ダンジョン・ザ・チョイス
34.神の定義
「「戴きます!」」
盗賊のアジト内で、二人が夕食を食べている。
「美味しい!」
トゥスカが用意したご飯を、バクバク食べる……メシュ。
不便だったので、つい名前を覚えてしまった!
「NPCなのに、ご飯食べるんだな」
トゥスカが以前、NPCは飯も食わなければ眠りもしないと言っていたはずだが。
メシュは、本当に特殊なNPCなのかもしれない。
漠然とNPCと呼んでいたけれど、メシュがデータのような存在なら、俺やトゥスカはなんなのだろう?
実はトゥスカもNPCで、俺は死んでも元の世界に戻るだけ……だったりするのだろうか?
そもそも、俺が本物の巨勢 雄大だという保証も無い。
ここが本当は仮想空間で、俺は本当はただのデータでしかなかったとしたら?
――世界の全てが、とても空虚な物に変わっていってしまう!!
大きななにかに――――呑み込まれそうになる!!!
「お兄ちゃんは、一緒にご飯食べないの?」
「…………二人が……食べ終わったらな」
……メシュの言葉に、意識が引き戻された。
俺は今、見張り役をしていたんだったな。
二十一時を過ぎても安全エリアが見付からなかったため、アジト内にあった狭い部屋で一晩を過ごす事にしたのだ。
ここは一番奥の部屋で、通じている通路も狭い。
迷路になっている盗賊のアジト内で遭遇した敵は、人間のような見た目のバンディットだけ。
この場所なら、俺とトゥスカのどちらかだけでも敵に対処出来る。
「ご主人様、どちらが先に眠りますか?」
「トゥスカ達から寝てくれ」
眠くならないよう、いつもよりも食事を軽めに済ませた。
「一緒に寝よ、メシュちゃん」
トゥスカはNPCが嫌いだったはずなのに、メシュのことは気に入ったらしい。
扉の無い部屋で入り口付近に座りながら、耳に意識を集中して目を瞑る。
部屋の奥で、トゥスカとメシュが同じ毛布の中で眠りについた。
●●●
誰がなんのために、トライアングルシステムに介入したのかは分からない。
これまでとは違うパターン。
だが、今回の接触対象は面白い。
先程、かの少年は繋がりかけた。
だが、自己を失っては元も子も無い。
この世界は、考えようによっては彼を育てるのに適しているかもしれない。
観測者達に気取られぬよう、見定めねばならないが。
だけれど、この十数年で彼が一番可能性があるのは確か。
●●●
四時間くらい経ったか?
部屋の奥から物音。
「お兄ちゃん」
毛布の中から、メシュが出てきた。
座っていた俺の前まで、テトテト歩いてくる。
「眠れないのか?」
「寝たけど……起きちゃった」
「そうか」
……この子から感じる違和感、NPCだからってだけじゃないな。
「なにか用か?」
「……お兄ちゃんは、神様の存在を信じる?」
「神の定義による」
妙な質問をしてきたな。
「……どんな定義?」
「神は……人に過度な幸福を与えたりしない。主に見守っているだけだ。そして……一度として神の存在を疑わない者を、神は愛さない。つまり、祈れば救ってくれるなどという都合の良い神は存在しない」
こんな子供に、俺はなにを言っているんだ?
「他には?」
「神は……成長しようとしない人間を愛さない。それは知識や身体能力の事ではなく、万物の本質を見抜く……」
家族どころか、誰にも言えなかった事を口にしている。
それも、こんな子供に。
「お兄ちゃんは、人間が嫌いなの?」
「……嫌いだよ」
異性とかそんなもの全部関係なく、俺が唯一、本当に愛しているのは……トゥスカだけだ。
「もういいだろ、この話は」
神について、俺なりの見解を述べたに過ぎないが……口にしてはならない事を口にした。そんな気がする。
「へ?」
メシュの両手が俺の頬に触れ、おでこをくっ付けてきた。
「私は、お兄ちゃんを尊敬するよ」
そういって、メシュはトゥスカの方へ戻っていった。
◇◇◇
『始まりの村の激闘も、好評ですねー!』
特に、宿の中のアレが大盛り上がり!
コセ様には、是非ハーレムを作ってもらいたい所です。
まあ、さすがに本番シーンはカットしましたけれど!
『やり過ぎかとも思いましたが、ガルガンチュアにあの女を投入して良かった!』
パラサイトコアに女の残滓を刻んだ特別性。
おかげで、良い味を出してくれた!!
……九十パーセント、クエストは失敗すると思っていたんですけれどね~。
アレには、有象無象を振るいに掛ける意味合いもあった。
『それにしてもオルフェめ、自分の担当ステージで不具合を発生させるとは』
コセ様が盗賊のアジトに入った辺りから、映像も音声も入ってこない!
