水月のショートショート詰め合わせ
拡散、拡散、拡散、接合
彼女の手はとても、とても冷たかった。驚いて、手を引っ込める。振り払うようなしぐさになってしまった。気まずい。
「あ、ごめんね。私チタン製だから」
さらりと響く言葉の処理に困る。ひんやりとした海風に撫でられて、耳が痛くなった。黙っている私にお構いなしに、彼女は遠くに走り出し、冬の浜辺を楽しそうに駆けまわる。
完全に自分を見失って冬の海に訪れ、お決まり中のお決まりの行動を取る己の恥ずかしさに気付き、心底うんざりしていた時。彼女が話しかけてきた。
私の横で、同じ体育座りをしていた彼女はほぼ一人で喋り、笑っていた。突然、立ち上がって手を差し出してきた。反射的に、というより、彼女の満面の笑顔の圧力に負けて、その手に触れたのだ。
「ねぇー」
遠くから、彼女が叫んでいる。
「拡散接合って、知ってる?」
「あと少しで、別の時間の私が来るの」
「双子みたいなもん」
「え?」
「その子と視線が合った所から、拡散接合されて、一瞬でどっちもいなくなる」
「お互いの小さい粒子がね、目から溶けて混ざって、どっちも新しい別の何かになる」
「私やっと、純粋な私自身になる。もう他人にならなくていいの」
「何、言って」
「生きてれば会えるよ、諦めてても、信じてなくても」
「ほら、来た。お先に!」
海風がまた強く吹いてきて、目を瞑る。目蓋を開いたときには、もう彼女はどこにもいなかった。
「あ、ごめんね。私チタン製だから」
さらりと響く言葉の処理に困る。ひんやりとした海風に撫でられて、耳が痛くなった。黙っている私にお構いなしに、彼女は遠くに走り出し、冬の浜辺を楽しそうに駆けまわる。
完全に自分を見失って冬の海に訪れ、お決まり中のお決まりの行動を取る己の恥ずかしさに気付き、心底うんざりしていた時。彼女が話しかけてきた。
私の横で、同じ体育座りをしていた彼女はほぼ一人で喋り、笑っていた。突然、立ち上がって手を差し出してきた。反射的に、というより、彼女の満面の笑顔の圧力に負けて、その手に触れたのだ。
「ねぇー」
遠くから、彼女が叫んでいる。
「拡散接合って、知ってる?」
「あと少しで、別の時間の私が来るの」
「双子みたいなもん」
「え?」
「その子と視線が合った所から、拡散接合されて、一瞬でどっちもいなくなる」
「お互いの小さい粒子がね、目から溶けて混ざって、どっちも新しい別の何かになる」
「私やっと、純粋な私自身になる。もう他人にならなくていいの」
「何、言って」
「生きてれば会えるよ、諦めてても、信じてなくても」
「ほら、来た。お先に!」
海風がまた強く吹いてきて、目を瞑る。目蓋を開いたときには、もう彼女はどこにもいなかった。
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