ダンジョン・ザ・チョイス
32.天井散歩
上空から一方的に、ネイルグリズリーの大群を攻撃し続ける。
「数が多い分、経験値的には美味しいな」
Lvの概念に違和感はあるけれど。
「”ネイルグリズリーのスキルカード”、これで五枚目です」
暇なトゥスカは、チョイスプレートで獲得アイテムの確認をしてくれていた。
「他はネイルグリズリーの毛皮と、ネイルグリズリーのお肉ばかりですね」
危険なはずのダンジョンを、トゥスカをお姫様抱っこしたまま進む。悪くない!
むしろ良い!
トゥスカのぬくもりを感じながら、天井の逆さまお散歩。
頭に血が昇ってくる事に目を瞑れば、最高と言っても良い!
「安全エリア、見えてきましたね」
「助かった」
正直、頭の方がそろそろ限界だった。
安全エリアの中に入り、天井から壁側へと移動し、地面に降り立つ。
久しぶりの地面だ!
天井を歩き始めて十分も経ってないはずだけれど、そんな気がしてしまう。
「TPとMPが回復するまで、休もうか」
「そうですね」
自動回復を待つ間、手持ち無沙汰になるな。
「ご主人様♡」
トゥスカの顔が近い!
「ん♡」
ねだられたので、キスをした。
「私、そのうち我慢出来なくなりそうです」
俺もとか言ったら、押し倒されそうだ。
「そ、そうだ! 剣術のブレイドサークルって、どういうときに使うんだ?」
トゥスカも剣術を持っているため、もしかしたら知っているかも!
以前使ったときは、用途がまるで分からなかった能力。
「ああ、ブレイドサークルは迎撃系の技ですね。矢や石など、魔法以外の飛び道具に対して勝手に防いでくれるんです」
「結構便利だな」
「試してみますか?」
「へ?」
トゥスカが小石を拾い、振りかぶる!?
「ぶ、ブレイドサークル!」
グレートオーガの短剣を抜くと、小石が迫ってきた!?
腕が勝手に動き、カキンと音を鳴らす。
「勝手に弾くって……こういう事か」
「数が多かったりすると防ぎきれない事もあるので、頼るのは危険ですが」
「早めに聞いておいて良かった」
序盤で獣人の奴隷を買わせようとしたのには、そこからこのゲームの知識を手に入れさせるという狙いもあったのかもしれない。
「ご主人様、この水を見てください」
安全エリアの隅に、やたら青い液体が染み出す石が置いてあった。
石の上部が窪んでおり、そこに絵の具を溶いたように鮮やかなシアン色の液体が溜まっている。
「飲んでも大丈夫そうだな」
サブ職業の盗賊のおかげで、なんとなく身体に入れて大丈夫かどうかが分かるのだ。
トゥスカが水を両手ですくい、クンカクンカしている。
可愛い。
舌を伸ばし、チロリと水を舐めるトゥスカ。
可愛い!
尻尾がフリフリと左右に揺れ、ピン! と上に向かって固まる。
可愛い!!
「ご主人様、これはソーマです。飲むとMP・TPの回復速度を十分間だけ上げてくれます」
「へ、へー、一瞬で回復してくれるわけじゃないのか」
可愛い! と興奮していた相手に急に話し掛けられたため、動揺してしまった。
「そんな便利なアイテムはありませんよ。ちなみに、一口飲んでも、二口飲んでも効果は変わりませんからね」
「……はい、すみません」
なんか、凄い変な目で見られてる。
今の俺の発言は、トゥスカからすると非常識そのものなんだろうな。
「もう。元気出してくださいよ、ご主人様♡」
トゥスカが頬にキスしてくれる!
凄い、本当に元気が出て来た!
「トゥスカ」
「な、なんですか?」
トゥスカの頬が赤い。
「愛してる」
トゥスカの顔が真っ赤になる。
「ご、ご主人様の馬鹿♡」
とか言いながら、服を脱ごうとするんじゃない!
「トゥスカ、ダンジョン内ではそういう事はしないって約束だろう」
いつなにが起こるか分からないんだ。
昨日の突発クエストのように、急に安全エリアが無くなるなんて事もあるかもしれない。
「ご主人様が誘ってきたくせに」
愛してるの一言だけで?
俺はソーマを口にし、MPが全快するのを悶々としながら待つ。
「なにしてるんだ?」
「ソーマを持っていくんですよ」
空の水筒を出現させ、石の端から流れ落ちるソーマを汲み始めるトゥスカ。
「俺も汲むか」
空の水筒が無いため、数口飲んで鍋に移す。
まだちょっと残ってるな。
「トゥスカ、飲んでくれ」
水筒を差し出す。
「ど、どうも♡」
トゥスカが、恥ずかしげに水筒の水を口にする。
さっき服を脱ごうとしていた人が、間接キスで照れるのか!
別に夫婦なんだから、これくらい普通だろ。普通。
……俺もちょっと……恥ずかしいです。
★
「お!」
ネイルグリズリーが出なくなったと思ったら、また安全エリアが見えてきた。
更に奥には分かれ道。
「ようやく次の選択ポイントか。これでネイルグリズリーから解放される」
食糧は大量に手に入ったけれど、それ以上の旨味は無いからな。
天井の散歩を終え、二人で昼食を取る。
昼は買ったパンにリザードマンのハムとレタス、チーズを挟んだサンドイッチだ。
タレは、醤油にすったジャガイモを熱して、冷めてからワサビを溶かした物。
俺の手作りである!
「「美味しい!」」
トゥスカと同時に叫ぶ。
「これがワサビの香り。変わった香りですね。でも美味しい!」
「ワサビには殺菌効果もあるから、作り置きには持って来いだ」
チョイスプレートの中に保管しているから、作り置き云々はあんまり関係無いけれど。
「まだ昼前。今日はまだまだ進めそうだな」
とはいえ、今はもう俺一人じゃない。
トゥスカの体調も気遣わねば。
「ご主人様、そろそろ行きませんか? あまり長く休むと、身体が鈍ります」
トゥスカが、蹴りの練習をしながら聞いてきた。
「そうだな」
俺の奥さん、俺より元気だ。
夜も、いっつも俺より元気だったね。
安全エリアを出て、分かれ道の前に出る。
○右:強力なモンスター軍団。Lv上げに最適。
左:罠だらけの盗賊のアジト。色々手に入るかも。
「どっちが良い?」
「なんとも言えないですね。右なら強力なスキルカードや素材が手に入りそうですが、左はそれ以外のも手に入りそうですし」
判断に困るよな。
「俺達のLv、第二ステージでは高すぎるんじゃないかな? あれだけのネイルグリズリーを倒しても、今朝からまったくLvが上がっていないし」
既に五百体くらい倒して居るのに、俺もトゥスカもLvが上がっていない。
黒鬼と突発クエストが無ければ、俺はLv10で第二ステージに挑むはずだったんだよな。
「なにが手に入るか分からない、盗賊のアジトの方が面白いかもしれない」
罠があっても、俺の盗術で対処出来るし。
「左に行こう。俺より前に出るなよ」
ある程度近付かないと、ワナを感知出来ないから。
「分かりました」
左に進むと、またチョイスプレートが出現した!?
○奴隷を生け贄に捧げませんでしたので、ボーナス700000Gをプレゼントします。
「やっぱり、安易な道を選べば良いってものじゃないよな」
「ご主人様と一緒なら、どのような道であろうとも♡」
「ありがとう、トゥスカ」
俺とトゥスカは、罠だらけの盗賊のアジトへと足を踏み入れた。
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