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ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

70.ジュリーとの一夜

 ……眠れない。

 お風呂の後、ジュリーはユイとシレイア以外のメンバーに話して回り、俺と二人で一夜を明かす算段を取り付けた。

 もう、ユイに正直に話した方が良いんじゃないか? そう遠くないうちにバレると思うんだけれど。

 今俺は、寝室中央のベッドの上、ジュリーと背中合わせで横になっている。

「……コセ、起きてるよね?」
「……うん」

 衣擦れの音とベッドの揺れで、ジュリーがこちらに向きを変えたのが分かった。

「コセは全部終わった後、この世界に残るんだよね?」
「トゥスカを、あっちに連れて行くわけにはいかないからな」

 スキルが使えなくなっていたとしても、獣人である時点で人攫いとか解剖されたりしかねないし。

 トゥスカが居なかったとしても、戻りたいとは思わない。
 実際、戻れるのかどうかも分からないけれどな。

「ジュリーは戻りたいのか?」
「……戻る理由、無いかな」
「家族は?」

 俺達が巻き込まれたこのゲームのオリジナルを作った二人は、彼女の両親。

「両親は死んだんだ、二年前に」
「……そうか」

 今のは謝るべき……だったのだろうか?

 俺は、自分の親の死に対して悲しいと思うのかな?
 トゥスカやジュリー達の方が、あの家族が死ぬよりも悲しいと断言できるが、アイツらが死んでも特になんとも思わない気がする。

 こんな話しを誰かにしたら、冷たい奴だと、人としておかしいとか言われるんだろうな。

「両親が……好きだったのか?」
「うん……二人が作ったゲームも好きで、夢中になって遊んでた」

 俺の家族よりちゃんと家族をやっていたんだな、ジュリーは。

「事故って言ったけれど、本当は奴等が……デルタが関わっていたらしいんだ」

「デルタが?」

「両親が死んだ後、司法機関を名乗る奴等が家にやって来て……ゲームに関係する物を全て押収していったんだ。おかしいって思って調べたんだけれど、そいつらは本物の役人だった」
「デルタは、あの世界でそれだけの権力を持っているって事か」

 金融的に、法的に世界を実質支配している連中ってメルシュが言っていたけれど、あまり実感は無かった。

「そんな奴等に支配された世界に、帰りたいなんて思えないよ」

 ジュリーの手が俺の服を掴んで、額を押し付けてくる。

「トゥスカの次で良いから、私も……傍にいちゃダメ?」
「…………」

 身体を回転し、ジュリーの方を向く。

「全部終わった後、それでも一緒に居たいって思うなら、責任取るって言ったろ?」
「その場しのぎの嘘じゃなかったの?」
「俺が、そういう事を無責任に言う奴だと思ってたのか?」
「まさか」

 濡れたジュリーの瞳が、俺を見据える。

 窓から差し込む月光に照らされた金髪の美少女が、本物の女神のように見えた。


「言ったでしょ。向こうの世界に居た頃も含めて、私は、コセ程信じられる男を知らないって」


 そのセリフは……今は本当にやめてほしい。

 理性が吹っ飛びそうになるから!

「コセ」

 ジュリーの唇が近付いてくる!

「ジュリー!」

 唇が重なる前に、ジュリーを抱き締めた。

「こ、コセ?」

 今のジュリーを拒めないくらいには、俺は彼女に惹かれている。

 だから口付けを回避するために、強く彼女を抱き締めた。

「今は、これで勘弁してくれ」


 俺はまだ、俺が嫌いな俺になりたくない。


「ありがとう、コセ」

 ジュリーの温もりが、とても心地良かった。

 
●●●


「……今日、静かだな」

 アタシのマスターがコセの寝室の扉に耳を当てて、中の様子を探っている。

 このアタシの誘いを頑なに拒んだあの男の事だ。今夜はただ、一緒に寝るだけなんだろうさ。

「ほら、戻るよマスター」

 その気になれば幾らでも良い想いが出来る環境に居るくせに、変わった奴。

 まあ、筋を通す男は嫌いじゃないよ。フフフフフ♪

「うぅ……楽しみにしてたのに」

 それにしても、うちのマスターはなんでこんなにハーレム好きなんだか。


●●●


 日の光を感じる。

「……ん」

 今日はなんか、いつもと違う感じ。

 あったかくて、安心する匂い♡

 ずっと、このままでいたい。

「……て、はっ!」

 そ、そそ、そうだった~~~!! き、昨日はコセと一緒に寝たんだったーーー!!

