ハズレスキル【魔物生産】は倒した魔物を無限に作り出せて勝手に成長するチートスキルでした!〜友達だった男にパーティー追放されたけど女だらけの騎士団に雇われたのでストレスフリーなスライム無双を始めます!〜

霜月琥珀

18話 第二王女(偽物)とお話しました

 ………………。
 …………。

 ……ん? 

 外がやけに騒がしいようか気がする。
 せっかく人が安らかに眠っているというのにドタバタ、ガラガラガッシャンとうるさいな。

 ……はぁ。

 あまりのやかましさに目が覚めてしまった。
 まだ体はだるいというのもそうだが、全身筋肉痛でまともに動けそうもないというのに。

 ……起きるか。

 俺は仕方なくといった感じで目を開けた。

「……お目覚めですか? アルト様」
「――へっ!?」

 おっと、急に知らない人から声をかけられたものだから変な声が出てしまったぜ。

「って、本当に誰!?」

 まったく見覚えのない女の子がベッドの側に置かれている椅子に座っていた。
 もしかして俺は顔も名前も知らない人に寝顔を見られ続けていたのか……?

 最近、恥ずかしいことばかりだな。
 王都の中をパジャマで歩き回ったり……。

 ほんと、ツイてねぇよ……。

 それにしてもこの女の人は誰だろう?
 服装からして騎士団の人ではない。服装からしてメイドかな? 騎士団にメイドとはおかしな話だけど。
 
 というかさっき、俺のこと勇者って言ったか?
 俺が勇者であることはアナベルたち騎士団を除いて、知っている人はそういなかったはず……。

 ……いや、一人いたな。

「シャルロッテさんですか?」
「わたくしのことをご存知だったのですね。それなら話が早いです。――勇者アルト様」
「……はい」
「あなたにはこの国を救ってもらいます」
「……はい?」

 なぜ俺が国を救うことを勝手に決められているのだ?
 ここは「この国を救ってほしいんです」とかでしょ?
 いやまあ……目の前にいるアルトリア王国の第二王女は、誰かに物事を頼むような性格ではなさそうだ。

 なんか人間らしくないんだよな。
 決められたことを淡々とこなすゴーレムのような感じ。シャルロッテからは意思を感じない。

 ……こいつ偽物だな。
 第二王女なのにメイド服なのは明らかにおかしい。

 そう俺が訝しんでいるのも知らずに、シャルロッテは表情一つ変えずに淡々と告げる。

「はい? ではありません。聖剣を託した以上は救ってもらわないと困ります」
「確かにそうかもしれないけど……。もっとこうさ……ないの? やる気を出させるような言葉とかさ」
「ありません。これはあなたの使命です。やる気が無くてもやらなければならないのです」
「……分かったよ。でも、俺が国を救った暁には何かご褒美をくれ」
「分かりました。そのように検討します」

 よし。言質は取った。

 これで約束を守ってくれなかったら、逆に俺が国の平和を脅かしてやる。
 俺には【魔物生産】という魔物を従えることのできる悪役向きのスキルがあるからな……。

 というか。

「…………」

 シャルロッテがまったく動かなくなってしまった。
 まるで操り手のいない人形のように。

「……おい」
「はい。何でしょう」

 ……この感じ、やっぱり彼女を模して作られたゴーレムのような気がする。
 でもゴーレムは基本、石で作られた化け物だからここまで精巧に作り上げることはできない。

 もしかしたらまた別の存在なのかもしれない。

 ただ、話は通じるみたいだ。
 なら聞きたいことを聞いておくとするか。

「この国を救うというのはよく分かったけど、具体的には何をすればいいんだ?」
「空気中の魔力を吸って、魔物を強制的に生み出す魔法陣を破壊し、それを設置しているであろう者たちを捕らえて欲しいのです」

 ……魔法陣と言えば、森の中にあったやつだな。
 
 しかし、妙だな。それだけのために勇者を探すだろうか?

 確かに魔法陣を放っておくと何百、何千という魔物が生み出され続けるが、騎士団が総出で対処すれば容易とはいかずとも片付けられるような気がするが……。

 恐らく、これ以外にも何か目的がある……と思う。
 流石にそれは教えてもらえないだろうけど、念のために聞いておくとしよう。

 あのとき聞いておけばよかったと後悔しないように。

「……シャルロッテ。勇者を探していたのは魔法陣の件以外にも目的があるからじゃないのか?」
「……それにはお応えできません」

 やっぱり無理だったか。
 しかし俺は確信することができた。

 アナベルたちにはもっと強くなってもらわなければいけない。

 勿論オルガ以上になれというわけじゃないが、アルトリア騎士団十二番隊だけで、魔物の群れを殲滅できるぐらいにはなってほしい。

 そうすれば、俺が引きこもれる。

 それはさておき。

「いつまでここにいるつもりなんだ?」
「分かりません」
「なら帰っていいよ。もう聞きたいことはないし」
「分かりました。そうさせていただきます」

 礼儀よく頭を下げた後、偽物のシャルロッテは部屋を出て行こうとする。

 ――のを俺は引き止めた。

 最後にやって欲しいことがあったのを思い出したのだ。

「悪いんだけど、外で騒いでる奴らを黙らせてから帰ってもらっていい?」
「分かりました。全力で対処させていただきます」
「ありがとな、――シャロ」
「シャロとは私のことですか?」
「あぁ。シャルロッテは別にいるみたいだからな。お前のこともシャルロッテって言うと紛らわしいから、シャロと呼ぶことにしたんだが……嫌だったか?」

 そう困ったように言うと、今まですぐに応えていたシャロが少し戸惑っているのが分かった。
 今まで名前なんてつけられてこなかっただろうし、仕方ないか。

 俺はシャロが応えてくれるのを待っていると。

「……私はこれからシャロを名乗ろうと思います」
「それでいいと思うよ」
「分かりました。それでは行って参ります。――マスター」

 そう言って、今度こそシャロは部屋から出て行った。

 そして俺はというと。

「さて、寝るか」

 布団を深く被り、目を瞑った。
 まだまだ全然、体がだるいからな。
 そういうときは眠るのが一番なのだ。

 ……そういえばシャロは最後、俺のことをマスターと呼んだような気がするけど、どういうことだろう?

 ……まあ、いいか。

 呼び方に大した理由はないだろうしな。


 そして、しばらくした後のこと。
 騒がしかった奴らはシャロに片付けられたらしい。
 さっきまでとは打って変わって辺りは静かになり……俺は無事に深い眠りへと落ちることができるのだった。

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