水月のショートショート詰め合わせ
草原にプラネタリーギアの遊園地を
草原の濃い霧の中から聞こえてくる、電子音のマーチ。
良い予感がして、走り出した。霧が晴れて、目の前に現れた大きな観覧車。メリーゴーランド。ジェットコースター。期待通りの遊園地だ。夢に見ていた、遊園地。
「おねーちゃん、トヤー、起きて。水汲み、遅れちゃう」
見慣れた家の天井と、身体を揺らしてくる弟の顔。遊園地の光景は一瞬で消えた。やっぱりまた、夢だった。のそりと起き上がり、身支度を整える。足早にキッチンに向かい、水汲み用のタンクを抱えて外に出る。
私と同じタンクを抱えた弟は、歓声を上げながら私より早く、外に飛び出していった。今は弟の元気さが羨ましい。がっかりしたまま、気分が重い。
青々とした草原を、踏みしめて進む。しばらく歩いて振り向けば、もう私たちの村のテントがかなり小さくなっていた。開けた場所には、羊の群れ。父は今頃、あの羊たちに新鮮な草を食べさせている。母は、家にいる山羊の乳を搾っているだろう。
草原での暮らしは好きだ。でも、街での暮らしにも興味がある。特に遊園地に行ってみたい。時たま来る街からの観光客が、遊園地という存在を教えてくれた。
夜でも、どこもかしこもピカピカと明るく照らされる、子供の楽園。そんなイメージが頭を離れなくなった。一度だけでいいから、行ってみたい。
川に到着した。すぐにタンクを水で満たす。はしゃいでいた弟も、大人しくタンクに水を汲み始めた。弟の動きに注意を払いながら、重くなったタンクを引っ張り上げる。
タンクの蓋を閉めて、しっかり両手で取っ手を掴み、家路につく。
「帰るよー」
「うん」
時々振り返って、弟の姿を確認する。帰ったら、勉強だ。学校は遠すぎて、毎日は通えない。今日は家での退屈な自習の日。憂鬱だ。
深い草の絨毯を歩き進み、もう少しでゴールという時、妙な形の硬い何かを踏んだ。タンクを置き、足の下の草を掻き分ける。銀色の、歯車。直径5cm程度の、小さい歯車だ。
「おねーちゃん、変なの、いっぱい見つけた」
後ろからやって来た弟が、私に掌を見せる。様々な大きさの歯車が、弟の掌に、こんもりと盛られている。
「ああ、すみません。それ、どこらへんにありましたか」
「ぎゃっ」
急に目の前に現れた女の人に、2人で驚いて尻もちをつく。宇宙飛行士のような恰好をした、栗毛の長い髪の女の人。髪の毛と同じ色の瞳が、私たちをじっと見つめてくる。
「怖がらせてしまいましたか。すみません。私、別の星から来た者です。この草原に即席の休憩所を造ろうと思いまして。着陸する寸前に、大事な遊星歯車装置を落としてしまったのです。歯車を全部、早く回収しないと」
青い顔で眉を八の字に歪めている女の人は、本当に困っている様子で、草原をおろおろと歩き回っている。何を言っているのか分からないが、手を貸すべきだろう。
「あの、ちょっと待っててください!皆を、呼んでくるから」
女の人にそう言って、テントの方向へ走る。
「ああ、これで全部揃いました。本当に、本当にありがとう!」
西日が強くなってきた頃、村人総出での歯車の回収作業が終わった。女の人は、涙目になりながら歓喜している。
「ああこれで、ようやく休憩所が完成します。あとは遊星歯車装置を配置するだけの状態にしておきましたから、あっと間に完成です」
「お姉さん、あの、休憩所って、どんなものなんですか」
ずっと気になっていたことを質問してみた。
「私たちの星の人々は、楽しいという感情を大切にしています。星間旅行中も楽しめるように、あちこちの星に、からくり仕掛けの遊園地のような休憩所を造らせていただいているのです」
遊園地という言葉で、落ち着けなくなった。わくわくする。
「そうだ皆さん、どうぞ私たちの休憩所に遊びに来てください!今夜にも完成しますから。普段はお邪魔にならないように、ステルス装置で透明化しているのですが、今夜は見えるようにしておきます」
真っ暗な草原の真ん中に、堂々と建っている煌びやかな遊園地。煌々と光るメリーゴーランドや観覧車。皆で口をあんぐりと開ける。私はまた夢を見ているのではないかと思い、自分の片頬を引っ張った。
「ようこそ!からくり仕掛けの休憩所へ。感謝の印です。どうぞ、心行くまで楽しんでください」
宇宙服のお姉さんが、固まる私たちを、光るおもちゃ箱のような世界に導いてくれる。
くるくると優雅に回るカラフルなコーヒーカップ。視界もぐるぐる回って。楽しい。弟も母さんも、普段とても無口な父さんも、声を出して笑っている。楽しくてたまらない。
