父ちゃんと呼ばれるまで

ナカムラ

日常になってきた生活

 彼は、今日も、朝になると、小さなおにぎりを9個握り、家を出ていくところだった。
子供達は、もう慣れたもので、小さな声で「行ってらっしゃい。」と、言った。
彼も、応えた。「雄太、じゃあ、子供達のことよろしくな。」
雄太が、言った。「わかっているよ。早く行きなよ。」
促されるように、いつもの駅へ向かった。
今日は、靴の検品が、仕事らしい。
右左、靴をどう向けるか、頭がこんがらがる。
パートの人達は、慣れたものだ。それにしても、私の仕事は、相変わらず、要領を得ない。靴を包む紙も、右左どちらを上にするかも、忘れかけていた。今日は、10人ほどの各会社の派遣の人々が来ていた。同じ派遣の人に、怒られてしまった。「速くしないと、仕事がいつまで経っても終わらない。日が暮れてしまうじゃない。」
また、言われてしまった。「日が暮れてしまうじゃない。」耳に残るこの言葉だ。
私は、昼休みになると、また、1人で、小さなおにぎりを食べた。
今日は、残業ができる場所ではなく、定時に、帰った。
帰りに、派遣会社に、連絡して頼みこんだ。
すると、冷たい返事が、きた。
「そんなに、あなたの言うとおりには、選べません。なんなら、辞めてもらってもいいんですよ。あなたの仕事ぶりは…。」
私は、急いで遮った。
「わかりました。言うとおりにします。」
私は、少し落ち込みながら、疲れて、帰った。
子供達が、笑顔で、しかし、小さな声で「お帰りなさい。」と、言った。
また、コンビニの弁当を2個置いた。
次男の広太が言った。「今日は、どういう仕事をしてきたの?」
彼は、答えた。「靴の検品。」
広太は、「検品ってどうやるの?」と、聞いてきた。
彼は、「靴を商品として、出せるものか、見て、その後、仕舞うのさ。」
広太は、言った。「すごいね。お店に出るの?見たものが。」
彼は、嘘ぶいて言った。「そうさ。すごい速さでやってやったよ。皆が、目を丸くするほどな!」
広太は、目を丸くするほど、という言葉がツボに入ったらしい。ケタケタッと、笑った。
彼は、広太に、促した。「早く食べろ。冷めちまう。」

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