水月のショートショート詰め合わせ
夢幻の魔を除けるtoCodaの行方
鍵のかかった箱が目の前にある。ほのかな既視感。
シンプルな木製の箱。薄い琥珀色。60cm四方の正方形。蓋の境目はぴったりと閉じられており、鍵穴らしきものはない。1ヶ所だけ、境目に不思議な黒いマークが彫り込まれている。重さは1㎏ほど。揺らしても、何かが動く気配は無い。
祖父母の家の倉庫整理は中断。祖父と祖母に尋ねてみたが、まったく記憶に無いという。無性に気になる。祖父母から許可を貰い、箱を開けてみることにした。
何をしてもピクリともしない。解錠業者にも依頼したが、箱は頑として開かない。
普段は何事にも冷めている私の執着ぶりに驚いたのだろう。祖父母は、この箱を譲り渡してくれるという。気付けば、もう夕方になっていた。倉庫の片付けは来週必ずという約束をして、急いでアパートに帰る。
テーブルの上に慎重に置いた箱の、掘り込まれたマークと境目を撫でる。
蓋と本体の木目は完璧に合っている。境目がどこにあるのか、感触だけでは分からない。この箱は一体何を守るために、ここまで精巧に作られたのだろう。ぼんやりとマークを眺める。
唐突に脳裏をよぎる銃の照準マーク。
急いでパソコンを立ち上げ、確認する。ああ、やはり。どこかで見た気がするはずだ。ありふれた音楽記号のマークだ。コーダだ。繰り返しの小節の中に「toCoda」の印を見つけたら、この照準マークそっくりのマークに飛ぶ。子供の頃、音楽の授業で習った。
しかし、マークの意味はさらなる謎を呼んだ。箱の封印にコーダ?
数日後、私はついに決心した。鋸の刃先を、箱の境目に当てる。中身が気になって夜も眠れなくなってしまったのだ。何度も何度もためらったが、やはり、気になる。
シャリシャリシャリと音を立てながら、慎重に切っていく。切り開いた部分から、紙の束のようなものが見えた。数時間かけて、最後まで切り終えた。
中にはメモ用紙ほどのサイズの和紙の束が、ぎっしりと収まっていた。全てのメモには「∞D.C.」とだけ、墨で記されていた。他には何も無い。拍子抜けして、その場に座り込む。急に眠くなってきた。
「無限、ダカーポ?」
確か、曲の一番始めに戻るという音楽記号だ。無限に、始めに戻る?……どういう、ことだろうか。……眠い。なんで……ダカーポ……無限の……。
∞D.C.……
∞D.C.……
∞D.C.……
∞ダ・カーポ……
むげん、だかーぽ……
むげん……
……
鍵のかかった箱が目の前にある。ほのかな既視感。
シンプルな木製の箱。薄い琥珀色。60cm四方の正方形。蓋の境目はぴったりと閉じられており、鍵穴らしきものはない。1ヶ所だけ、境目に不思議な黒いマークが彫り込まれている。重さは1㎏ほど。揺らしても、何かが動く気配は無い。
祖父母の家の倉庫整理は中断。祖父と祖母に尋ねてみたが、まったく記憶に無いという。無性に気になる。祖父母から許可を貰い、箱を開けてみることにした。
何をしてもピクリともしない。解錠業者にも依頼したが、箱は頑として開かない。
普段は何事にも冷めている私の執着ぶりに驚いたのだろう。祖父母は、この箱を譲り渡してくれるという。気付けば、もう夕方になっていた。倉庫の片付けは来週必ずという約束をして、急いでアパートに帰る。
テーブルの上に慎重に置いた箱の、掘り込まれたマークと境目を撫でる。
蓋と本体の木目は完璧に合っている。境目がどこにあるのか、感触だけでは分からない。この箱は一体何を守るために、ここまで精巧に作られたのだろう。ぼんやりとマークを眺める。
唐突に脳裏をよぎる銃の照準マーク。
急いでパソコンを立ち上げ、確認する。ああ、やはり。どこかで見た気がするはずだ。ありふれた音楽記号のマークだ。コーダだ。繰り返しの小節の中に「toCoda」の印を見つけたら、この照準マークそっくりのマークに飛ぶ。子供の頃、音楽の授業で習った。
しかし、マークの意味はさらなる謎を呼んだ。箱の封印にコーダ?
数日後、私はついに決心した。鋸の刃先を、箱の境目に当てる。中身が気になって夜も眠れなくなってしまったのだ。何度も何度もためらったが、やはり、気になる。
シャリシャリシャリと音を立てながら、慎重に切っていく。切り開いた部分から、紙の束のようなものが見えた。数時間かけて、最後まで切り終えた。
中にはメモ用紙ほどのサイズの和紙の束が、ぎっしりと収まっていた。全てのメモには「∞D.C.」とだけ、墨で記されていた。他には何も無い。拍子抜けして、その場に座り込む。急に眠くなってきた。
「無限、ダカーポ?」
確か、曲の一番始めに戻るという音楽記号だ。無限に、始めに戻る?……どういう、ことだろうか。……眠い。なんで……ダカーポ……無限の……。
∞D.C.……
∞D.C.……
∞D.C.……
∞ダ・カーポ……
むげん、だかーぽ……
むげん……
……
鍵のかかった箱が目の前にある。ほのかな既視感。
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