水月のショートショート詰め合わせ

水月suigetu

ダイヤモンドの孤独

月光が差し込まない暗い海の中で、僕は卵から出た。いや、寝返りを打ったら、突然海に放り出されたのだ。

僕の軽い体は、潮の流れに逆らえないようで。流れている間に、足が数本生えてきた。必死で、その足を動かす。多分、意味は無かったろう。

気付いたら、果てない砂場に打ち上げられていた。眩しいほどに煌めく満月と見つめ合う。疲れが癒えてから、歩いてみた。問題ない。走ってみた。転んだ。





僕が海の中で食べていたものが、砂の中にもあるとは驚いた。一心不乱に砂を口に運ぶ僕の身体は、表面が硬化して、かっこいい鎧のようになった。手も大きくなって、使いやすい。少し重いけど。

お腹が満たされた時、目の前にキラキラと光る粒が落ちてきた。頭上には、乱反射している月。やっぱり、月にしては明る過ぎる。横歩きで、慎重にその粒に近づく。

その粒は四方八方に光を放っている。僕はその粒を丁寧に片手で挟み、持ち上げた。軽く、硬い。

もう一度地面に置いて、よく観察する。月の光を増幅させ、輝いている。ダイヤモンドだ。僕の記憶にある唯一の宝石。きっと、ダイヤモンドだ。

その粒を持って、ひたすら派手に輝く月のような星を仰ぐ。あれは月じゃない。ダイヤモンドの塊だ。この粒は落ちてきてしまったのだろう。じっと、ダイヤモンドの粒を見つめる。

キミは今、意図せず知らない場所に来てしまった。きっと、とてつもなく寂しくて不安で、戸惑っているだろう。粒を優しく握り締めた。宝物にしよう、と決意する。

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