水月のショートショート詰め合わせ

水月suigetu

サボテン亭白刺九紋竜の言うことにゃ

あなた、私のこれ、さっきから棘だ棘だとおっしゃいますが、棘じゃございません。これは葉なのです。葉っぱを風呂敷のように広げていたら、すぐに枯葉になってしまう。しまいにゃ、体中の水分が抜けてしまう。

この砂漠では、めったに雨が降らない。だから、水が何より貴重なのです。

ダリアやバラのような絢爛豪華なお嬢さんには、砂漠でも水をやろうという人間がいるでしょう。しかし、そこら中に生えている、トゲトゲしてばかりの私には、そんな菩薩のような人間は現れません。

だから、葉を棘のように丸めたのでございます。雨季に蓄えた水が消えないように。

どうやって?……正直、私もよく分からんのです。あなた、どうやって四肢が生えたのですかと聞かれたら、答えようがないでしょう。それと同じです。

気付いたら、トゲトゲした姿で砂の上で直立不動でした。日光にじりじりと焼かれ続けて、ザァザァ雨が降れば歓喜乱舞する。

ほんの時々、誰も見ていない砂漠の真ん中で、小さいピンクの花をポコンと1つ2つ咲かせる。そんな、砂の色のように地味な生き様でございます。あ、でも私の場合は、少しおしゃれでしょ。棘が白で。あ、葉っぱが。

……そんなに気になるのなら、私の仲間たちに尋ねてみたらよろしい。そばに生えておるでしょう。答えてくれるかもしれません。皆貝のようにだんまりと口を閉じておりますが、実は陽気でおしゃべり好きなのです。

しかし、人間と進んで話そうという者は私以外にはいない。

私の見たところ、あなたは普通の人間ではないようだ。私が急に話しかけても、あなた面白がって私に言葉を返してくれた。それに、私と真剣に向き合って、人間のことを教えてくれた。皆、逃げて行ってしまうのに。

そんなあなたには、警戒心の強い皆も口を開くでしょう。

私にとっては、言葉が水の次に必要なのです。サボテン仲間とのおしゃべりも楽しいですが、やはり人間との直接的な言葉のやり取りのほうが、エキサイティングで刺激的です。

あなたとの会話は実にワクワクした。ありがとう。……そちらも楽しかったですか。ふふ、嬉しいことを言ってくださいますね。

私はいつまでもここに生えているでしょう。雨が降ろうが槍が降ろうが、ここに必ずおりますから。きっと、またいつか、近くに来たら私に話しかけてください。

お後がよろしいようで。

ささ、仲間たちに話しかけてみて。皆あなたと話してみたくて、そわそわしておりますよ。


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