魔女伝〜天才魔女ヨキのリアルはちゃめちゃ人生

風乃音羽

第6話 ヨキの覚醒

「ちょっと話したいことがある。今から行っていいかなぁ?」
ヨキは、夜10時を過ぎた頃に、やって来た。
音羽は、仕事の打ち合わせに来るのだと思っていた。
でも、そうではなかった。
「もう、あまりにしんどいから、聞いて欲しい。絶対秘密の話、音羽にだけするね。
わたし、能力が復活してしまった!」
「何の???」
「わたし、見えるのやね。全て。人の顔の前にその人の人生のマップが、過去、現在、未来と時期も全て、タグがぶら下がってる様に、、、」

「えっ?」
音羽は、驚いた。
音羽の周りには、いわゆるスピリチュアルな人がたくさん集まってくる。霊媒師やら、スピリチュアルカウンセラー、占い師、、、
だから、音羽は、目を見れば、だいたい名乗りをあげてくれなくても、霊感のある様な類の人を見分けられた。
でも、ヨキのそれには、今まで、全く気付かなかった。
ヨキは、とても現実的なことしか言わない。
天才ではあるし、商才もある。
成功者の考え方も持っているけれど、
ずっと、「スピリチュアルとか信じる?わたしは、その手の占いとか、嘘やと思ってるから、行ったこともないし、あんまり苦手。」と言っていた。
だから、わたしも、全く、その手の話をヨキにはしなかった。
そのヨキが??

その時、息子のケイが、部屋から出てきて、リビングに来た。ヨキを見ると、
「こんばんは」と一言だけ挨拶して、また自分の部屋に戻って行った。
ヨキは、「ねえ、ケイちゃんってお金好きなんだね。お金、お金ってタグがたくさん顔の周りにぶら下がってるよ。」

音羽は、本当にびっくりした。
ケイは、小さな時から、もらったお小遣いや、お年玉をコツコツ貯めていた。小学5年生の頃に、おねだりされたのが、ダブルロックの持ち運び式の金庫で、そこに貯金して、まとまった金額になると銀行に預けていた。
小学生の時に、高校生の姉がアルバイト先からお給料をもらって帰ってくると、
「いいなー。僕もアルバイトしてお金稼ぎたい!」と羨ましがった。
「小学生は、どこも雇ってくれないよ。」と、言うと!本気で悔しがっていた。

そんなことは、ヨキが知る由もなかった。
「でもお金にも好かれてるから、いっぱい貯められる子やね。お金に好かれてるということは、人にも好かれるから、人が集まる。だから情報が集まるから、また、お金も稼げるようになるよ。」とヨキは言った。

音羽は、ヨキの顔を見つめて、目をよく見た。
確かに、霊感のある人の目だった。
なぜ今まで気付かなかったのだろう。

「何で、、、スピリチュアルは嘘、わたしは嫌いってずっと言ってたから、、、、でも、今ので分かった。本当にそうなのね。いつから?」

「小さな子どもの時から、、、目の前の人がいつどうなるか日にちまで分かった。まあ、遠隔でも分かるけど、、、

でも、人間には感情があって、こっちの道の方がいいと分かりつつも選べなかったり、踏みとどまらないといけない場面で、分かっていても、止まれなかったりする。
逆もある、今一歩踏み出せば、全てうまくいくのに、心配や不安というモヤがかかっていて、それはただの幻なのに、それを実現させてしまう。

想ったことが実現するのが、宇宙のルールだから、ただの幻を信じてそれを叶えてしまうの。

それが人間なの。

それから、今というこの瞬間に、何か気づきがあった時、その人の未来だけではない、過去まで書き替えられたのも見たことがある。

、、、、わたしの見える人生マップなんか、見えたって、その人本人のチョイス、その日の気分や、感情で、変わってしまうから、意味がない。
だから、スピリチュアルは嘘!って言ってるの。人は、その通り行動出来ないから。
見えるだけ苦しくなって、随分前に、この力は自分で封印してたの。」

音羽は、黙って聞いていた。

「それが、癌になって、病気だけではなく、こうちゃんのことで、苦しみがピークになって、そう、音羽、あなたに泣いて電話した後、癌と一緒にその苦しみも切り取ってもらうと決めて、手放したの。

そしたら、覚醒してしまった。

わたし自身が忘れてしまっていた感覚が、蘇った。
病院の中で覚醒してしまったから、もう大変。
死期まで見えちゃうから、つらかった。

それから、このパワーが、日に日に増してる。
そうなると、キツくって、普通に仕事どころではなくなるから、中断して、近くの木がたくさんある公園に散歩に行くと、少し落ち着く。
でも、もう、1日に5〜6回公園に行くから、仕事にならない!どうしよう?」

その時、1人のヒーラーの顔が音羽の脳裏に浮かんだ。
その人は、音羽が仕事で関わっていて、とても澄んだ良い人だったし、彼女は、エネルギーの調整を人にしてあげれる力があるから、ヨキに一度会わせてみたら良いと直感的に思いついた。

「ヨキ、わたし近々、ちょっとした仕事で関わってるヒーラーのトウコさんに会うんだけど、紹介しようか?何か良いアドバイスがもらえるかもよ。
ちょうど、明後日、あなたの会社の近くで、ランチミーティングの予定だから、終わる頃に少し顔出す?」

「時間作れたら、、、」

きっと本当は、トウコさんに会わなくても、ヨキは自分がどうすれば良いかも分かっているのだろう。
でも、自分で言ってた様に、感情が邪魔して、次の行動を取れないでいるのだろう。

トウコさんに会うことがキッカケになるだけでいいから、と音羽は、内心思っていた。

「じゃ、わたし帰るね。遅くにごめん。でもこのこと、本当に初めて人に話した。絶対に秘密だよ!絶対に!あっ、でも、トウコさんには、いいよ。」


音羽に打ち明けたことで、少しスッキリとした顔でヨキは帰って行った。

それにしても、今日のヨキが話す時の顔が、別人だった。
実際の歳はわたしより、ひとまわり下だけれど、もっと年齢を重ねた人の顔つきみたいだった。

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