『そう言えば、あのジュリーとかいう小娘はオルフェが参加させている女でしたね』
私が担当じゃないから、彼女を直接視る事は出来ない。
だが、突発クエストの時の小娘の言動はあまりにも不可解。
まるで、以前にもパラサイトコアモンスターと戦った事があるかのような口振り。
『オルフェ……まさか本当に、教義に背くつもりではありませんよね~』
まあ良い。もう少し様子を見させて貰いましょうか。
告発なんて面倒ですしね~。
●●●
○この子を奴隷商に売り払って100000Gを手に入れますか?
私はNOを選択。
○この子を仲間に加えますか?
私は、もう一度NOを選択する。
○この子を見捨てますか?
「へ?」
おかしい! オルフェの情報では、三つ目の選択で○この子を攫われた場所に送りますか?と出るはず!
「……くっ!」
まさか、既にコセ達が!
私はもう一度NOを選択。
○この子を奴隷商に売り払って100000Gを手に入れますか?
ループした!
この子は本来、これと言った役目のないただのモブキャラ。
「ジュリー?」
「ジュリー様、顔色が悪いですよ?」
ユリカとタマが心配そうに私を見ている。
「……大丈夫よ」
あの選択を選べるのは、最初の一人だけ。
間違いなく、コセ達に先を越された!!
……あの二人の事だ。おそらく他のプレーヤーとは接触しない方を選んだだろう。
「だとすると、あの二人に会うにはボス部屋前で待ち伏せするしかない」
私はYESを選択し、メシュを奴隷に売り払った。
「酷い! 酷いよ!」
空間に穴が開き、下卑た男が少女に手を伸ばす。
「まいど」
「いやあああああああああ!! 助けて! 助けてよーーっ!!」
メシュは穴の中に引っ張られて消えた。
「ちょ、ジュリー!」
「彼女はNPCよ」
騒ぎ出すユリカを諫める。
「だからって……」
仲間に加えるを選択した場合、盗賊の頭領戦で裏切られるイベントが起きる。
見捨てるの場合、頭領戦の時に乱入して来るイベントが。
つまり最初の、奴隷商に売り払うのが損の無い唯一の選択なのだ。
あくまで、オルフェに聞いた限りの話しだけれど。
見られている現状では、この事を二人に伝えるわけにはいかない。
「急いで攻略を進めるよ」
こうなったら、コセ達の完全な形での特殊イベントクリアを期待するしかない。
その後は……。
盗賊のアジト内で、二人が夕食を食べている。
「美味しい!」
トゥスカが用意したご飯を、バクバク食べる……メシュ。
不便だったので、つい名前を覚えてしまった!
「NPCなのに、ご飯食べるんだな」
トゥスカが以前、NPCは飯も食わなければ眠りもしないと言っていたはずだが。
メシュは、本当に特殊なNPCなのかもしれない。
漠然とNPCと呼んでいたけれど、メシュがデータのような存在なら、俺やトゥスカはなんなのだろう?
実はトゥスカもNPCで、俺は死んでも元の世界に戻るだけ……だったりするのだろうか?
そもそも、俺が本物の巨勢 雄大だという保証も無い。
ここが本当は仮想空間で、俺は本当はただのデータでしかなかったとしたら?
――世界の全てが、とても空虚な物に変わっていってしまう!!
大きななにかに――――呑み込まれそうになる!!!
「お兄ちゃんは、一緒にご飯食べないの?」
「…………二人が……食べ終わったらな」
……メシュの言葉に、意識が引き戻された。
俺は今、見張り役をしていたんだったな。
二十一時を過ぎても安全エリアが見付からなかったため、アジト内にあった狭い部屋で一晩を過ごす事にしたのだ。
ここは一番奥の部屋で、通じている通路も狭い。
迷路になっている盗賊のアジト内で遭遇した敵は、人間のような見た目のバンディットだけ。
この場所なら、俺とトゥスカのどちらかだけでも敵に対処出来る。
「ご主人様、どちらが先に眠りますか?」
「トゥスカ達から寝てくれ」
眠くならないよう、いつもよりも食事を軽めに済ませた。
「一緒に寝よ、メシュちゃん」
トゥスカはNPCが嫌いだったはずなのに、メシュのことは気に入ったらしい。
扉の無い部屋で入り口付近に座りながら、耳に意識を集中して目を瞑る。
部屋の奥で、トゥスカとメシュが同じ毛布の中で眠りについた。
●●●
誰がなんのために、トライアングルシステムに介入したのかは分からない。
これまでとは違うパターン。
だが、今回の接触対象は面白い。
先程、かの少年は繋がりかけた。
だが、自己を失っては元も子も無い。
この世界は、考えようによっては彼を育てるのに適しているかもしれない。
観測者達に気取られぬよう、見定めねばならないが。
だけれど、この十数年で彼が一番可能性があるのは確か。
●●●
四時間くらい経ったか?
