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水月のショートショート詰め合わせ

水月

スノーブラインド通りへの越境

無事に離陸し、マスクから供給される酸素を多めに吸い込み、吐いた。

眼下には、青い海と陸地。目的地は、そう遠くない広大な雪原。すぐに、視界は白に満たされていくだろう。

「NUY875、NUY875、応答せよ」

「こちらNUY875、そうぞ」

「NUY875、作戦は予定通り行う。最終確認作業に入れ」

「NUY875、ラジャー」

通信は途切れ、静寂が戻る。計器や燃料の残量、爆弾を投下する装置の状態を確認する。問題無い。雪原にある敵国の軍事研究施設に、甚大な損害を与えるであろう爆弾も。

隊長に最終確認の結果を伝えようとした時、下方からの凄まじい衝撃と共に、視界が暗くなった。

何も見えない。何も……







眩しい光で目蓋を開く。

太陽らしき白い球から降り注ぐ光が、眼球に突き刺さる。呻いて、ごろりと横を向いた。手を付いて、上体を起こす。眩む目の回復を待ってから、周囲を見渡した。

白い。白い道路の真ん中だった。

道路の脇に並んでいるログハウスのような建物から、青年が出てきた。私に気付いた後、少し迷った様子を見せてから、おずおずと近づいて来る。

「あの……大丈夫ですか。歩けます?飲み過ぎは、良くないですよ」

下戸の私が酔っ払いだと思われるとは。いや、この状態では仕方ない。

「いや、酔ってない。酔ってないんだ。気付いたら、ここで寝てた。俺はパイロットなんだ。今日も、ついさっきまで、任務中で……」

「本当に、危ないですよ。そんな夢みるほど道路で熟睡しちゃあ」

呆れたように、青年がため息を吐く。焦りが加速する。

「本当だ。本当に、誓って、飲んでないんだ。信じてくれ。夢じゃない。本当に、パイロットなんだ。戦闘機に乗って飛んでいたんだから、酒なんか飲んでいるはずがないだろう。いきなり、気を失って。気付いたらここに」

「セントウキ?……まぁ、とりあえず、立てます?」

青年は、首を傾げたまま、私に手を差し出してくれた。その手を取って、ゆっくり立ち上がる。立てた。身体全体を確認する。異常無し。

「良かった。念のために、病院行きますか。案内しますよ。僕、病院でバイトしてるんで」

「ああ……ありがとう」

サングラスを着けた、栗色の髪の青年は親切だった。



道路を歩き進むと、白い道路の上で、たくさんの人が長閑な日常を過ごしている様子が目に入ってきた。

奏で、歌い、飲み、踊り、食べ、笑う。服装や肌の色、髪形には全く統一感が無い。しかし、サングラスだけは、ほとんどの人が着けている。

「ここは、どこなんだ?」

「スノーブラインド通りですよ」

「いや、通りの名前じゃなくて、国は?」

「国?」

青年が、また首を傾げる。

「国って、200年くらい前に、廃止されたやつですよね。国境が無くなって、共通語が普及して……。知ってるでしょ?あなただって、喋ってるじゃないですか」

嫌な汗が出てくると同時に、賑やかな声や音が遠くなっていく。

「それに、戦闘機と言ってましたが、もう、戦闘機なんて使われてませんよ。博物館に展示されているだけです。もし、あなたが本当に戦闘機のパイロットだとしたら、かなり未来の世界に来たことになる」

「悪い冗談は止めてくれ!私は、ベルキジェン国のパイロットだ!本当だ!識別コードは……」

思い出せない。頭を抱えて目を瞑る。嘘だ。これは、夢だ。

「……きっと頭を打って、記憶が混乱してるんですよ。落ち着いて。ほら、花でも買いましょう」

青年が走っていった先には、スノーフラワーと書いてある立て看板があった。傍にある大きな花車には、蓮のような大輪の白い花が、こんもりと盛られている。

片手に白い花を一輪持った青年が、走り戻ってきた。

「雪原の花です。この先にある、広い雪原一面に咲くんですよ。雪原でどうやって咲いてるのか、どこから種が運ばれるのか、まだまったく分からないなんて、本当に不思議ですよね。ほら、可愛いでしょう」

手渡された白い花は、太陽の光を反射させて、ただ眩く光っていた。


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