ダンジョン・ザ・チョイス
60.神の失望
「メインシステムって言い方をしているけれど、コンピュータとは似て非なる物なんだよ。アレは」
メルシュが立ち上がり、話し始める。
「まず奴等、デルタについて教えておくね」
神のような超常現象を起こせる者達。その正体は……。
「アイツらは、ただの人間だよ」
「「「「へ?」」」」
ジュリー以外が驚いてしまう。
「で、ででで、デルタ様が……た、ただの人間!?」
タマがとんでもなく動揺している。
「私達獣人は、学校でデルタは神の使いと教えられますから。タマのように純心な子は、デルタそのものを神と同一視して捉えています」
「そうなんだ」
あの誘い人が神の使い……ブフッ!
「アイツらが神の使い? 奴等は神の意志を踏みにじる愚者よ!」
メルシュが感情的になる。
「マスター達の世界が多くの神から見放されたのは、元はと言えば奴等のせいなんだから! あの神の支族を語る不届き者ども!」
「神が見放した?」
「遥か昔、マスター達の世界は神々に愛されていました」
……どんどんオカルト話に。
「神々が、本格的に人間を見放し始めたきっかけは二つ。世界大戦です」
「世界大戦?」
「神の意志を僭称する者達が世界に台頭し、支配していった事で、世界の本質を見る力が失われていきました。それは、人と神々の間に大きな隔たりを作っていった」
大分お伽話じみてきたな。
「そして、二度目の世界大戦において、多くの神々が世界を見放す出来事が起きました。原爆の投下です」
「ゲンバク?」
トゥスカとタマには、もう訳が分からないよな。
「強力な爆弾だと思えば良い。英知の街が跡形も無く消えるくらいのな」
日本に落とされた原爆は、現在地球上にある原爆の中では威力は低いはずだけれど。
「作った事にではなく、投下が問題だったって事か?」
「作るのも問題なんですけれど、見方によっては……一番は、どういう目的で使ったのかです」
「どういう目的?」
「龍の島の民は、神々の数少ない希望だった」
龍の島?
「でも、希望は塗り潰された。原爆と度重なる空襲、そして、その後の思想破壊。一部の神は、今でも特定の者達に力を貸しているようだけれど、大多数の神はマスター達の世界を見限った」
「……神は、人間になにを求めていたんだ?」
「それは内緒」
メルシュが可愛らしく人差し指を立てる。
「話しを戻しますね。デルタはその後、世界を金融的、法的に支配し、神の力を利用する方法を見付けた。でも、その頃には力を持った神々は居なくなっていた」
「待て……デルタは、俺達の世界の人間なのか?」
「その通りです。だから奴等は、偶発的に発見した異世界を侵略し、この世界の神々を捕らえた」
「まさかそれが……」
ジュリーが驚愕する。
多分、俺と同じ答えに至っているのだろう。
「ダンジョン・ザ・チョイスのメインシステムは、囚えられた神々を変質させた物なんだよ」
話がデカくなりすぎだ。
メルシュが言う神々が、どのような存在なのかは分からないけれど。
「本当に、貴方ではどうにも出来ないの?」
ジュリーが、祈るようにメルシュに尋ねる。
「私だけじゃどうにも出来ない。囚われている神を解放するには、神に直接干渉できる人間が要る」
それ、人間か?
「直接干渉って、意味が分からないんだけれど? 誰なら可能なんだ?」
「一番可能性があるのは…………マスターだよ」
「俺? ……なんで?」
本当に意味が分からない。
「このゲームが仕組まれる前は、マスター達のような人間は問答無用で消されていたんだよ」
「俺みたいな人間ってなんだ?」
「一言で言うなら、神に愛される素質。そういう人間を奴等は恐れている。だから、マスター達のような人間を始末する場を用意し、同時に自分達が楽しむための最高のエンタテインメントにした。それが……このゲームの正体」
醜悪だ。同じ人間のすることとは思えない。
「つまり、コセを最深部まで連れて行けば、このゲームを終わらせられるんだな!」
立ち上がるジュリー。
「マスターが今のところ一番可能性があるってだけで、今のままじゃ無理だよ。それに、アイツらにゲームをクリアさせる気があるとは思えないし。可能性は限りなく低い」
「それでも、可能性があるなら!」
ジュリーが、テーブルを挟んで俺の前に立つ。
「コセ。私は、コセを守るためならなんでもする!」
――ジュリーが土下座した。
「だからお願いだ。このゲームを終わらせてください! これ以上、私達家族の大切な思い出を……穢されたくないんだ!」
ジュリーが必死だった理由が、大体分かった。
「このダンジョンから脱出する気はあるから、取り敢えずはよろしく」
ジュリーに握手を求める。
「そこで豪胆な発言をしてくれるなら、抱かれてあげても良かったのに」
笑顔で握手に応えようとしたジュリーの手を、俺は避けた。
「へ?」
「安っぽい女は嫌いだって言ってるだろう」
「もしかして……怒ってる」
「そもそも、そういう発言って自分の身体に自信がある奴の発言だよな。馬鹿にされている気がして嫌になる」
「なっ!!? コセ……わ、私が軽い気持ちでこんな事言うような女だと思っているのか!! お前の発言こそ、私に対する侮辱だぞ!」
「「「痴話喧嘩が始まったよ」」」
「「違う!!」」
トゥスカとユリカ、メルシュの言葉を二人同時に否定する。
「お、お前がトゥスカを助けるために戦っていたのを見て……格好いいと思えたから……」
槍男に、間抜けにも不意打ち食らって死にかけた時のことか。
「それに……夫婦だし」
「あれは、アイテムとして有用な婚姻の指輪を手に入れるためだろう」
「“最高級の婚姻の指輪”を生み出したんですから、正真正銘の夫婦になっても良いと思いますけれどね」
「「ダメに来まってるだろう!」」
メルシュめ、適当なことを言いやがって。
「ご主人様は、どうして一対一にこだわるのですか? 私の父親は、正妻が二人に愛人が六人も居ましたよ」
トゥスカさん、お父さんはクズなの?
