ひざまずけ、礼

ko-suke

第2章25話 現実を生きるものだから




紅き街は崩れ去り、無事に現実へ戻ることが出来た。今回も怪我なく終わることができ、ほっとした。

・・・だが1名、悲しき現実を知り、心が傷ついた者がいた。言わずもがな、澤井さんである。

紅き街崩壊後、2人の姿が見えなかったためにナーテアさんに連絡した。近くの公園にいるとのことで向かってみると、泣き崩れている者がいた。

聞くと、あのあとナーテアさんが色々問い詰められ、真実を受け入れることが出来ず、泣いてしまったのだそう。

仕方のないことだと思う。信じていた人が、はたまた愛していた人が実は既に亡くなっており、化け物へと変貌していたともなれば、泣かない方がおかしいというものだ。

澤井「嘘だ・・・嘘だって言ってよ・・・お願いだから・・・。叶多くん・・・叶多・・・」

頬を伝う雫が、ひとつ、またひとつと地面へと落ちる。この子のために、なにかしてあげられることは無いのか。自分の無力さに打ちのめされそうになる。

そして、決めた。僕は心を鬼にすると。

澤井さんの嗚咽が収まってきた頃、僕は澤井さんに声をかけた。

比影「・・・澤井さん。悲しいだろうし、とても辛いだろうけど、あえて言うね。彼は、君を巻き込もうとしていたんだ。誰のためでもない、自分のために。彼は被害者だけど、加害者でもある。」

佐和「比影くん、それは・・・」

比影「わかってる、でも大事な事だから。彼のことは忘れられないだろうし、多分忘れたくないと思う。でも、過去に囚われたら、前に進めなくなる。」

澤井「でも、でもぉ・・・!」

比影「前を向いて歩け、なんて無責任なことを言うつもりは無い。けれど、絶対に後ろを向いて歩いちゃダメだ。下でも上でも横でもいい、後ろ以外を向いて歩け。後ろにあるのは影、闇だけだからね。気になるなら、たまに振り返るくらいにしな。」

澤井「比影、さん・・・」

比影「君のためにも、君を愛した彼のためにも、自分を大切にね。間違っても彼を追うのはダメだ。そんなことをしても・・・彼には、会えない。」

そう、彼はあの世に居ない。居ないのだ・・・

澤井「・・・」

比影「・・・納得してくれなくても結構、でも理解はして欲しい。綺麗事だって罵ってくれてもいいさ。生きてね。・・・さ、行こっか。」

佐和「う、うん・・・」

アス「・・・はい」

僕達はひとまず、学校に戻ることにした。色々と整理したいこともあるからね。彼から聞いた情報を、有効活用しないとね。

そう、彼から聞いた情報・・・を・・・

『仕事といっても、今日のように定期的に新人勧誘をするだけ。』

比影「・・・」

『新 人 勧 誘 を す る だ け』

・・・いや、考えるのは辞めておこう。僕たちは、僕たちがやれることをした。それだけだ。


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