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水月のショートショート詰め合わせ

水月

帰還念じるコールド・プリンター

押し慣れたボタンを押す。シャッ、シャッと紙が擦れる音と一緒に、印刷された紙が滑り出てくる。その様子を、じっと見つめた。

10枚目が問題無く出てきたと同時に、手を伸ばした。紙の束に指先が当たる瞬間に、11枚目がするりと出てきた。

印刷したのは、10枚のはず。

この忙しい時に故障は止めてくれと祈りながら、余分な1枚を手に取った。裏面に、昔懐かしい水鉄砲が大きく印刷されている。

オフィス内を見渡した。誰かの悪戯だろうか?しかし、今は皆、真剣な顔でパソコンと睨み合っている。こんな、子供じみた悪戯をする人はいないはず。首を傾げた。



その日の夜、夢を見た。宇宙服姿で宇宙に漂い、水鉄砲を両手に構えているだけの夢。

恐ろしい地球外生命体が出てくるわけでなく、隕石が迫ってくるわけでもないのに、なぜか小さい水鉄砲を構えている。遠くにある小さい地球に向けて。

その水鉄砲は、あのプリンターが見せてきた水鉄砲と同じだった。





次の日も、1週間後も、1ヶ月後も、あのプリンターを使った日には、必ず画像が印刷された余分な紙が1枚出てきた。アシカ、竜巻、マンゴスチン、フクロモモンガ、おでん(大根、コンニャク、卵)、蓄音機。

あのプリンターがランダムに見せてくる画像は、お決まりのように、その日の夢に出てくる。やっぱり宇宙服姿の私の傍に。何も起きず、ただ、宇宙で浮遊し合うだけの夢。

生き物は宇宙空間でも元気に動き回る。フクロモモンガは私のヘルメットに張り付いてきたものだから、慌てて引きはがした。

昼休みにコンビニのサンドイッチを咀嚼しながら、例のプリンターが見せてきたものリストを見返す。カモシカ、マカロニサラダ、ドライヤー、自転車、握り寿司(卵)、電車、シャチ、洗濯機、知らない人の高校の卒業証書、焼きそば、金魚。

関連性は、どうしても見つからない。手帳を閉じ、サンドイッチの残りを頬張った。




真夜中の薄暗いオフィスで、開放感に包まれながらボタンを押した。長い息を吐きながら、プリンターから吐き出される残業の成果を見守る。最後に、余分な1枚。

プリンターの奇妙な現象を忘れていた。すぐに、裏返して確認する。

一面に印刷された、自分の姿。

ちょうど今、プリンターの斜め後ろから写したような。全身に鳥肌が立つ。周囲を見渡す。誰もいない。全速力で、身支度を整える。オフィスを飛び出した。



その日も、案の定、夢を見た。宇宙服を着てはいるが、いつも通りの、独り暮らしの自分の休日を早送りしているような夢。啜ろうとした紅茶が、ヘルメットのガラスに隔てられて飲めていないにもかかわらず、紅茶は減っていく。

不思議な現象の連続の後、ベッドに横になった。後は、目を閉じれば。いつも通りの朝が待っている。さぁ、眠ろう。

視界が暗転する。

いつも通りのオフィスへ。

あのプリンターが私を待っている。








目が覚めた。自動的に、ガラス製のカバーが上に開いていく。とても、寒い。冷凍庫の中のようだ。身動きが、できない。

「KP420934番、覚醒、KP420934番、覚醒」

アナウンスが響く。ぞろぞろと、私の周りに白衣姿の人間が集まってきた。早口で、何かを話しているが、よく聞き取れない。白衣を着ている若い女性が、私の顔を覗き込んできた。

「おはようございます。おかえりなさい。ここは、地球です。もう、大丈夫ですよ。土星から、よくぞ無事にお戻りになられました。100年のコールドスリープの帰り道は、どうでしたか?」

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