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水月のショートショート詰め合わせ

水月

トラス転生の未来へ

楽器のトライアングルのような金属パーツが組み合わさった、大小様々な構造物が至る所に散らばっている大地。

少し陽が差す、曇り空。

草も樹木も生えていないのに、私の目線の高さくらいある謎の構造物には、なぜかマンゴーのような黄色い実が豊富に生っていた。

正三角形の頂点から、数センチ生えている植物の茎。その先に生る果実。金属と植物の境目は、あいまいだ。十分熟していそうな実を数個もぎ取り、抱えて歩く。

足を引きずるようになるまで歩き進んで、鉄塔のように三角形パーツが組み上がった、巨大なトラス構造物を見つけた。一番下の三角の一辺に座り込み、確実にこれは夢だと判断する。

疲れてはいるが、喉も乾かないし、お腹も空かないのだから。きっと夢だろう。腕に抱えている黄色い謎の果実を眺める。これを食べたら、夢から覚めるのだろうか。

皮を、少し剥いてみる。意外と、するりと剥けた。中身もマンゴーそっくりだ。香りは無い。一口齧ろうとして、口を開けたまま静止した。遠くから、人が近づいて来る。籠のようなものを被っているお坊さん。あれは。

「失礼。それは、食べない方がよろしい。原因は結果を生む。それは、死者の残した思念から生まれるトラスが……そこら中にある三角形の物体です。そのトラスがランダムに生む結果の実です。食べたら、何が起こるか分かりません」

くぐもった声の警告を聞いて、果実を脇に放り投げる。

「賢明な判断です。驚いた。貴方のような健全な人間が来るとは。仏教にお詳しいか?前世の業の深さによって、地獄道、修羅道、人道などの六道のどれかを回るという仏教徒のシステム。いわゆる、六道輪廻、因果応報。ここは、そのシステムの統合管理部です」

虚無僧だ。聞き取りにくい声を必死に拾いながら、目の前のお坊さんの呼称を思い出した。

「地獄?輪廻?……私、もう、死んで、たりとか」

「いえ。あなたは生者だ。時々、ここに死者が迷い込むこともありますが、ここに迷い込む死者は貴方のように、人らしい姿形を長時間、保っていられません。ここに来るまでに、生前の自分の行い、発した言葉全てを、強制的に復習させられるからです」

小さい三角の金属パーツ、トラスで形作られた球体が、私と虚無僧の間をコロコロと転がっていく。

「あの、何で私、ここに?私、出家なんてしてないし、信心深い仏教徒でもないんです。あなたは、人間じゃないんですか?」

「それは、私にもさっぱり。私はシステムの管理者です。人ではありませんが、便宜上、虚無僧の姿をしています。死者に、少しでも安心してもらえるように」

謎の虚無僧は、袈裟の奥から尺八を取り出した。

「試しに吹いてみましょうか。生者の魂も音に乗って帰れるかも。良い音は、まれに魂をあるべき場所に運びます。過去と現在と未来。貴方には、生者に必要な3つの時間がまだ揃っています。帰るべきです」

少しくぐもった尺八の高音が、曇天とトラスの荒野に響き渡る。どこまでも伸びていく清らかな音色で、急激に眠くなった。






目の前で、尋常でない大きさのクリスマスツリーが、ヘリに包囲されながらニューヨークの街を練り歩いている。

しまった。寝てしまった。ずっと観たかった映画なのに。ほとんどのシーンを見逃してしまった。観客が一斉に笑う部分で、イマイチ笑えない。

ふぅと息を吐いて、スクリーンを眺める。変な夢を見ていた気がするが、少しも思い出せない。まぁいいや。仕方ない。また今度、観に来ればいい。映画を観る時間は、まだたっぷりあるだろうから。


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