水月のショートショート詰め合わせ

水月suigetu

エレクトロンフィッシュの憂鬱


あ、静電気が来たよ。 
                    
                                    やったー。
                            色々考えてたらお腹空いた。                            

僕は半分でいいや。
残りは君が食べて。   
                                   
                                                                     いいの?君は最近小食だね。
                                     体調が悪いのかい?僕が診てみようか。               

ううん。単に、味に飽きたっていうか。
あんまり、美味しくないから。

                                          ここの研究所の静電気は淡白だよね。
                               僕も飽きてきたよ。
                       故郷の深海が懐かしい。もっと濃厚な、
                       複雑な風味の電気が食べ放題だった。
                              
そうそう。
深海魚にも味覚はあるのに。
いつも同じ静電気を流すなんて。

              人間だって、原子の周りの電子を大量に食べているのにね。
               あ、そうだ、今度の人間研究のテーマは味覚にしようか。
                        さっき、深海のラボから返信が来たんだ。
                前回君が担当した人間の聴覚についてのレポートの。

あれ、いつもより早いね。

                   面白いって。あの怖いボスがすごい褒めてた。
            それで、これからしばらく人間の五感をテーマにすればって。

えー、めんどくさいな。

                              ねー。めんどくさい。
            こんな地下水槽の中じゃ、あんまり人間とは接触できないし。
                     僕たち捻じれた岩みたいな見た目だから、
                       警戒されて、人間は寄ってこないし。                 




音声はそこで切れた。地下水槽から発生する謎の電波を、軽い気持ちで解析してみたら、こんなものが録れてしまった。興奮が抑えられない。椅子を蹴って立ち上がり、地下の水槽エリアに走る。

あの電子を餌にする深海魚たちは、もしかすると、私達に近い生物なのではないか。私の言葉を認識してくれるのでは。

着いたらすぐに、質問しよう。静電気の味はどう変えたらいいか?と。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品