水月のショートショート詰め合わせ
ボウルに共鳴するトロイメライ
現実は暗くて寒い箱の中だった。
ついさっきまで見ていた夢の中では、大きなお皿の真ん中でスポットライトを浴びていたのに。
「誰か、いる?」
投げやりに、いつも返答の無い呼びかけをしてみる。案の定、応答は無く。ため息が出そうになった時だった。
「いるよー」
真横からはっきりした返事が聴こえて、驚いた。
「同じ響き。だから、きっと私とあなた、同じ種類。ああ、良かった。テレパシー送り合える仲間がいて安心したわ。私イタリア生まれ。今日ここに来たの。よろしく」
まさか、イタリア生まれの仲間とは。見た目が私と全く違っていて、また驚く。
「え、形が全然違うんだね。本当に、同じ種類なの?」
「そうよ。同じでなきゃ、おしゃべりできない。生まれた場所で、こんなに見た目が違うのね。びっくり。あなたのクルクルした葉先、可愛い。羨ましいわ」
「あ、ありがとう。褒められたの初めてだ。君のストレートな葉先もシャープでかっこいいよ」
「あら、ありがとう。嬉しい」
イタリア生まれの彼女?は、うふふと楽し気に笑う。僕も楽しくなってきた。
「今回は、食べてもらえるかしら。前回は、こんな風な暗い箱の中で、しなびて終わってしまったの。仲間とも出会えずに。寂しかった」
「僕も、前回は仲間を見つけられなくて。一応お皿の上には乗れたけど、結局捨てられて終わっちゃった。しかも、人間にただの飾りだなんて言われちゃって。悔しかったよ」
「私も何代か前の時に、言われた気がするわ。飾りだなんて、失礼しちゃう。私たちほど栄養満点な野菜なんて無いのに。カロテンもビタミンもカルシウムも、鉄分もカリウムも食物繊維も。人体に必要な栄養が詰まってるのに」
怒る彼女の葉先が少し揺れている。
「そうそう。アピオ―ルで消化も助けられるし、食中毒も防ぐし。爽やかな良い香りだって放ってる。なのに、なかなか人は食べてくれない。やっぱり、苦いからかなぁ」
「そうねぇ。苦いからかしら。料理に使われるとしても、ほんの少しだけなのよね。もどかしい。レタスみたいに、生のまま人にモリモリ食べてもらうのが夢なのに」
「そうそう」
会話が盛り上がってきた時、若干の振動を感じ取る。ぴっと背を正して、おしゃべりを止めた。
ガラガラっという大きな音がした後、眩しい光に包まれた。そして、浮遊する感覚。掴まれている。あ、もしや。
トロイメライの旋律を鼻歌で追いながら、ボウルの水にパセリを浸す。茎の方を持ってシャカシャカと振り、カールしている葉先を洗った。葉っぱの部分をちぎって、横のザルに入れていく。
最後にちぎった葉を掲げて、下から眺める。きっちり3つに分かれていくフラクタルな形。新鮮さを主張する、綺麗な深緑色。
ぽっと口に入れて、咀嚼する。最初の苦味はすぐに通り過ぎて、爽やかで微かな甘さが残る。美味しい。一昨日から、はまり込んでいる絶妙な味の変転。明日はイタリアンパセリのサラダを試す予定だ。
頷きながら鼻歌を再開して、パセリの水をしっかり切る。
そして、大きなガラスのボウルに、こんもりと盛る。可愛い葉を少し摘まみ、また口に放り込んだ。
ついさっきまで見ていた夢の中では、大きなお皿の真ん中でスポットライトを浴びていたのに。
「誰か、いる?」
投げやりに、いつも返答の無い呼びかけをしてみる。案の定、応答は無く。ため息が出そうになった時だった。
「いるよー」
真横からはっきりした返事が聴こえて、驚いた。
「同じ響き。だから、きっと私とあなた、同じ種類。ああ、良かった。テレパシー送り合える仲間がいて安心したわ。私イタリア生まれ。今日ここに来たの。よろしく」
まさか、イタリア生まれの仲間とは。見た目が私と全く違っていて、また驚く。
「え、形が全然違うんだね。本当に、同じ種類なの?」
「そうよ。同じでなきゃ、おしゃべりできない。生まれた場所で、こんなに見た目が違うのね。びっくり。あなたのクルクルした葉先、可愛い。羨ましいわ」
「あ、ありがとう。褒められたの初めてだ。君のストレートな葉先もシャープでかっこいいよ」
「あら、ありがとう。嬉しい」
イタリア生まれの彼女?は、うふふと楽し気に笑う。僕も楽しくなってきた。
「今回は、食べてもらえるかしら。前回は、こんな風な暗い箱の中で、しなびて終わってしまったの。仲間とも出会えずに。寂しかった」
「僕も、前回は仲間を見つけられなくて。一応お皿の上には乗れたけど、結局捨てられて終わっちゃった。しかも、人間にただの飾りだなんて言われちゃって。悔しかったよ」
「私も何代か前の時に、言われた気がするわ。飾りだなんて、失礼しちゃう。私たちほど栄養満点な野菜なんて無いのに。カロテンもビタミンもカルシウムも、鉄分もカリウムも食物繊維も。人体に必要な栄養が詰まってるのに」
怒る彼女の葉先が少し揺れている。
「そうそう。アピオ―ルで消化も助けられるし、食中毒も防ぐし。爽やかな良い香りだって放ってる。なのに、なかなか人は食べてくれない。やっぱり、苦いからかなぁ」
「そうねぇ。苦いからかしら。料理に使われるとしても、ほんの少しだけなのよね。もどかしい。レタスみたいに、生のまま人にモリモリ食べてもらうのが夢なのに」
「そうそう」
会話が盛り上がってきた時、若干の振動を感じ取る。ぴっと背を正して、おしゃべりを止めた。
ガラガラっという大きな音がした後、眩しい光に包まれた。そして、浮遊する感覚。掴まれている。あ、もしや。
トロイメライの旋律を鼻歌で追いながら、ボウルの水にパセリを浸す。茎の方を持ってシャカシャカと振り、カールしている葉先を洗った。葉っぱの部分をちぎって、横のザルに入れていく。
最後にちぎった葉を掲げて、下から眺める。きっちり3つに分かれていくフラクタルな形。新鮮さを主張する、綺麗な深緑色。
ぽっと口に入れて、咀嚼する。最初の苦味はすぐに通り過ぎて、爽やかで微かな甘さが残る。美味しい。一昨日から、はまり込んでいる絶妙な味の変転。明日はイタリアンパセリのサラダを試す予定だ。
頷きながら鼻歌を再開して、パセリの水をしっかり切る。
そして、大きなガラスのボウルに、こんもりと盛る。可愛い葉を少し摘まみ、また口に放り込んだ。
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