水月のショートショート詰め合わせ

水月suigetu

夢見るキリンと三日月の十字架

僕の背に跨っている人間は、ずっと星の話をしている。僕はずっと聞いているだけ。

「200億光年、遠く離れた星の中にはね、4つに分裂する星があるんだ。星と私たちの間にある銀河のせいで光が曲がっちゃって、私たちの目には、そうとしか見えなくなるんだ。4つの分裂した星は十字架みたいに綺麗に並ぶ。だからアインシュタインの十字架って呼ばれてるんだ」

星が、分裂?あいんしゅたいんって、何だろう。気になりながらも、目の前の仲間の歩調に合わせて歩き続ける。前方から、モゥーという鳴き声。目的の餌場が見えてきたという合図だ。







星が分裂なんて、本当だろうか?

僕は集めた葉と枝の上に座り込み、長い首を後ろに曲げて頭をお尻に置いた。綺麗に丸く収まった。よし寝るぞと決意した途端に、日中ずっと考えていた疑問が湧き上がってしまう。

結局、全く眠れないまま20分ほどが経過した。諦めて身体を起こす。すぐ隣には、身体を丸めて熟睡する人間。むにゃむにゃと呟いている。

人間は毎日何時間も寝なくてはいけないらしい。僕もそのくらい長く寝るようにすれば、星が分裂して見えるなんてことを、すんなり理解できるようになるのだろうか。いや、僕には無理だ。そんなに眠っていたら、僕の首はぐにゃぐにゃになってしまう。

ゆっくり長い足を交互に踏み出す。人間を起こさないように、こっそりと。柔らかい土の感触を確かめながら、澄んだ夜空を見上げる。

僕は星が好きだ。だから、荒野であの星の話ばかりする人間と出会ってから、ますます好きになった。ずっと僕の背に乗せておきたいけれど、あの人間だって自分の群れに戻りたいだろう。

あと数日もすれば、人間がたくさんいる場所に到着する。それまで、僕は背中から聞こえる、あの人間の話にしっかり耳を傾けようと思う。

光る粒が乱舞する漆黒の空。今見えている星が全て、分裂したら?夜空はキラキラと輝きすぎて、僕は目を開けていられなくなるだろう。大きくて力強く光る星は、特別煌びやかな十字架になるだろう。

あ、三日月だ。

可能な限り、首を上に伸ばす。この首がもっと、もっと長く伸びればいいのに。触れてみたい。あの遥か遠くにある三日月の十字架に。


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