【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ

第92話 至上主義と博愛主義者

 キャシー子爵夫人とタニア伯爵夫人、オルエッタさんが突然、脱ぎ始める。
 いったい何が始まったんだ?

 俺はその地獄絵を見ていた。

 その時、「パコ~~~~ン!!」「パコ~~~~ン!!」「パコ~~~~ン!!」
 3つの良い音が脱衣所に響く。
「なにをしているのですか?!」
 ハリセンを手にした、アリッサさんの声が響く。

「いや、だって…」
「エリアス様が、脱ぐのが条件だと…」
「見たいのかな~、と…」
 なぜかオルエッタさん達が言い訳をしている。
 いいのかハリセンで叩いても、仮にも貴族の婦人がいるんだぞ。

「エリアス君はそんなことは言っておりません!!品数が少ないので販売できるほどなく、自宅で使う程度の量ならありますよ、と言う意味だと思います。ねっ、エリアス君。そうでしょう?」
「え、えぇ、そうです(覚えてないけど)」
「そ、そうだったのですね。私としたら早とちりして、恥ずかしいわ」
 オルエッタさんが、顔を赤くしている。

「では、このタオルは頂けないのかしら?」
 タニア伯爵夫人が聞いてくる。
「お持ちください。使用したものは差し上げますから」
「頂けるのですか!エリアス様」
 キャシー子爵夫人が驚いている。
 しかもいつの間にか俺のことを『様』付けで呼んでいる。

「では、せめてものお礼に…」
 また脱ごうとする。
 俺はそれを手で止めた。
 もういいですから。



「しかし、先ほどの件は見過ごせません!!」
 タニア伯爵夫人の侍女が前に進み出る。
「伯爵夫人や皆様を叩いた件です」
「いいえ、叩いておりません」
「叩いたではありませんか?!」
「これはハリセンと言って、大きな音はしますが攻撃力はありません」
 そうアリッサさんは言うと、ハリセンを右手に持ち左手を叩いて見せた。

 パンッ!!パンッ!!


「ほら、叩いたから音がするのでしょう?」
「いいえ、違います。それに私がそうしなけれな、収拾が付かなかったでしょう」
「どう言うことでしょうか?」
四十路よそじの女性3人が突然、15歳の少年の前で服を脱ぎ始めたのです」
「う?!」
 侍女は気付いたようだ。
「こんなことが世間に漏れたら、皆様方の家は世間の笑いものです」

 し~~~~~ん!!

「しかしこのハリセンはツッコミ用のアイテムなのです!!」
「ツッコミ用のアイテム?!」
「そうです。ボケだけでは観客の笑いを誘うことができません!!」
「観客の笑い?」
「ツッコミがボケの間違いを指摘し、初めて笑いどころを示すことができるのです」
「な、なにを言っていますか?」
 侍女は分からない顔をして、口を開けている。

「まだ分からないのですか!!あのまま脱いでいたら大変なことになっていたと言う事が。しかしハリセンで突っ込むことで、笑いに替わり事なきを得たのです」
 そう言われ侍女は、はたと気づいた。
 仮にも子爵夫人と伯爵夫人が人様の家で服を突然、脱ぎ始めたら…。
 只事ただごとではなくなることを。

「やっとわかりましたか!よって私は皆様を叩いたのではなく、突っ込んだのです」
 その場に居た全員が片手をグーにして、もう片方の手のひらをポンと叩いた。

「「「 なるほど~?! 」」」
 お後がよろしいようで…。



「使用人や侍女の方はどうしますか?」
 俺はそろそろかと思い、少し大きめの声を出して聞いた。

「なにをでしょうか?エリアス様」
 オルエッタさんが聞いてくる。
「お風呂です。オルエッタさん達と一緒に入るのか、それとも別に男性風呂に入るのかですか?」
「それは…」


「はい、どうぞ」
 俺は侍女の人達にも手ぬぐい、タオル、バスローブを手渡した。
「私達の分も頂けるのでしょうか?」
「ええ、勿論ですよ」
「では少し見ますか…」
「あ、いえ、その話はもう…」
 中々、その話から離れない。
 どうしてだ?みんなその手の話が好きなのかな…。




★アリッサ目線
 い、いけないわ。
 伯爵夫人達の侍女やオルエッタさんの付き人の、エリアス君を見る目が違う。
 それはそうね。
 お風呂もあり魔道具が無数にある大きなお屋敷。
 エリアス君は歳より幼く見える。
 しかし妻が2人いるなら15歳以上で、成人していることは誰にでもわかる。
 そしてその妻の内、1人は獣人。
 
 人族と獣人が愛し合う事はあるが、貴族や富裕層なら妻にする事はありえない。
 なぜならこの世界は人族こそが一番だ、という人族至上主義だからだ。

 人族は自分達以外を亜種族と呼ぶ。
 そして能力は他の種族に比べると平均的だ。
 しかしその凄さは繁殖能力だ。
 能力の高い種族ほど、子供が出来ずらい。
 私達エルフも長寿だけど、出生率が低い。
 世の中はうまくできている。
 
 力のあるものは数が少なく、ない人族は数が多い。
 しかし時には数は力になる。

 そしてこの世界の主導者は人族になった。
 どんなに力のある種族が人族に対抗しても、勝てるのは一時的にだけ。
 数百年の時間をかけ、演算式に増える人族にいずれは滅ぼされてしまう。

 だから我々は選ぶしかなかった。
 共存するか対立なら森に住み、生活を分かつしかなかった。

 だが森に住んでも満足な生活ができる訳が無い。
 食糧もなく寒さに震え、いつ魔物に襲われるのか怯える毎日。
 そして種族の数も減っていく。
 
 だが城壁の中ならそんな心配はない。
 人族に姿が似ている亜種族は、人族の中で肩身の狭い思いをしながら生活する。
 時には冒険者に、そして獣人なら愛玩として過ごす者もいる。
 若い内なら可愛がってもらえる、そう若い内なら。

 そして獣人と人族は結婚はしない。
 なぜなら愛玩だからだ。
 飼育される動物と結婚する者はいない。

 だが稀に獣人と結婚する者が居る。
 それが『博愛主義者』だ。
 人種や身分などの違いを越えて、人類は広く愛し合うべきであるとする考え。

 そして博愛主義者は貴族や富裕層にはいない。
 人族は自分達より弱い立場の者を作る事によって、社会が成り立っているからだ。

 エリアス君のようにはたから見たら富裕層のボンボンが、獣人を妻にする事はあり得ない。
 伯爵夫人達の侍女やオルエッタさんの側付きの5人は17~18歳くらい。
 見た目は私やオルガと変わらない年齢。
 それなら私も、と思うのは仕方ない。

 このまま侍女として一生働くか、実家に帰り見合いをして家庭をもつか。
 そしてこの国では、安定した生活を送れる保証は無い。


 エリアス君は、とても愛嬌があり憎めない。
 誰にでもなぜか、好かれる。
 
 きっと私やオルガと出会わなければ、たくさんの女性に囲まれていたでしょう。
 そしてそれだけの財力もある。

 でも誰か止める人が居ないと彼は危険。
 世界を変える天使と悪魔、どちらにもなれそうだから。

◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 私はアバンス商会のアイザックの妻オルエッタ。
 あの頂いたツッコミ用のアイテムに、こんな効果があるなんて。

 でも普段、主人は大人しくボケることもないので、突っ込む事も無いと思います。

 それを言うとエリアス様は、笑っていた。
 突っ込むところは、そこですねと言われて。

 どう言う意味なのかしら?

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