【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ

第62話 アリッサの決意

 私はアリッサ。
 普段は冒険者ギルドの受付をしている。

 そして影では国の情報機関に属し、要人警護や諜報活動をしているエージェント。
 
 私達、異種族と呼ばれる種族は人族より人口が少ない。
 そして人と外見が離れているほど、街には住めなくなり森に住む種族も多い。
 だが森は魔物が多く危険が付きまとう。

 能力が高く外見が人族に似ている種族は、国の機関に所属し身の安全を得られる。
 その代わり能力を生かし諜報活動や、要人警護につくことがある。

 そしてあの日、冒険者のオルガさんに屋敷を案内されエリアス君の能力を知った。
 自分の望んだものを創れる『創生魔法』。
 そんな都合のいいスキルは聞いたことが無い。

 一流の建築家が何年かかかっても、建てられそうもない完成度の高い建物。
 しかも各部屋にはガラスの窓が張られている。

 前日までこの土地は草や木生い茂げ、潰れかけた旧家が建っていた。
 オルガさんが言うには、それを一瞬で更地にしこの屋敷を建てたと言う。

 実物を見なければ信じられなかっただろう。
 そして彼は容量の多いマジック・バッグを持っている。
 それはもう、冒険者ギルドでも有名になっている。
 彼一人で物資輸送が楽になり、軍事的な戦略も考えられる。
 そして魔法は5属性も使えると言う。

 3属性でも凄いことなのに、それを5属性も使えるなんて。
 特に光魔法の術者は少なく、100年に1人くらいしか現れない。

 その話を聞けば彼の子種欲しさに、たくさんの貴族が群がるだろう。
 なぜなら貴族は魔法が使えることで、庶民との格差をつけているからだ。

 この国は魔法が使える者が、家督を継ぐのが常識だ。
 だが年々、魔法を使える者が減っていると聞く。
 魔法を使える者同士での婚姻が仇になり、血が濃くなってしまった。
 だが他から新しい血を取り入れたくても、魔法を使える者が少ない。

 そこに5属性も魔法が使える者が現れたら。
 自分の望んだものを創れる『創生魔法』。
 大容量のマジック・バッグを持っているとしたら…。
 
 彼をめぐって戦争が起きかねない。
 そのため、冒険者ギルドのギルドマスターに話を通した。
 各ギルドは国と裏では繋がっており、国から不干渉ふかんしょう条例を発令してもらった。
 これで私が彼を守る名目が出来たわ。

 そして彼に手を出さない様に、各ギルドや貴族に通達した。
 彼の存在を知らしめることになるが…。
 不干渉ふかんしょう条例を破った者には、厳重な処罰が下されるようになっている。
 それが分かっていて手を出す者は、国の関係者にはいないだろう。




 たまたま休みの日にエリアス君とオルガさんに会った。

 私も非番なので身辺警護を兼ねて、付き合う事にした。
 お屋敷に行くと家具やテーブルを、エリアス君が『創生魔法』で創った。
 物を創るのを初めて目の当たりにして驚いた。
 こんな簡単に創れるなんて…。

 私が気に入ったのが三面鏡ドレッサーだ。
 鏡が前と左右の板に三面に付いている。
 左右に板を出すと前と左右から髪型が見えて分かりやすい。

 それにこんなに歪みの無い鏡は見たことが無い。

 売ってほしいとエリアス君に言うと、売り物ではないからと断られた。
 私が落胆するとオルガさんが、どこに住んでいるのかと聞いて来た。
 宿屋に泊まっていることを話した。
 賃貸で家を借りるより、食事付きの宿屋の方が良いからと答えた。

 するとオルガさんが、一緒に住もうと言って来た。
 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
 こんな仲が良さそうな2人の間に入るんて。
 しかも女性の方から誘ってくるなんて…。

 するとこの屋敷は二人だけではなくて、私を迎えるためにも創ってくれたらしい。
 そこまで言われては、もう断れなかった。

 すると突然、エリアス君の愛くるしい顔を毎日見て居たい衝動にかられた。


 そして私達はアバンス商会に、3人分の寝具を買いに出かけた。
 アバンス商会はこの領でも、大手の老舗の商会だ。

 会長のアイザックさんは、今でも現役で店に出ていた。

 オルガさんがエリアス君の、木工家具を見てもらうように言いだした。
 そして4人掛けのテーブル、椅子4つ、タンス、三面鏡ドレッサーと、椅子のセットをマジック・バッグから出した。
 いくつ持っているんだろう?

