呪われ呪術師は世界の平和を強要する(ダークファンタジー)
妄信者達の囀り
「考えられるとすれば、まずは間者ですわね」
最初に口を開いたリーゼロッテだった。
コルネリアとモーロックの問答に思うところがあったのだろうか、何にしろ活発に意見を出すようになるのは喜ばしい。
ウベルトも少し考え、同意を示すように頷いている。
「でも、人間が廃都に潜入するのは難しいのではなくて?」
「そうでももない。顔を隠せば、紛れこめるる。備えはして、しておくべきだろううう」
「イグナーツの一族だと警戒されすぎますわね。私の一族を各所に配置しましょうか?」
「よかろうう。ならば、裏はわた、私に任せてもらおう。元々影に潜む一族であるからなな……得意分野、だああ」
「ではそのように」
さきほどまでの無能ぶりはどこへいったのか、間者対策はあっさりと決まった。対策というには些か大雑把に過ぎるが、細かな部分はそれぞれが采配するだろう。アルバートは確定した施策を確認し、改善すべきを修正していけばいい。
まずは何かしらの形を整えること、そして己が頭で考える癖を植え付けることである。
無能な部下はいらぬ。
替えが効きづらい駒であるとしても、無能であり続けるならば不要だ。
無能な働き者ほど組織にとって迷惑な者はなく、それは容易にアルバートの望む未来を蝕む病巣となるだろう。
お前はどうだと睨みつければ、コルネリアもそれに気づいたのかごくりと喉を鳴らし、少し考えてからおそるおそる言葉を紡いだ。
「守りに注力するだけでは危険ではないかと……」
「かと言って、攻めるのは論外だ。まず吾輩が着手すべきは戦力の増強だ。いまの時点で軍を出すことはできん」
アルバートの懸念は圧倒的な戦力不足だ。
聖人級のラーベルクにすら及ばぬ部下を率いて世界平和など、成しえようはずがない。
アルバートこそが世界最強で、たった一人で世界を手中にできるというなら別だが、情報が足りぬ現状で、そこまで自惚れるつもりはなかった。
「軍でなくとも、攻めることはできます」
「どういうことだ?」
とんちじみた問答に困惑したアルバートとは裏腹に、モーロックは納得の手を打った。肉がないせいで、かしゃんと間の抜けた音がする。
「なるほど、裏工作ですか?」
「そうです。ウベルトの一族に呪族の噂を流してもらえば、民衆を扇動することもできるかと思います」
「試す価値ありですな」
いかがかと目線で問われ、アルバートは黙考した。
ありかなしかと問われても、それによって各国首脳がどう反応するかは賭けの要素が多いように思われるのだ。なにせ、呪族の存在を明確にするとなれば戦争積極派の後押しになりかねない。
証拠がなければ動かぬと尻込みする愚か者どもも、民衆に呪術王を恐れ打倒を望む声が広まれば動かざるをえないだろう。
「コルネリア、勝算があるのか?」
「はい。現状は積極派と消極派に別れていますが、言ってみればそれは呪術王様のお力を理解する者と、目を逸らす者に二分されていると言えます。ですが、どちらの国も民衆にラーベルクの死を伝えていないという共通点があるのです」
言われて、なるほどと頷いた。
消極派がラーベルクの死を伝えないのは、伝えることで民意が積極派に流れることを恐れてだろう。
だが、積極派にとって民意が戦争を支持することは望ましいはずだ。それがなぜ、民にラーベルクの死と呪術王の存在を伝えないのか、考えれば簡単なのだ。
各国の連携が取れぬままに戦争の気運が高まることを恐れているのである。
指導者の力が強い君主制といえど、民を無視し続けるのは好ましくない。反乱が起きるとは言わないが、指導者の判断能力に疑問を持たれる可能性がある。
戦争の気運が高まる民衆と戦争をする気がない指導者という構図は、権威という蜜に浸る羽虫どもにとっては何とも都合が悪いだろう。
「積極派の国に吾輩の存在を知らしめ、内部から足並みを乱す、か」