部屋の奥から物音。
「お兄ちゃん」
毛布の中から、メシュが出てきた。
座っていた俺の前まで、テトテト歩いてくる。
「眠れないのか?」
「寝たけど……起きちゃった」
「そうか」
……この子から感じる違和感、NPCだからってだけじゃないな。
「なにか用か?」
「……お兄ちゃんは、神様の存在を信じる?」
「神の定義による」
妙な質問をしてきたな。
「……どんな定義?」
「神は……人に過度な幸福を与えたりしない。主に見守っているだけだ。そして……一度として神の存在を疑わない者を、神は愛さない。つまり、祈れば救ってくれるなどという都合の良い神は存在しない」
こんな子供に、俺はなにを言っているんだ?
「他には?」
「神は……成長しようとしない人間を愛さない。それは知識や身体能力の事ではなく、万物の本質を見抜く……」
家族どころか、誰にも言えなかった事を口にしている。
それも、こんな子供に。
「お兄ちゃんは、人間が嫌いなの?」
「……嫌いだよ」
異性とかそんなもの全部関係なく、俺が唯一、本当に愛しているのは……トゥスカだけだ。
「もういいだろ、この話は」
神について、俺なりの見解を述べたに過ぎないが……口にしてはならない事を口にした。そんな気がする。
「へ?」
メシュの両手が俺の頬に触れ、おでこをくっ付けてきた。
「私は、お兄ちゃんを尊敬するよ」
そういって、メシュはトゥスカの方へ戻っていった。
◇◇◇
『始まりの村の激闘も、好評ですねー!』
特に、宿の中のアレが大盛り上がり!
コセ様には、是非ハーレムを作ってもらいたい所です。
まあ、さすがに本番シーンはカットしましたけれど!
『やり過ぎかとも思いましたが、ガルガンチュアにあの女を投入して良かった!』
パラサイトコアに女の残滓を刻んだ特別性。
おかげで、良い味を出してくれた!!
……九十パーセント、クエストは失敗すると思っていたんですけれどね~。
アレには、有象無象を振るいに掛ける意味合いもあった。
『それにしてもオルフェめ、自分の担当ステージで不具合を発生させるとは』
コセ様が盗賊のアジトに入った辺りから、映像も音声も入ってこない!
『そう言えば、あのジュリーとかいう小娘はオルフェが参加させている女でしたね』
私が担当じゃないから、彼女を直接視る事は出来ない。
だが、突発クエストの時の小娘の言動はあまりにも不可解。
まるで、以前にもパラサイトコアモンスターと戦った事があるかのような口振り。
『オルフェ……まさか本当に、教義に背くつもりではありませんよね~』
まあ良い。もう少し様子を見させて貰いましょうか。
告発なんて面倒ですしね~。
●●●
○この子を奴隷商に売り払って100000Gを手に入れますか?
私はNOを選択。
○この子を仲間に加えますか?
私は、もう一度NOを選択する。
○この子を見捨てますか?
「へ?」
おかしい! オルフェの情報では、三つ目の選択で○この子を攫われた場所に送りますか?と出るはず!
「……くっ!」
まさか、既にコセ達が!
私はもう一度NOを選択。
○この子を奴隷商に売り払って100000Gを手に入れますか?
ループした!
この子は本来、これと言った役目のないただのモブキャラ。
「ジュリー?」
「ジュリー様、顔色が悪いですよ?」
ユリカとタマが心配そうに私を見ている。
「……大丈夫よ」
あの選択を選べるのは、最初の一人だけ。
間違いなく、コセ達に先を越された!!
……あの二人の事だ。おそらく他のプレーヤーとは接触しない方を選んだだろう。
「だとすると、あの二人に会うにはボス部屋前で待ち伏せするしかない」
私はYESを選択し、メシュを奴隷に売り払った。
「酷い! 酷いよ!」
空間に穴が開き、下卑た男が少女に手を伸ばす。
「まいど」
「いやあああああああああ!! 助けて! 助けてよーーっ!!」
メシュは穴の中に引っ張られて消えた。
「ちょ、ジュリー!」
「彼女はNPCよ」
騒ぎ出すユリカを諫める。
「だからって……」
仲間に加えるを選択した場合、盗賊の頭領戦で裏切られるイベントが起きる。
見捨てるの場合、頭領戦の時に乱入して来るイベントが。
つまり最初の、奴隷商に売り払うのが損の無い唯一の選択なのだ。
あくまで、オルフェに聞いた限りの話しだけれど。
見られている現状では、この事を二人に伝えるわけにはいかない。
「急いで攻略を進めるよ」
こうなったら、コセ達の完全な形での特殊イベントクリアを期待するしかない。
その後は……。
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