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水月のショートショート詰め合わせ

水月

モノクロ・スフィアのフラミンゴの飛翔

細かい砂の粒子が、手の指の間を埋めていく。ぐっと砂を掴みたくなる衝動を抑えて、手を離した。砂の手形は、思ったよりも大きい。

手形の上に、オレンジ色の球体が転がってきた。手形は一瞬でただの砂の陥没になった。球体は垂直に飛び跳ね始める。

「おはようタンジェ。今日も一緒に散歩しようか?」

タンジェは飛び跳ねながら、私の周りをぐるぐると回った。



跳ねながら付いて来るオレンジ色の球体、タンジェを時々振り返りながら、淡い太陽光に照らされる砂浜を歩く。波の音がしない静かな海の向こうには、華奢で長い足が特徴的な白い鳥、フラミンゴの群れがいる。

白い地球から定期的に送られてくる情報によれば、エサの色素の影響で、大体はピンクや赤などの艶やかな色をしているらしい。しかし、この偽物の黒い地球には、純白のフラミンゴしかいない。

近づいてきたタンジェが、私の目線の高さまで飛び上がった。

「はいはい。最近タンジェまた重くなってきたから、少しだけね」

タンジェを両腕で抱える。腕の中で、タンジェは大人しくなった。重さが変る、謎のオレンジの球。砂浜で暮らす、無機物と有機物の中間の球。ここに住み始めてから長いが、未だに正体が分からない。

数百万年前に、人類は一部が黒い殻で覆われている、地球そっくりの星を見つけた。そして数十万年前に、地球も白い殻に覆われ始めた。

殻の成長は止まらず、閉じ込められるという危機感を募らせた少数の人間たちは、数万年前に白い地球を脱出し、黒い殻付きの星に辿り着いた。到着した時には、白い殻は完全に地球を飲み込んでいたらしい。

本物の白い地球と、偽物の黒い地球。

移住生活が落ち着いてくると、増殖した人間たちは、2つの地球をそう呼ぶようになった。

砂浜を歩いて、ラボを兼ねた家に帰る。大きな灯台を利用して建設したラボからは、海が遠くまでよく見える。

立ち止まり、サンダルを脱いで歩いてみる。足の指の間に細かい砂の粒子が入り込んで、くすぐったい。

2時間後に、また弱々しい電気信号が送られて来るだろう。白い地球から。分厚い白い殻と凄まじい距離を通り抜け、私のラボの受信機に届くのだ。その信号を記録し、解読していくことが私の使命。

白い地球のことを気にする人間は数少ないが、私は可能な限り、解読作業を続けるだろう。フラミンゴの群れをもう一度眺める。

何万羽というフラミンゴが、広げたピンク色の羽根で青空を覆う瞬間を、想像しながら。

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