「さすが、呪術王様です。それに合わせ、指導者の戦意を疑うような噂も流しましょう。例えば、すでに密約が交わされて呪術王様に頭を垂れているとか」
「それは……意地が悪いな、コルネリア」
戦う意思どころか、誇りすら失った王に威厳も何もない。
謂れのない中傷で傷つけられた指導者たちはさぞや慌て、火消に奔走するだろう。
その様を想像し、アルバートはくつくつと笑った。
「それで、消極的な国は放置するのか?」
「いえ、そちらは逆に呪術王様は存在せず、呪族など恐れるに足りぬという噂を流します。呪術王様の存在を信じたくない王達にしてみれば、自身の論が補強されるわけですから喜んで民と足並みをそろえてくれるでしょう」
いやはや、これはなんとも意地が悪い。
アルバートが現れるまではコルネリアが王として呪族を率いていたわけで、それ相応の能力があると踏んでいたが、これはなんとも嬉しい誤算と言わざるをえない。
あまりにも盲目的な信仰心ゆえに切り捨てるほうに天秤が傾いていたが、これがどうして、まともに考える頭を取り戻せば有能極まりない。
清濁併せ飲む嫌らしい計略は、一族を率いるに足る器と言うべきだろう。
じっくりと考えてみても充分に勝算の高い賭けと思われ、アルバートはさっそく実行を指示した。
「よかろう。コルネリア、お前に任せる」
「は、ははっ。ありがたきお言葉でございます、敬愛する我が王!」
これで早急に考えるべきことは十分だろう。
あとは戦力の増強をなす必要がある。
理想はアルバートが戦わずとも世界平和を成し遂げられるだけの戦力の確保。最低でも盾となれるだけの力はもってもらわねばならない。
「直近の対処はまとまったな。では、次だ」
アルバートはそこで言葉を切り、一同を睥睨した。
これこそが今日の本題で、君主達を集めた理由でもある。雰囲気が変わったことを察したのか、君主達は一様に顔つきを厳しくする。
アルバートはあっさりとそれを口にした。
「お前たち、一度死んでもらうぞ」
最初に口を開いたリーゼロッテだった。
コルネリアとモーロックの問答に思うところがあったのだろうか、何にしろ活発に意見を出すようになるのは喜ばしい。
ウベルトも少し考え、同意を示すように頷いている。
「でも、人間が廃都に潜入するのは難しいのではなくて?」
「そうでももない。顔を隠せば、紛れこめるる。備えはして、しておくべきだろううう」
「イグナーツの一族だと警戒されすぎますわね。私の一族を各所に配置しましょうか?」
「よかろうう。ならば、裏はわた、私に任せてもらおう。元々影に潜む一族であるからなな……得意分野、だああ」
「ではそのように」
さきほどまでの無能ぶりはどこへいったのか、間者対策はあっさりと決まった。対策というには些か大雑把に過ぎるが、細かな部分はそれぞれが采配するだろう。アルバートは確定した施策を確認し、改善すべきを修正していけばいい。
まずは何かしらの形を整えること、そして己が頭で考える癖を植え付けることである。
無能な部下はいらぬ。
替えが効きづらい駒であるとしても、無能であり続けるならば不要だ。
無能な働き者ほど組織にとって迷惑な者はなく、それは容易にアルバートの望む未来を蝕む病巣となるだろう。
お前はどうだと睨みつければ、コルネリアもそれに気づいたのかごくりと喉を鳴らし、少し考えてからおそるおそる言葉を紡いだ。
「守りに注力するだけでは危険ではないかと……」
「かと言って、攻めるのは論外だ。まず吾輩が着手すべきは戦力の増強だ。いまの時点で軍を出すことはできん」
アルバートの懸念は圧倒的な戦力不足だ。
聖人級のラーベルクにすら及ばぬ部下を率いて世界平和など、成しえようはずがない。
アルバートこそが世界最強で、たった一人で世界を手中にできるというなら別だが、情報が足りぬ現状で、そこまで自惚れるつもりはなかった。
「軍でなくとも、攻めることはできます」
「どういうことだ?」