電子音のマーチは、草原の風のように、一晩中ずっと止まなかった。
良い予感がして、走り出した。霧が晴れて、目の前に現れた大きな観覧車。メリーゴーランド。ジェットコースター。期待通りの遊園地だ。夢に見ていた、遊園地。
「おねーちゃん、トヤー、起きて。水汲み、遅れちゃう」
見慣れた家の天井と、身体を揺らしてくる弟の顔。遊園地の光景は一瞬で消えた。やっぱりまた、夢だった。のそりと起き上がり、身支度を整える。足早にキッチンに向かい、水汲み用のタンクを抱えて外に出る。
私と同じタンクを抱えた弟は、歓声を上げながら私より早く、外に飛び出していった。今は弟の元気さが羨ましい。がっかりしたまま、気分が重い。
青々とした草原を、踏みしめて進む。しばらく歩いて振り向けば、もう私たちの村のテントがかなり小さくなっていた。開けた場所には、羊の群れ。父は今頃、あの羊たちに新鮮な草を食べさせている。母は、家にいる山羊の乳を搾っているだろう。
草原での暮らしは好きだ。でも、街での暮らしにも興味がある。特に遊園地に行ってみたい。時たま来る街からの観光客が、遊園地という存在を教えてくれた。
夜でも、どこもかしこもピカピカと明るく照らされる、子供の楽園。そんなイメージが頭を離れなくなった。一度だけでいいから、行ってみたい。
川に到着した。すぐにタンクを水で満たす。はしゃいでいた弟も、大人しくタンクに水を汲み始めた。弟の動きに注意を払いながら、重くなったタンクを引っ張り上げる。
タンクの蓋を閉めて、しっかり両手で取っ手を掴み、家路につく。
「帰るよー」
「うん」
時々振り返って、弟の姿を確認する。帰ったら、勉強だ。学校は遠すぎて、毎日は通えない。今日は家での退屈な自習の日。憂鬱だ。
深い草の絨毯を歩き進み、もう少しでゴールという時、妙な形の硬い何かを踏んだ。タンクを置き、足の下の草を掻き分ける。銀色の、歯車。直径5cm程度の、小さい歯車だ。
「おねーちゃん、変なの、いっぱい見つけた」
後ろからやって来た弟が、私に掌を見せる。様々な大きさの歯車が、弟の掌に、こんもりと盛られている。
「ああ、すみません。それ、どこらへんにありましたか」
「ぎゃっ」
急に目の前に現れた女の人に、2人で驚いて尻もちをつく。宇宙飛行士のような恰好をした、栗毛の長い髪の女の人。髪の毛と同じ色の瞳が、私たちをじっと見つめてくる。
「怖がらせてしまいましたか。すみません。私、別の星から来た者です。この草原に即席の休憩所を造ろうと思いまして。着陸する寸前に、大事な遊星歯車装置を落としてしまったのです。歯車を全部、早く回収しないと」
青い顔で眉を八の字に歪めている女の人は、本当に困っている様子で、草原をおろおろと歩き回っている。何を言っているのか分からないが、手を貸すべきだろう。
「あの、ちょっと待っててください!皆を、呼んでくるから」
女の人にそう言って、テントの方向へ走る。
「ああ、これで全部揃いました。本当に、本当にありがとう!」
西日が強くなってきた頃、村人総出での歯車の回収作業が終わった。女の人は、涙目になりながら歓喜している。
「ああこれで、ようやく休憩所が完成します。あとは遊星歯車装置を配置するだけの状態にしておきましたから、あっと間に完成です」
「お姉さん、あの、休憩所って、どんなものなんですか」
ずっと気になっていたことを質問してみた。
「私たちの星の人々は、楽しいという感情を大切にしています。星間旅行中も楽しめるように、あちこちの星に、からくり仕掛けの遊園地のような休憩所を造らせていただいているのです」
遊園地という言葉で、落ち着けなくなった。わくわくする。
「そうだ皆さん、どうぞ私たちの休憩所に遊びに来てください!今夜にも完成しますから。普段はお邪魔にならないように、ステルス装置で透明化しているのですが、今夜は見えるようにしておきます」
真っ暗な草原の真ん中に、堂々と建っている煌びやかな遊園地。煌々と光るメリーゴーランドや観覧車。皆で口をあんぐりと開ける。私はまた夢を見ているのではないかと思い、自分の片頬を引っ張った。
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宇宙服のお姉さんが、固まる私たちを、光るおもちゃ箱のような世界に導いてくれる。
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