ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

16.この世界の仕組み

「二日も眠ってた?」
「はい。一昨日の夕方頃から昨日は丸一日、ずっと眠っていました」

 キッチンで料理をしながら、説明してくれるトゥスカ。

 エプロンをしたトゥスカの……後ろ姿。

 新妻にご飯を用意して貰っているみたいでドキドキする。

 ていうか……朝のアレって……今はやめよう。

「……俺は、どうやって助かったんだ?」

 あの状況でどうすれば自分が助かるのか、全然思い浮かばない。

「通りがかった方が、”上級回復魔法”でご主人様を治療してくださったのです。ただ、ご主人様が一命を取り留めたところでその方のMPも尽きてしまったらしく、取り敢えずこの宿まで運ぶのを手伝って頂きました」

「親切な人だな」

 冗談抜きで命の恩人か。

 醤油が焦げる、良い匂いがしてきた。

「お礼をしようと思ったのですが、断られてしまいました。名前も教えて貰えず、罪滅ぼしだから……とだけ」

 罪滅ぼし?

「黒髪で、眼鏡を掛けてたか?」
「いえ。長い金髪で、左腕に金色の甲手を装備していました」

 ……心当たりは無いな。

 フライパンから、手際よくお皿に盛り付けていくトゥスカ。

「ご主人様を治療するため、無断でサブ職業の”僧侶”を購入しました。よろしかったでしょうか?」
「元々そのつもりだったし、構わないよ」

 空になったフライパンに、トゥスカは別の具材を投入していく。

 その後ろで、気怠い身体を押して服を着る。

 “偉大なる英雄の鎧”を装備した時に元々着ていた服は消えてしまっていたけれど、鎧の装備を外した時に出現したのかな?

 ていうか俺、トゥスカに…………全部見られたのか。

 いや、俺もトゥスカの裸身をほとんど見たけれどさ!

「ああ、そう言えば、私のLvは6になりました」
「一人でダンジョンに行ったの?」
「いえ、あの男と戦った後は、ご主人様の看病をずっとしていましたので♡」
「そ、そっか……ありがとう」
「はい♡」

 ダメだ、もの凄く浮かれてしまう!

 ていうか、向けられる笑顔が全部可愛すぎる!

「そう言えば、あの男から色々手に入ってましたよ」
「へ?」

 ……殺した相手からスキル、経験値、アイテムが手に入るんだっけ。

 チョイスプレートを開いてみる。


○戦士.Lv9になりました。システム、予備スキル欄が使用可能になります。


「予備スキル欄? トゥスカ、予備スキル欄て分かる?」
「スキルを預けておく場所ですね。状況に合わせてスキルを使い分けたい時に、非常に有効だと聞いた事があります」

 使用可能なスキルは十までだけれど、スキルを預ける事で戦術を変化させられるって事か。

 見たところ移しておけるスキルは五つまでみたいだから、実質十五個までスキルを修得可能になったわけだ。

「要らないスキルを預けたり交換したり出来るなら、新しいスキルを覚えても良いかもな」

 とはいえ、現段階で修得しても意味が無さそうな”二刀流のスキルカード”は暫く保留にしておこう。

 でも、試してみないとイマイチ有用性が分からない“連携装備のスキルカード”は使ってみたいな。

 主と奴隷の間で使用できる主専用スキル。

 俺しか使えないのだから、トゥスカに相談せずに修得しても問題無いだろう。

「さて、手に入った物はなんだろう?」


○”水の槍”を奪いました。
○“雷の斧”を奪いました。
○”疾風のグリーブ”を手に入れました。
○“武器隠しのマント”を手に入れました。
○”俊敏の指輪”を手に入れました。
○“鉄の剣”×8を手に入れました。
○”鉄の槍”×4を手に入れました。
○“鉄の斧”×3を手に入れました。
○“鉄の短剣”×2を手に入れました。
○“鉄のワンド”×17を手に入れました。
○“鉄の盾”×3を手に入れました。
○“鉄の杭”を手に入れました。
○“ボロマント”×6を手に入れました。
            :
            :

 多い!!

 他にも、鉄や粗雑と名のつく武器が嫌になるくらいたくさん。

「鉄の武器は初期装備……いったいどれだけ殺していたんだ、あの男は」

 トゥスカのLvが2も上がった事を考えると、かなり高Lvだったんだろうな。

 人間を、プレーヤーを殺しまくって強くなったのだろう。


○“瞬足のスキルカード”を手に入れました。
○“槍術のスキルカード”×5を手に入れました。
○“斧術のスキルカード”×3を手に入れました。
○“近接探知のスキルカード”を手に入れました。
○“風魔法のスキルカード”×3を手に入れました。
○“火魔法のスキルカード”×5を手に入れました。
○“水魔法のスキルカード”×4を手に入れました。
○“氷魔法のスキルカード”×3を手に入れました。
○“雷魔法のスキルカード”×2を手に入れました。
○“回復魔法のスキルカード”×2を手に入れました。
○“剣術のスキルカード”×10を手に入れました。
○“盾術のスキルカード”×3を手に入れました。
             :
             :