とんちじみた問答に困惑したアルバートとは裏腹に、モーロックは納得の手を打った。肉がないせいで、かしゃんと間の抜けた音がする。
「なるほど、裏工作ですか?」
「そうです。ウベルトの一族に呪族の噂を流してもらえば、民衆を扇動することもできるかと思います」
「試す価値ありですな」
いかがかと目線で問われ、アルバートは黙考した。
ありかなしかと問われても、それによって各国首脳がどう反応するかは賭けの要素が多いように思われるのだ。なにせ、呪族の存在を明確にするとなれば戦争積極派の後押しになりかねない。
証拠がなければ動かぬと尻込みする愚か者どもも、民衆に呪術王を恐れ打倒を望む声が広まれば動かざるをえないだろう。
「コルネリア、勝算があるのか?」
「はい。現状は積極派と消極派に別れていますが、言ってみればそれは呪術王様のお力を理解する者と、目を逸らす者に二分されていると言えます。ですが、どちらの国も民衆にラーベルクの死を伝えていないという共通点があるのです」
言われて、なるほどと頷いた。
消極派がラーベルクの死を伝えないのは、伝えることで民意が積極派に流れることを恐れてだろう。
だが、積極派にとって民意が戦争を支持することは望ましいはずだ。それがなぜ、民にラーベルクの死と呪術王の存在を伝えないのか、考えれば簡単なのだ。
各国の連携が取れぬままに戦争の気運が高まることを恐れているのである。
指導者の力が強い君主制といえど、民を無視し続けるのは好ましくない。反乱が起きるとは言わないが、指導者の判断能力に疑問を持たれる可能性がある。
戦争の気運が高まる民衆と戦争をする気がない指導者という構図は、権威という蜜に浸る羽虫どもにとっては何とも都合が悪いだろう。
「積極派の国に吾輩の存在を知らしめ、内部から足並みを乱す、か」
「さすが、呪術王様です。それに合わせ、指導者の戦意を疑うような噂も流しましょう。例えば、すでに密約が交わされて呪術王様に頭を垂れているとか」
「それは……意地が悪いな、コルネリア」
戦う意思どころか、誇りすら失った王に威厳も何もない。
謂れのない中傷で傷つけられた指導者たちはさぞや慌て、火消に奔走するだろう。
その様を想像し、アルバートはくつくつと笑った。
「それで、消極的な国は放置するのか?」
「いえ、そちらは逆に呪術王様は存在せず、呪族など恐れるに足りぬという噂を流します。呪術王様の存在を信じたくない王達にしてみれば、自身の論が補強されるわけですから喜んで民と足並みをそろえてくれるでしょう」
いやはや、これはなんとも意地が悪い。
アルバートが現れるまではコルネリアが王として呪族を率いていたわけで、それ相応の能力があると踏んでいたが、これはなんとも嬉しい誤算と言わざるをえない。
あまりにも盲目的な信仰心ゆえに切り捨てるほうに天秤が傾いていたが、これがどうして、まともに考える頭を取り戻せば有能極まりない。
清濁併せ飲む嫌らしい計略は、一族を率いるに足る器と言うべきだろう。
じっくりと考えてみても充分に勝算の高い賭けと思われ、アルバートはさっそく実行を指示した。
「よかろう。コルネリア、お前に任せる」
「は、ははっ。ありがたきお言葉でございます、敬愛する我が王!」
これで早急に考えるべきことは十分だろう。
あとは戦力の増強をなす必要がある。
理想はアルバートが戦わずとも世界平和を成し遂げられるだけの戦力の確保。最低でも盾となれるだけの力はもってもらわねばならない。
「直近の対処はまとまったな。では、次だ」
アルバートはそこで言葉を切り、一同を睥睨した。
これこそが今日の本題で、君主達を集めた理由でもある。雰囲気が変わったことを察したのか、君主達は一様に顔つきを厳しくする。
アルバートはあっさりとそれを口にした。
「お前たち、一度死んでもらうぞ」
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