水月のショートショート詰め合わせ

水月suigetu

ナチュラル・ベジテイション・カップラーメン


ケトルが高らかに鳴る。準備は整った。いざ。

お湯をゆっくり流し入れる。良い匂いが立ち上ってきて、胃が動いた。



一昨日、スーパーで初めて見かけた「たっぷり!天然サラダラーメン」の中身は、意外とシンプルだった。フリーズドライの野菜がみっしりと入っているのかと期待していたので、少しがっかりする。

小さい木の実のような具しか入っていない。しかし、スパイシーで爽やかな香りは気に入った。ハーブだろうか?

蓋を閉じて、箸を蓋の上に乗せて。リビングのテーブルの上に置き、正座して3分時間が過ぎるのを待つ。

鮮やかな緑色が強烈なパッケージをまじまじと眺める。原材料の表示を見てみると、一番下に「潜在自然植生」と書いてあった。

ラーメンに、植生?首をかしげたが、深く考えないことにした。今はお腹が空いている。強くなるラーメンの良い香り。ああ、あと1分半。

網戸の窓からそよ風が入ってきた。立ち上がって窓の外を見る。近くに張られた電線の上に、ずらりとスズメがとまっている。沈黙してこちらを見ている。

雲一つない晴天だ。日向ぼっこをしているのだろう。鳥たちに手を振ってみると、数羽が首をかしげた。遠くで車のクラクションの音が響く。


そろそろだろうと、テーブルの前に戻る。蓋を勢いよく開けた。そして、勢いよく容器から蔓が飛び出してきた。

蔓は一瞬で屋根を突き抜け、さらに上に上にと伸びていく。後ろにひっくり返ったまま、私はその様子をただ見ていた。ミシミシミシと音を立てながら、蔓はあっとう間に太い茎になった。

根は存在していないはずの、歪んだカップ麺の容器から生え、恐ろしいスピードで成長し続ける植物。恐ろしくなり、よろめきながら家の外に出た。

外では通行人が数人、空を仰ぎながら口をあんぐりと開けている。その視線を辿ると、もはや大樹となった植物が、雲に届く位置にまで伸びていた。子供の頃によく読んだジャックと豆の木の絵本そのものだった。







その大樹は成層圏に到達すると、ひたすら横に枝を伸ばすようになったらしい。その枝の先からはクルミのような実が生り、その実が落ちて、世界中に巨大な木が生えるようになったという。

あのカップラーメン事件の日に拘束され、物々しい施設の地下に幽閉されていた私は今、その木の中で暮らしている。予想以上に快適で驚いた。

不思議な木は、様々な果物も落としてくれる。比較的低い木も増え始め、日光が遮られてしまう心配は無くなった。

木の上に登って日の出を拝むことが習慣になった。

塔のような大樹の間から、朝日の光が滲みだす瞬間を、毎朝鳥と共に眺めている。今朝も、ため息が出るほど美しかった。

「水月のショートショート詰め合わせ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く