ひざまずけ、礼

ko-suke

第1章10話 正しきこと、成すべきこと(2)




比影「・・・。」

放課後、僕は教室でひたすら本を読んでいた。図書館で借りてきたものも合わせて、これで3冊目。それぞれ別のジャンルのものを読んだ。

だけど、それだけ読んで得られたものは・・・僕の疑問を解決するには至らない知識だけ。正義とは、人間のあるべき姿とは、それを教えてくれるものは、何一つなかった。

すると、突然。

佐和「比影くんっ!」ガッ

比影「ひゃぁっ!?」ビクッ

佐和さんに後ろから、両肩を掴まれた。

比影「え、佐和さん!?いつの間に・・・」

佐和「さっきから名前呼んでたんだよ?なのに無視するもんだから・・・」

比影「あ、ご、ごめん。本に集中してて・・・」

佐和「本当に本が好きなのね。私も好きなほうだけど、そこまで集中して読めないや。」

僕は苦笑いで返す。確かに本は好きだ。でも、今は好きだから読んでいると言うよりも・・・いや、今は深く考えないようにしよう。

比影「佐和さんはどうしてここに?」

佐和「どうしてって・・・あなたね、時間になっても正門に来ないから、探してたんでしょうが。」

比影「え」

ふと時計を見ると、18時近くになっていた。辺りは薄暗くなってきている。外の部活生らも、片付けをしていた。

比影「うわっ!?本当じゃん!ごめん!」

佐和「いや、別に大丈夫だけど・・・ねぇ、比影くん。」

比影「は、はい。」

佐和「この頃ずっと、少し変だよ。あれ以来、元々寡黙かもくだったのにもっと喋らなくなっちゃったし、隙あれば本読んでるし・・・。」

比影「う・・・」

佐和「悩み事があるなら言ってよ。私、あなたの相棒なんだからさ。・・・といっても、大方予想はついてるけどね。」

佐和さんは腰に手を当ててそう言った。まぁ、アイツら2人組が気づいたくらいだし、みんなをよく見てる佐和さんなら、気づくだろうね。

佐和「・・・あの日のこと、まだ悩んでるの?」

比影「・・・うん。男らしくないとか言われちゃうと、返す言葉もないんだけどさ。どうしても、あの日のことが頭から離れないんだ。僕たちがやっていることが、本当に正しいことなのか、正義とは何なのか。」

佐和「正義とは・・・かぁ。私もわかんないけど、あんまり悩まないようにしてるね。悩んでても仕方ないし、こうしてるうちにも被害は出てるわけだし。」

比影「それは・・・そうだけど。」

佐和「でしょ?だから、考えない。ただ、これ以上被害が増えないために、紅き街の脅威から守る。それだけ。」

比影「・・・佐和さん。」

そう言いながら微笑む佐和さんは、僕なんかよりずっと大人で、強い人だった。本当に、すごい人だなと実感した。僕もこんな人でありたい。そう、思った。

だけど同時に、こうはなれないとも思った。佐和さんほど、僕は強くない。だから・・・どうしても考えてしまう。

ぼくは・・・どうあるべきなんだろうか。

佐和「さ、帰ろ?」

比影「・・・うん。」

その日の佐和さんは、少し上機嫌だった。


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