「モンスターや戦争で男は女より少なくなりますから、私達獣人は一夫多妻制が普通なんです。そうしないと生きていけない女子供だって居るんです」
タマがフォローしてきた。
まあ、日本にだって耳を疑うような性文化はあったらしいけれどさ。
自由恋愛なんて、当たり前になったのはここ数十年の話しらしいし。
俺が、人一倍潔癖な考えの人間なのかもしれないけれど。
「……取り敢えず、昼飯にしようか」
なんか、急に疲れたな。
●●●
「おかしい」
この小さな山村で、どれだけコセさん達を捜しても見付からないなんて。
「サトミー、そろそろ宿を探さない?」
アヤちゃんが提案してくる。
「そうね」
もうすぐ日が暮れちゃうし。
「サトミ様、あれ!」
リンピョンちゃんが指し示した先には……メルシュちゃん!
「メルシュちゃ~ん!」
急いでメルシュちゃんに駆け寄る。
「コセさん達はどこに行ったの? ていうか、なんで待っててくれないの~!?」
「それよりも、マスター達は明日か明後日にはダンジョンに潜るつもりですから、置いていかれないように急いだ方が良いですよ」
「そんな~」
昨日は頑張ったのに~!
結婚したあと魔法を修得して、探索場で戦って、旅支度を整えて。
「取り敢えず、私が次のステージのレクチャーをするので、よく聞いて準備を整えて」
「わ、分かったわ!」
置いていかれたら、誘惑するチャンスも無くなっちゃうしね!
メルシュが立ち上がり、話し始める。
「まず奴等、デルタについて教えておくね」
神のような超常現象を起こせる者達。その正体は……。
「アイツらは、ただの人間だよ」
「「「「へ?」」」」
ジュリー以外が驚いてしまう。
「で、ででで、デルタ様が……た、ただの人間!?」
タマがとんでもなく動揺している。
「私達獣人は、学校でデルタは神の使いと教えられますから。タマのように純心な子は、デルタそのものを神と同一視して捉えています」
「そうなんだ」
あの誘い人が神の使い……ブフッ!
「アイツらが神の使い? 奴等は神の意志を踏みにじる愚者よ!」
メルシュが感情的になる。
「マスター達の世界が多くの神から見放されたのは、元はと言えば奴等のせいなんだから! あの神の支族を語る不届き者ども!」
「神が見放した?」
「遥か昔、マスター達の世界は神々に愛されていました」
……どんどんオカルト話に。
「神々が、本格的に人間を見放し始めたきっかけは二つ。世界大戦です」
「世界大戦?」
「神の意志を僭称する者達が世界に台頭し、支配していった事で、世界の本質を見る力が失われていきました。それは、人と神々の間に大きな隔たりを作っていった」
大分お伽話じみてきたな。
「そして、二度目の世界大戦において、多くの神々が世界を見放す出来事が起きました。原爆の投下です」
「ゲンバク?」
トゥスカとタマには、もう訳が分からないよな。
「強力な爆弾だと思えば良い。英知の街が跡形も無く消えるくらいのな」
日本に落とされた原爆は、現在地球上にある原爆の中では威力は低いはずだけれど。
「作った事にではなく、投下が問題だったって事か?」
「作るのも問題なんですけれど、見方によっては……一番は、どういう目的で使ったのかです」
「どういう目的?」
「龍の島の民は、神々の数少ない希望だった」
龍の島?
