ひざまずけ、礼
第1章29話 一か八か(2)
紅き街に、重苦しい空気が漂う。たった1歩進むだけで、全然変わる。
今回も先程同様、すぐ近くから気配を感じた。
比影「・・・さっそくか。好都合だね。」
佐和「比影くん、気をつけてね。何があるか分からないから・・・。」
比影「分かってるさ。佐和さんは少し離れてて。・・・下手するとケガしかねないから。」
佐和「・・・うん。」
佐和さんが離れたところで、化け物の足音がドンドンとちかづいてきた。僕は佐和さんから預かった赤いハンカチを広げる。
僕がやつを認識した時、奴も僕に気づいたようだ。・・・いや、正しくは僕が持っていた赤いハンカチを認識した、と言うべきか。
先程までもなかなかの気迫だったが、一瞬で全てが変わった。目の色も変わり、パッと見で凶暴化したというのがわかった。
僕に対して、化け物が突撃してくる。にしても、紅き街で既に景色が赤いのに、赤いハンカチで凶暴化したもんなのね。
・・・いや、景色が赤いから、最初から結構凶暴なんだろうけどね。
んでもって、普通闘牛士ってギリギリまで引き寄せて、サッと避けるわけだけど・・・僕がすべきなのは避けることじゃなくて、やつを動けなくすること。
タイミングが遅くても早くても、これは上手く行かない。・・・というより、タイミングを間違えれば、命はない。
怖いけど、逃げ出したいけど・・・その気持ちを抑え、じっと待つ。その化け物は、大きな雄叫びを上げ、角を突き立て・・・
比影「・・・ここっ!」バッ
僕はハンカチから手を離し、隠し持っていた縄を化け物の前足に引っ掛ける。それだけでなく、建物の影から別の縄が飛び出し、化け物の後ろ足を捕らえた。今のところ、佐和さんと立てた作戦は順調だ。
あとは少し横にずれて、佐和さんと別方向からヤツの足を引っ張る・・・のだが。
ヤツはそこで、僕が退ける方向に動きを変えたのだ。なんとか体に突き刺さるようなことは避けられたのだが・・・
比影「がっ・・・!」
肩に角がかすり、体が僕の脇腹に激突した。僕の体に鈍痛が襲う。・・・けど、このチャンスは無駄にできない。佐和さんのためにも・・・僕自身のためにも・・・!
比影「ぃ、っどあぁぁぁぁぁぁっ!!」
縄を力強くひっぱる。佐和さんも引っ張るのが見えた。ヤツはそれぞれ逆の方向に引っ張られたことにより、体制を崩して、地面に倒れた。
比影「っ、佐和さん!」
佐和「任せてっ!」バッ
佐和さんは素早く物陰からでてきて、地面でもがくそいつに向けて指さし・・・
佐和「ひざまずけ・・・礼っ!!」
そう、唱えた。ヤツは光に包まれ、雄叫びを上げて消えた。紅き街も、霧のようになって消え去った。
佐和「やったやった、上手くいった!比影くんやった・・・ね・・・」
比影「・・・ぅぐ・・・」
佐和「比影くん!?大丈夫!?しっかりして!!」
僕はしばらく動くことが出来なかった。
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