 するとアイザックさんが商人の顔になり、売ってほしいと言い出した。
 特に三面鏡ドレッサーが、気に入ったようだ。
 やはり目をつけるとことは同じなのね。
 
 エリアス君は交渉ごとは苦手と思い、私が代わりに相手をした。
 そして全部で100万円にもなった。

 普通に働いても月10万になれば良い方だ。
 そう考えたら生活費10ヵ月分。
 危険な冒険者をやらなくて済む。

 しかも定期的に卸すことになり、これは売れると私は思った。
 お金のある上流階級の女性なら、見逃すはずはないと。

 

 それから2人は森に果物採取に行くと言う。
 私も果物は大好きだ。
 しかし私1人で森に入るには危険すぎる。
 でも背後を預けることが出来る人と一緒なら別だ。
 弓を持ち防具を着て彼らに同行することにした。

 森に入るとエリアス君が、走ると言い出した。
 150年前には『疾風しっぷうのアリッサ』と呼ばれた私だ。
 手加減をしてあげないと。

 でも実際は違った。
 エリアス君は断トツで早かった。
 追いかけた私とオルガさんは息が上がったが、エリアス君は乱れていなかった。

 そして突然、広範囲に鑑定魔法を使い始めた。
 範囲を広げ魔石を持つ魔物を捜していると言う。
 こんな馬鹿な使い方は聞いたことが無い。
 これが出来れば魔物を捜したり、逆に避ける事もできる。


 そしてオルガさんと、息の合った狩りを見せてもらった。
 右側です、エリアス君がそう言った。
 すると茂みの中から体長1m、全長2mはありそうなワイルドボアがでてきた。

 その瞬間エリアス君は、左肘を出し腰を落として構えた。

 そしてワイルドボアは、エリアス君の左腕に突撃して止まった。
 まるで見えない大きな、壁にぶつかったかのように。
 するとオルガさんが飛び出し、ワイルドボアの首をミスリルソードで一刀する。
 このやり方でいつも2人は狩りをしているらしい。

 私はエリアス君にどうやったのか聞いたわ。
 でも教えてはくれなかった。

 私はオルガさんからエリアス君の生い立ちを聞いたわ。
 閉鎖的な人の少ない村に住んでいたから、世の中のことが分からない。
 騙されたことが無いから、人を疑う事を知らない。
 そしてオルガさんは『私が側に居るから、エリアスは今のままで良い。変わる必要はない』と言った。
 揺るがない愛情、私もそんな気もちで彼を愛せるだろうか。



 それからが大変だったわ。
 お披露目会を開きアバンス商会アイザックさんとお供が2人。
 冒険者ギルドの受付コルネール。
 商業ギルドのギルドマスター、アレックさんやノエルさん。
 Dランクパーティ『餓狼猫のミーニャ』の3人がやってきた。

 そしてこの前来た時にはなかった、3階建ての別館が建っていた。
 暇と材料と魔力が余ったから、ちょっと創ってみたと言う。
 そんなことはあり得ない。
 何が余ったというの?!
 オルガさんはもう慣れたのか反応が薄い。
 私にとって、それからは驚きの連続だった。

 美味しいお肉を食べ、美味しいワインを振舞う。
 どこの大貴族様だろう、そう思うくらいの贅沢だった。


 1階の大浴場や屋上の露天風呂。
 冷蔵庫、照明魔道具、魔道コンロ、ワイングラス販売。
 
 そしてボウリングやゴブリン叩き、ベアベアパニック。
 どれをとっても楽しい事ばかり。
 ここは夢の世界だ。

 そして3階のリクライニングシートでみんなで寝ることになった。
 私が今夜から泊まるのを分かっているのに。
 焦らしているのかしらエリアス君は?

 綿と言うフワフワの素材て作ったというタオル、手ぬぐい、バスローブ。
 タオルケットと、そしてパジャマ寝間着
 パジャマに使われている、ボタンという留め具は画期的な発想だった。
 服装は今まで紐止めしかないからだ。
 
 特許を取るように勧められ、みんなにボタンをあげていた。
 他にもドライヤーと言う、濡れた髪を乾かす便利な魔道具もあった。

 アバンス商会アイザックさんと、商業ギルドのアレックさんは反応しなかった。
 購入したくても魔法具を購入し、彼らも予算がないようだった。



 朝はアスケルの森で採って来た香辛料を使い、カレーの肉野菜炒めという料理を作ってくれた。
 とても食をそそる美味しそうな臭いがして、今までにない癖になる味だった。

 そして散会となった。
 自分で着たパジャマとタオルケットあげて、そして驚くことに高価なボトルに入ったワインも配っていた。

 いったい、どれほど気前が良いのか。
 そしてどこで身に付けたのか分からない豊富な知識。

 彼は突っつけば何でも出てくる魔法の箱のようだ。
 望めば何でも出てくる魔法の箱。

 エリアス君は誰にでも好かれる。
 そして危うい。
 世間知らずで、世の中を知らない。

 彼の性格、気前の良さ、そして魔法の箱を狙って人が集まる。
 そして彼はいつか傷つき、泣く日がくるかもしれない。

 だから私は…。
 彼の盾になることを、この時に決めた。

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 物語はまったり、のんびりと進み更新は不定期となる場合もあります。

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