「殺しておいて、本当に良かった」

 手に入れたアイテムをざっと計算した結果、少なくとも五十人くらいは殺している。

 トゥスカが奴隷であることに気付かず俺を殺そうとしたところを見るに、奴はずっと第一ステージを縄張りに殺人、強姦を繰り返していたんだろうな。

 この村に来た時点で、おそらく第一ステージには戻れないだろうし。

「長く留まれないようにしているのは、プレーヤー同士のパワーバランスを崩さないようにするためとか?」

 それにしても、嫌な事実に気付いてしまった。


「……プレーヤーを殺す方が、まっとうにモンスターを倒すよりも遥かに得が出来てしまう」


 たった一人殺しただけでこれだ。先に進んでいけば行くほど、自分が持たないアイテムやスキルを所持するプレーヤーは増えていく。

 おまけに、所持金も増えるようだし。

 トゥスカを買う前よりも、所持金がかなり増えてしまっている。

 人として異常になればなる程、得が出来てしまう仕組み。

「まさか、?」

 このゲームを作った奴等は、敢えてプレーヤー同士で殺し合わせる状況を作っている?

 分かっていたつもりだったけれど、本当にイカれたゲームに放り込まれてしまったようだ。

「出来ましたよ、ご主人様♡」

 小さなテーブルに、四品並ぶ。

「豪勢だな」
 
 炒め物ばかりだけれど、どれも美味そうだ。

「でも、なんでお肉ばかり?」

 野菜も結構購入したはずなのに。

「いっぱい体力を付けませんと! たくさん血を流したんですから!」

 肉食って体力を付けろと?

「そうだな。頂きます!」

 手を合わせ、トゥスカが作ってくれたご飯を食べ始める。

「美味い!」

 醤油の香り、最高ーーー!!


             ★


「本当に、動いて大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」

 トゥスカが本気で心配そうだ。

 でも、今日のうちに揃えられる物は揃えて置きたかった。

「随分人が増えたな」
「昨日ぐらいから、一気に増えましたね」

 槍男が居なくなった事で、皆で苦しむ方から人が入ってくるようになったのか?

 単純に、俺が進むのが早かっただけかもしれないけれど。

「それとも、ゲームに放り込まれるタイミングはバラバラなのかな?」

 今まで、勝手に皆同じタイミングでプレイし始めている気で考えていた。

 この世界は、人の異常性を、残虐性を引き出そうとしてくる……。

「早く力を身に付けないと……危険だ」

 下手をすれば、村よりもダンジョンの方が安全かもしれない。

 武器屋に入る。

「いらっしゃい!」

 マッチョの店主が挨拶してきた。

「……スゲえ美人」
「おっぱいデケー」

 店の中には、数人の男プレーヤー。

 皆、トゥスカに下卑た視線を送っている。

「気持ち悪い」

 トゥスカが不快だと訴え掛けてきた。

「さっさと終わらせよう」

 店主に声を掛けて武器を見せて貰うけれど……鉄と木製の武器、それに”魔法使いのワンド”しか無かった。

 鉄の武器なら幾らでもあるし、ワンドは戦士である俺達が買う必要は無い。

「売却は可能ですか?」
「問題無いよ。どれを売ってくれるんだい?」

 粗雑と名のつく武器を全て選んだけれど、一つ1Gにしかならないようだ。

 ゴブリンが使っていた武器が、ゴブリンと同じ値段って。

「おおー、コイツは凄え!!」

 “豪奢な斧”を売却リストに載せると、NPCが大袈裟に反応する。

「斧一つで……1800000百八十万G?」

 売却用のアイテムだと分かってはいたけれど、とんでもない額だ。

 これだけ高く売れるとなると、先に進んだら売値のインフレーションが起きそうで怖い。

「ご、ご主人様……こ、これはなにかの間違いでは?」
「さ、さっさと売ってしまおう」


○買い取り一割アップが適用されます。


 指輪の効果が適用される。

 武器屋にて、1980319Gを手に入れた。

「武器を作製してもらうことは出来ますか?」

 素材になると思われるアイテムを幾つか手に入れていたため、確認してみる。

「武具の作製なら鍛冶屋だな。衣服なら服屋に行って来れ」

 鍛冶屋って、武器の修理だけじゃないのか。

 あのいかついオッサンめ! そんな事一言も言ってなかったぞ!

「行こうか」
「はい♡」

 腕を組んで……身を寄せてくるトゥスカ!?

「私が誰の所有物なのか、見せ付けましょう♡」

 店の男共が、未だにトゥスカに下卑た視線を向けていた。

「……トゥスカ、もっと身を寄せて」
「フフフ、はい♡」

 多くの視線を感じながら、武器屋を後にする。

 ……込み上げてくる優越感が怖い。

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