 わ、私、一晩中コセに抱き締められて、胸の中で眠って……ふぁぁぁあああああ♡!!

「お、起きないと! ちょ……力強い!」
「すー、すー」

 まだ眠ってる! ……ちょ、ちょっと寝顔……可愛いかも♡

 じゃない! この状態でコセが起きたら気まずい!

 さっきよりも強く身じろぎする!
 ダメ。力を込めれば込めるほど、コセの腕の力が強くなっていく!

「んっ」
「ちょ、どこ触って!」

 ガッシリ、桃の片割れを揉まれてる!!

「ん……やめ……」

 ほ、本当は起きてるの?

「すー、すー」

 寝とる!!

「トゥ……スカ……朝……キス」

 おはようのキスしろってか!
 毎朝そんな事してたのか、この二人!

「……こ、コセが悪いんだからね♡」


 唇を近付けて……たおやかにくっ付けた。


「お、起きてよ、コセ♡」

 じゃないと、私……。

「あん!!?」

 や、やめ! そんなにネットリ、唇を絡ませないで!

「んん! んん!! んん♡」

 長い長い、キスが全然終わらない♡

「トゥスカ、今朝もありがとう。おかげで目が覚め………………ごめん」

 正気に戻って発した言葉がそれか!!

「ハアハア、今夜抱いてくれなきゃ、絶対に許さない♡」
「そ、それは……」

 どうしてくれよう、この男♡


●●●


 なんか、二人の距離感がおかしい。

「コセ、お醤油取って」
「はい……」
「コセ、おかわり♪」
「はい……」

 ご主人様がジュリーのスープを盛る。
 昨夜、二人は上手くいったの?

 それにしては、ご主人様がずいぶん恐縮している気が。

「じゃあ、私達三人はLv上げに行くから、他の人は館から出ないでね」
「へ、なんで?」

 メルシュの言葉に、ユリカが疑問の声を上げた。

「おかしな連中に絡まれたら、交戦せざる負えませんから。うっかり殺生してしまったら、Lvが上がってしまうかもしれません」

「殺生。そう……だな」

 私の発言に、動揺するユリカ。

 ご主人様と同じ世界から来た人間には、この話題は刺激が強すぎたか。

「そういや、あんたらは人殺しの経験ってあるのかい?」


 シレイアの言葉に、空気が凍った。


「俺はある」
「私もです」
「私はまだ」

 ご主人様が口火を切り、私、メルシュと答える。

「私はない」
「タマもないです」
「ないわよ……」

 ジュリー達三人はゼロか。

「マスターは?」
「……あるよ。英知の街で二人殺した」

 ユイさんの言葉に。明らかな嫌悪を抱いたのはユリカだけ。

 ジュリーは、嫌そうではあるけれど理解はしているって感じだ。

「ユリカ、いつかは人間と命のやり取りをする日が来る。覚悟はしておいた方が良いよ。じゃないと、アンタかアンタの周りの人間が死ぬかもね」

「な、なんで私にだけ言うのよ!」
「仕方ないだろう。見たところ、覚悟が出来ていないのはアンタだけみたいだからね」

 シレイア、汚れ役を買って出たの?

「そういうお前はどうなのさ!!」

「片手じゃ足りないくらいは殺してるよ」
「へ、いつの間に?」

 シレイアの発言に、ユイが驚く。

「前のマスターと一緒に行動していた時さ。アタシら隠れNPCは、死んだら改めて、別の誰かが入手出来るようになる仕様になってんのさ」

「つまり、シレイアさん達は死なないってこと?」

「厳密には、記憶を受け継いだコピーって所だね」

 私には、シレイアが言っている事がよく分からない。

「ユリカ、アンタはこれまでにたくさんのモンスターを倒してきたはずだ。そいつらはゲーム上に用意された存在だけれど、生きていないわけじゃないんだよ」

「も、モンスターはモンスターでしょ!」

「モンスターだって動物で、人間だって動物さ。そこから目を背けていたら……」
「やめろ、シレイア。ユリカに言っても無駄だ」
「コセ……私には無駄って……」

 ご主人様の言葉に、ユリカさんが愕然とする。

「人殺しが偉いわけじゃない。シレイアも、ユリカを責めるつもりだったわけじゃないさ」

 少しだけど落ち着くユリカ。

「でも、今俺達が食べている物がなんなのかは、よく考えろ。そこから目を背ける人間は、俺は嫌いだ」

「……うん」

 妙な空気の中、私達の朝食は終わった。

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