誇り高い義妹が悪役令嬢呼ばわりされて国外追放となった、俺が黙っているとでも思ったのか、糞王太子。

克全

第15話:舞踏会2

「……一曲踊っていただけませんか」

「はい、よろこんで、エドアルド殿下」

 これで三十五曲目だが、いい加減もう踊るのが嫌になってきた。
 政略を考えての舞踏会だから、一瞬たりとも気を抜くことはできない。
 武器を振るっての戦いとは違うが、社交も家の命運をかけた場なのだ。
 明らかな無礼ではなくても、言葉一つ選び間違えても家の存亡につながる。
 俺の婚約者を選ぶという噂を流しただけで、国内外から多くの王侯貴族が集まり、中には王女までやってきている。

 お嬢様の冷たい視線がとても痛い。
 今回集まってきた王侯貴族の中には、お嬢様の婚約者になろうとしている、王子や令息の姉妹がとても多い。
 ほとんどの王侯貴族が、お嬢様と俺が結婚する事を警戒している。
 確かに、内向きに考えれば、それが一番安定する方法だ。
 だが、公王家が外に目を向けて拡大政策を取るのなら、大国と手を組んで近隣諸国を切るとる事になる。

 お嬢様と俺が、別の大国と婚姻を結べば、三カ国連合で一国を攻める事ができる。
 公国は独立したばかりの小国ではあるが、俺の内政で大国並みの経済力がある。
 兵力も王国や敵対貴族家から難民を迎え入れたので、大国以上の専従兵がいる。
 そんな大国でも喜んで婚姻同盟を結んでくれるだろう。
 そんな状況を作り出してしまえば、婚姻など結ばなくても国内貴族は唯々諾々と公王家に従う事だろう。

「エドアルド殿下、もう令嬢とのダンスは飽きたのではないか。
 そろそろ王家攻めについて話をしたいのだが」

「相変わらず無粋だな、カルロ。
 今宵は舞踏会の日で、軍略会議の日ではないのだぞ」

「そんな事くらいは俺にだって分かっているが、いい加減腕がウズウズするのだ。
 王侯貴族の令息やご令嬢と何度踊ったとしても、本当に心根は分からん。
 命を懸けた戦場で共に戦わなければ、人の価値など分からん。
 そう言っていたのはエドアルド殿下であったぞ」

「確かにそう言ったが、お嬢様の婚約者を選ぶために、長年苦楽を共にし、忠誠を尽くしてくれた将兵を危険にさらすわけにはいかない。
 性根の腐った卑怯者や憶病者と一緒に戦ったら、勝てる戦も勝てなくなる。
 勇猛な敵など怖くないが、何時逃げる分からない味方ほど怖いモノはないからな」

 俺がカルロに答えると、ウァレリウス・ウディネ伯爵家の養女で軍師、何よりカルロのお目付け役であるグレタが会話に加わってきた。

「今日は随分と優しい事を言われるのですね、エドアルド殿下。
 以前私がお聞きした話では、いつ裏切るか分からない、憶病で卑怯な王侯貴族とは絶対に一緒に戦わないと言われていたではありませんか。
 つまり、今回フラヴィオ王太子軍との戦いに参加されない王侯貴族軍は、エドアルド殿下が卑怯者で憶病者と見切りをつけた方々なのですね」

 グレタめ、やりやがったな。

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