水月のショートショート詰め合わせ
二つのラスカのカデンツァ
穏やかに揺らぐ炎。簡易リクライニングチェアに座って、足先にある燃える薪を見つめる。
隣には、同じように座っている人間がもう一人。今回のキャンプの特別ゲストだ。
「久しぶりだな、こうして対面して話せるのは」
「そうだね、騒がしい所では絶対に無理だからね。静かな場所はやっぱり落ち着くよ」
「俺もだ。こういう所は似ているな、俺たち」
薪がパキパキと軽やかに鳴る。くすくすと笑う声。ああそうだ。こんな風に笑う奴だった。懐かしい。
「水晶作りの仕事、楽しそうだね」
「ああ。面白いよ。人工水晶はな、天然水晶のラスカを再結晶させて作り出すんだ。不思議だろ。天然かつ人口的なんだ。それに、質の良い天然水晶を採掘しに、遠い国まで行くこともある。退屈しないよ」
「君は昔から結晶とか石とか好きだったね。離れてても、時々伝わってくるんだ。君の楽しいって気持ちが。だから、私も嬉しいよ」
「お前は本が好きだったな。時間があれば本を読んでた。昔は徹夜してまで本を読むから困ったけど。でも、お前が読んでた本の知識も今役立ってる。感謝してるよ」
パチパチと薪が弾ける。そよそよと吹いてくる夜風が涼しい。たっぷりと間が空いた。
「ごめんね」
ぽつりと零れた謝罪の言葉に驚いて、隣のゲストの顔を見る。初めて見る、苦しそうな、寂しそうな表情。
「近いうちに私は君と会えなくなるから。もう長いこと君と話せていなかったし、話せないことに対する焦燥感も違和感も湧かなくなったし、きっとそういうことになる。だから、言っておこうと思って」
少し強い風が、隣のゲストと自分の間をヒューと通り抜けた。
「昔は、何もかも君に取られたくなくて悔しくて、わざと君を困らせていた。初めから全て君のもので、私のものではなかったのに」
「困らされたな、確かに。でも、俺もお前に対して酷い態度だった。自分で生み出した分身の存在を認めないなんて、惨い話だ。ただでさえ、お前は脆いのに。それに、今こんな風に、普通の友達みたいに話せてる。だから、お前も俺も謝る必要なんてないさ」
「……そっか。そうかもね」
隣のゲストは夜空を仰いだ。つられて自分も目線を上げる。満点の星空。時々、流れ星が光る。ラスカの輝きのようだ。
「私は今、君の意識の奥で自由に過ごしてる。君の精神の底は澄んでて広いから、居心地が良い。時々君の声が聞こえる。それだけで、私は十分満足なんだ。実は、ずっと昔からね。だから、私の人格が完全に消える瞬間もきっと怖くない」
「消さないぞ」
隣から視線を感じる。しかし、俺は夜空を見上げ続けた。
「全ては俺のものだって言ったな。そうとも。精神も身体も俺の意思でコントロールするんだ。これからも。だから、お前を消さない。その意志を絶やさない。いつか身体が壊れる瞬間に、同時に消えよう。それまでは、勝手に消えないでくれ」
「…………ありがと」
くすぐったい気分を打ち消すように、唸り声を出しながら身体全体を伸ばす。パチパチパチと静かに薪は燃え続けている。
「……それにしても、素直な大人になったねぇ私たちは」
「ははは。信じられないよなぁ。あんなに喧嘩ばっかりだったのに」
また、心地よい夜風が吹いた。
隣には、同じように座っている人間がもう一人。今回のキャンプの特別ゲストだ。
「久しぶりだな、こうして対面して話せるのは」
「そうだね、騒がしい所では絶対に無理だからね。静かな場所はやっぱり落ち着くよ」
「俺もだ。こういう所は似ているな、俺たち」
薪がパキパキと軽やかに鳴る。くすくすと笑う声。ああそうだ。こんな風に笑う奴だった。懐かしい。
「水晶作りの仕事、楽しそうだね」
「ああ。面白いよ。人工水晶はな、天然水晶のラスカを再結晶させて作り出すんだ。不思議だろ。天然かつ人口的なんだ。それに、質の良い天然水晶を採掘しに、遠い国まで行くこともある。退屈しないよ」
「君は昔から結晶とか石とか好きだったね。離れてても、時々伝わってくるんだ。君の楽しいって気持ちが。だから、私も嬉しいよ」
「お前は本が好きだったな。時間があれば本を読んでた。昔は徹夜してまで本を読むから困ったけど。でも、お前が読んでた本の知識も今役立ってる。感謝してるよ」
パチパチと薪が弾ける。そよそよと吹いてくる夜風が涼しい。たっぷりと間が空いた。
「ごめんね」
ぽつりと零れた謝罪の言葉に驚いて、隣のゲストの顔を見る。初めて見る、苦しそうな、寂しそうな表情。
「近いうちに私は君と会えなくなるから。もう長いこと君と話せていなかったし、話せないことに対する焦燥感も違和感も湧かなくなったし、きっとそういうことになる。だから、言っておこうと思って」
少し強い風が、隣のゲストと自分の間をヒューと通り抜けた。
「昔は、何もかも君に取られたくなくて悔しくて、わざと君を困らせていた。初めから全て君のもので、私のものではなかったのに」
「困らされたな、確かに。でも、俺もお前に対して酷い態度だった。自分で生み出した分身の存在を認めないなんて、惨い話だ。ただでさえ、お前は脆いのに。それに、今こんな風に、普通の友達みたいに話せてる。だから、お前も俺も謝る必要なんてないさ」
「……そっか。そうかもね」
隣のゲストは夜空を仰いだ。つられて自分も目線を上げる。満点の星空。時々、流れ星が光る。ラスカの輝きのようだ。
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「消さないぞ」
隣から視線を感じる。しかし、俺は夜空を見上げ続けた。
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「…………ありがと」
くすぐったい気分を打ち消すように、唸り声を出しながら身体全体を伸ばす。パチパチパチと静かに薪は燃え続けている。
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