んでもおかしくないくらい危険なクエストを仕組んで欲しいのですよ』
本気で言っているのか、コイツは?
『そのコセが死んでも、構わないと言うのだな?』
『死んだらそれまで。でしょ?』
このゲームは元々、奴等が死ぬまでの過程を娯楽にしただけ。
『その通りだな』
良いだろう、急に楽しくなってきた!
『大衆が喜びそうなクエストを用意すると、約束してやろう』
『よろしくお願いしますね。では、その一助にコレを使ってください』
アルバートから送られてきたデータを確認する。
『デスアーマー・ランサー? 九十ステージ以降に登場するモンスターではなかったか?』
『能力値は相応に弱めてありますよ。大事なのは中身です』
『……ああ、そういう事か』
アルバートの動画人気に繋がるのは癪だが、確かにコレは面白い!
●●●
俺はトゥスカとメルシュの三人で、砂浜に来ていた。
怪魚の港は周りの六割が山で囲まれ、四割が海に面している。
「海に出るのかい? そこの小舟を使っても良いよ。一人1000Gだ」
チョイスプレートを操作し、漁師らしき男に3000G払う。
三人で小舟に乗り込むと、勝手に進み出す。
「それで、この後はどうなるのですか?」
「ジャイアントフィッシュが出現する沖合に着くから、そこでひたすらLv上げだね。たまにジャイアントフィッシュ以外のモンスターも出るけれど」
「ジャイアントフィッシュ以外?」
嫌な予感がしたので聞いてみる。
「アビスホエールとか、ボーンホエールとか」
「アビスホエールって、かなり厄介だって聞いた気がするんだけれど?」
「むしろ、ボーンホエールの方が厄介かも。魔法が効かないから」
本当に大丈夫か? 不安になってきた。
「“索敵”に反応。来ますよ」
トゥスカの言葉に遅れて数十秒後、海面が盛り上がって、ジャイアントフィッシュが飛び出してきた!
「“万雷魔法”、トワイライトスプランター!!」
ジャイアントフィッシュが、メルシュの魔法により一撃で倒される。
「“雷属性付与”、ハイパワーブーメラン!!」
海面から飛び出しかけた別のジャイアントフィッシュの頭を、“荒野の黄昏は色褪せない”で両断するトゥスカ。
「俺もやるか…………メルシュ、あそこ……異様に海面が盛り上がってないか?」
ジャイアントフィッシュの比じゃない!
「え? アレって!」
海面から飛び出したのは…………あまりにも巨大すぎる白い鯨。
「アレが、アビスホエールか!!」
空を飛んでいる。
「が、ガルガンチュアより大きいのでは?」
「うそ……昼間の出現率は十万分の一以下なのに!」
『ボウヲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!』
耳が!!
「ぐぅ……き、来ます!」
鯨の周りから、幾つもの水弾が飛んでくる!!
「”古代竜魔法”、ドラゴコフィン!!」
竜の骨で造られた棺の盾で、水弾を受けきる!
サブ職業の“古代竜”によって使用可能となった、強力な魔法。
「マスター、“滅剣ハルマゲドン”を!」
「へ?」
最近、強敵相手にアレばっかり使ってるから嫌なんだけれど。
「アイツは、下手したら魔神よりも強いんだよ! 早く!!」
ジュリー達から聞いていた話しだと、そこまで強くないと思うんだけれど?
「“飛行魔法”、フライ!」
浮かび上がったメルシュが俺を抱きかかえ、空へと誘う!
メルシュはかなりの勢いで高度を上げているのに、中々近付かない。
飛んでくる水弾を躱しながら上昇を続け、ようやくアビスホエールの上を取る!
「一撃で決めて、マスター!!」
メルシュに――勝手に墜とされた!!?
「クソ! “終末の一撃”!!」
憶えてろよ、メルシュ!
アビスホエールの背に、黒の衝撃を叩き込んだ!!
『ボウヲエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェ……』
鯨の背が派手に吹き飛ぶも、消滅しない!!
「魔神だって一撃倒せるのに、耐えたって言うのか!?」
まずい! このままだと、下に居るトゥスカが!!
「ハイパワーフリック!」
“強者のグレートソード”に持ち替え、大剣術で深々と突き刺す!
「ハイパワーブレイク!!」
終末の一撃程じゃないが、内側から派手に肉を吹き飛ばした!
「“二重武術”、ハイパワーブレイク!!」
”武器隠しのマント”から“鯨骨の大刀”を取り出し、二発同時のハイパワーブレイクをぶつける!
「“古代竜魔法”、ドラゴノヴァ!!」
巨大鯨の内側に入り、全てのMPを消費して発動する魔法を行使!
全方位に向かう赤銅色の閃光が、巨大鯨の身体を四散させた。
MPを全て消費し、TPも半分以下になってしまったか。
急速に疲れた状態で、俺は海に叩きつけられる。
「ぐ……イッテー」
腹から落ちた。
「鎧……重い!」
武器もどこかに落としてしまった!
疲れで……浮くのを維持するのが!
「ご主人様!」
トゥスカが必死に泳いできた!
「無事ですか、ご主人様!」
抱き締められた事で、溺死する未来が回避されて一安心する。
「トゥスカこそ無事か?」
「私は大丈夫です……ボートは沈んじゃいましたけれど」
無言で見つめ合って――キスをした。
「しょっぱいキスですね♡」
「だな」
その後、メルシュが迎えに来るまで、俺とトゥスカは唇を重ね続けた。
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