コラム「心の声」

風乃音羽

リセット

今日、わたしが執筆している、魔女伝『友だちは魔女』の主人公ヨキのモデルになっているGraceが、うちに来た。

「今って、2019年の11月15日なの。12月4日まではそう!」
と会うなり、興奮気味に話し出した。

「どういう意味?今は2021年よね?」
わたしは、彼女が単純に間違ってると思った。
けれど、そうではなかった。

「うん、そうなんだけど、今だけ2019年なの。
その頃に、やり残したこと、やっとけばよかったって後悔したことを、思い出して。
そして、その時から2年経った今、私たちって、確実に2年前より、何かを体験して、学んだし、変化したよね。
だから、リセットしたいことを思い出して、今やるのよ!
今なら、その時出来なかったことを出来る自分になってるから。
2019年には、気づかなかったり、二の足を踏んでしまったことを、今やるの。」

なるほどと思った。
そしてわたしは、こんな風に応えた。
「あー、たしかに、そういう思いで今の行動とれば良いよね。
毎日の選択が変わるもんね。
もう一度あの時に戻れるなら、、って思って行動に移せば、今を大切に生きれるよね。」

するとGraceが言った。
「確かに、そうなんだけど、今わたしが言ってることは、本当なのよね。
今、私たちは2019年にいる。
なんかね、そんな気がしてならない。
昨日、仕事の時に、ちょっとした失敗があったの。
ある音源が必要で、もちろん、携帯に用意して行ったんだけど、そのファイルだけがなぜか開かないの。音源が出せないのよ。
それとおんなじことが、2019年の昨日と同じ日にあって、その時学んだのは、バックアップデータをちゃんと、自分ともう1人、誰か関係者にメールしておけば、もしもの時に、なんとかなる。
だから、その日以来、絶対そうしてた。
でも、何故か、昨日だけ、それをしてなかった。
ものすごく困って、2019年の記憶がフラッシュバックしたの。
それから、今日も、同じようなことがあった。
リセットよ。
やり直して、最善のチョイスが出来る時なのよ。
あなたも、思い出してみて、凄いチャンスだから。」

わたしは、2019年の今頃の写真を見てみたり、スケジュールを引っ張り出してみたりして、その時のことを思い出してみた。

その頃は、世界を変えてしまったコロナウィルスの存在をまだ知らなかった。

集まるということ、移動するということ、食事を外ですること、子どもたちの学校ライフ、全てにおいて、今当たり前になってしまった制限は何も無い時だったなと気づいた。

その時、当たり前に出来てたことが、そうではなくなった2年間を経験した。

苦しくて嫌いだったマスクも、今は当たり前のように外出時は必ずつけるようになった。

どこのお店に入る時も、必ず入り口には、消毒液が設置され、検温されて、中に入る。

握手を交わすこともなくなり、対面で話す時には、遠慮がちに顔を背ける。

確実に、新しい習慣が身に付いている。

それから、、、、
2年前は、まだ父が生きていた。

今年の二月、父は他界した。
わたしにとって、過去最高に辛い別れだった。

そう言えば、娘がイタリアに留学が決まっていたから、いる間に両親をイタリア旅行に連れて行こうと誘ったのも、2年前だ。

娘がイタリアに留学した直後に、コロナの蔓延のため、イタリアは大変なことになった。
国費留学だったため、2ヶ月後には、娘は、強制的に帰国することになった。

だから、両親とのイタリア旅行は無くなった。
父が元気な時に、何故わたしは、旅行の一つでも誘えなかったのだろう。
今まで何回も海外旅行に行っていたのに。

とにかく2019年の11月には、全く想像すらしていなかった2年間をそのあと経験してきたのだ。

リセット出来るなら、コロナのない地球にいたい。
父が死なない地球にいたい。

でも、Graceの言うリセットは、自分自身の行動のことで、自分が住む環境をリセット出来るわけではもちろんない。

結論、、、
今日と同じ日が明日来るとは限らないということを、嫌というほど体験した。
だからこそ、やっぱり、わたしは、今わたしがやりたいことを躊躇なくやる。
家族や友だち、わたしの大好きな人たちに、ちゃんと愛を注ぐ。
わたしという存在が、人を元気づけたり、勇気を与えたり出来るように、メッセージを伝えたい。優しくありたい。
強くありたい。

Graceのメッセージを受けて、久しぶりに、深く内観してみた。
それを、今、忘れないように、エッセイとして書き残す。
これを読んだ誰かの心に届いて、温かい、一本のマッチの火になりますように。

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