「でも、希望は塗り潰された。原爆と度重なる空襲、そして、その後の思想破壊。一部の神は、今でも特定の者達に力を貸しているようだけれど、大多数の神はマスター達の世界を見限った」
「……神は、人間になにを求めていたんだ?」
「それは内緒」
メルシュが可愛らしく人差し指を立てる。
「話しを戻しますね。デルタはその後、世界を金融的、法的に支配し、神の力を利用する方法を見付けた。でも、その頃には力を持った神々は居なくなっていた」
「待て……デルタは、俺達の世界の人間なのか?」
「その通りです。だから奴等は、偶発的に発見した異世界を侵略し、この世界の神々を捕らえた」
「まさかそれが……」
ジュリーが驚愕する。
多分、俺と同じ答えに至っているのだろう。
「ダンジョン・ザ・チョイスのメインシステムは、囚えられた神々を変質させた物なんだよ」
話がデカくなりすぎだ。
メルシュが言う神々が、どのような存在なのかは分からないけれど。
「本当に、貴方ではどうにも出来ないの?」
ジュリーが、祈るようにメルシュに尋ねる。
「私だけじゃどうにも出来ない。囚われている神を解放するには、神に直接干渉できる人間が要る」
それ、人間か?
「直接干渉って、意味が分からないんだけれど? 誰なら可能なんだ?」
「一番可能性があるのは…………マスターだよ」
「俺? ……なんで?」
本当に意味が分からない。
「このゲームが仕組まれる前は、マスター達のような人間は問答無用で消されていたんだよ」
「俺みたいな人間ってなんだ?」
「一言で言うなら、神に愛される素質。そういう人間を奴等は恐れている。だから、マスター達のような人間を始末する場を用意し、同時に自分達が楽しむための最高のエンタテインメントにした。それが……このゲームの正体」
醜悪だ。同じ人間のすることとは思えない。
「つまり、コセを最深部まで連れて行けば、このゲームを終わらせられるんだな!」
立ち上がるジュリー。
「マスターが今のところ一番可能性があるってだけで、今のままじゃ無理だよ。それに、アイツらにゲームをクリアさせる気があるとは思えないし。可能性は限りなく低い」
「それでも、可能性があるなら!」
ジュリーが、テーブルを挟んで俺の前に立つ。
「コセ。私は、コセを守るためならなんでもする!」
――ジュリーが土下座した。
「だからお願いだ。このゲームを終わらせてください! これ以上、私達家族の大切な思い出を……穢されたくないんだ!」
ジュリーが必死だった理由が、大体分かった。
「このダンジョンから脱出する気はあるから、取り敢えずはよろしく」
ジュリーに握手を求める。
「そこで豪胆な発言をしてくれるなら、抱かれてあげても良かったのに」
笑顔で握手に応えようとしたジュリーの手を、俺は避けた。
「へ?」
「安っぽい女は嫌いだって言ってるだろう」
「もしかして……怒ってる」
「そもそも、そういう発言って自分の身体に自信がある奴の発言だよな。馬鹿にされている気がして嫌になる」
「なっ!!? コセ……わ、私が軽い気持ちでこんな事言うような女だと思っているのか!! お前の発言こそ、私に対する侮辱だぞ!」
「「「痴話喧嘩が始まったよ」」」
「「違う!!」」
トゥスカとユリカ、メルシュの言葉を二人同時に否定する。
「お、お前がトゥスカを助けるために戦っていたのを見て……格好いいと思えたから……」
槍男に、間抜けにも不意打ち食らって死にかけた時のことか。
「それに……夫婦だし」
「あれは、アイテムとして有用な婚姻の指輪を手に入れるためだろう」
「“最高級の婚姻の指輪”を生み出したんですから、正真正銘の夫婦になっても良いと思いますけれどね」
「「ダメに来まってるだろう!」」
メルシュめ、適当なことを言いやがって。
「ご主人様は、どうして一対一にこだわるのですか? 私の父親は、正妻が二人に愛人が六人も居ましたよ」
トゥスカさん、お父さんはクズなの?
「モンスターや戦争で男は女より少なくなりますから、私達獣人は一夫多妻制が普通なんです。そうしないと生きていけない女子供だって居るんです」
タマがフォローしてきた。
まあ、日本にだって耳を疑うような性文化はあったらしいけれどさ。
自由恋愛なんて、当たり前になったのはここ数十年の話しらしいし。
俺が、人一倍潔癖な考えの人間なのかもしれないけれど。
「……取り敢えず、昼飯にしようか」
なんか、急に疲れたな。
●●●
「おかしい」
この小さな山村で、どれだけコセさん達を捜しても見付からないなんて。
「サトミー、そろそろ宿を探さない?」
アヤちゃんが提案してくる。
「そうね」
もうすぐ日が暮れちゃうし。
「サトミ様、あれ!」
リンピョンちゃんが指し示した先には……メルシュちゃん!
「メルシュちゃ~ん!」
急いでメルシュちゃんに駆け寄る。
「コセさん達はどこに行ったの? ていうか、なんで待っててくれないの~!?」
「それよりも、マスター達は明日か明後日にはダンジョンに潜るつもりですから、置いていかれないように急いだ方が良いですよ」
「そんな~」
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