捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

調子にのるな

「……ユータ。君がこの村の神々の加護を受けし神官だというのは聞いている。しかし僕が顕現した以上、好き勝手出来るとは思わない事だ」
「死なない程度に死ねです」
「ぐふあ!」

 突然局地的なトルネードが発生し、エルウッドを空へと巻き上げる。
 地面に落ちてきたエルウッドは身体を打ちつけてプルプルと震えるが、そんなエルウッドをセージュはゴミを見る目で見下ろす。

「調子にのるんじゃねーですよ、このクズ。ユータの村で偉そうにしたら微塵にするのです」
「ぐ、ぐぐ……! 世界樹の精霊とはいえ、この仕打ち……! 同じ木の精霊だろう!」

 叫ぶエルウッドを、セージュは雄太の頭から飛び降りる勢いで踏みつける。

「次、私をお前みたいな木屑共と一緒にしたら薪にして燃してやるのですよ? 言葉には気を付けるのです」
「あー、セージュ、程々に。な?」

 そういえばセージュは世界樹が本体じゃないみたいな事言ってたな……と雄太は思い出す。
 しかし先程の話を聞く限り、エルウッドは神樹が本体なのだろうか?

「お前もコイツを教育しとけですよ」
「やーよ、なんで私がそんな事に時間割かなきゃいけないのよ」
「ユータの為になるじゃないですか」
「そういうのはユータが自分で成すべきだわ。勿論、ソレが限度を超えるようなら磨り潰すけど」

 何やら物騒な会話が繰り広げられているが、要は人間……いや精霊だが、とにかく人間関係は雄太がどうにかしろという話なのだろう。

「……何かあったら助けてくれるってことだよな、了解」

 小さく息を吐くと、雄太はセージュに踏まれているエルウッドの近くに膝をつく。

「あー、なんだ。俺はエルウッドと普通に仲良くしたいと思うんだけどさ。それじゃダメなのか?」
「……人間が精霊に敬意を持つのは当然の事だ。特に神の臣下たる僕にはな」
「そりゃ敬意は持つさ。でもまあ、それはそれとして「仲間」になれないかって話なんだよ」

 空気を読んでセージュが雄太の肩の上に乗ると、エルウッドはゆっくりと立ち上がって膝をつく雄太を見下ろす。

「僕とお前の間には、この視点程の差がある。たとえば僕がその気になれば、お前は一瞬で消し飛ぶ」
「力の差は立場の差じゃないさ」

 言いながら雄太は立ち上がる。
 雄太の方がエルウッドよりも背が高く、単純な視界では雄太がエルウッドを見下ろす形へと変化する。

「世紀末じゃないんだ。力の強さは立場の強さじゃないよ」
「セイキマツ……? いつだって力の強い者が上に立つ。それは当然の理屈だろう?」
「力が必要なのは否定しないさ。でも、力だけじゃ何も解決しない」
「するさ。神々の権能はそれを可能にする」

 なるほど、それを出されると雄太としても弱い。
 このミスリウム村だって、様々なモノを神々の権能に頼っている。
 しかし、しかしだ。

「なら。どうして神々は信仰を求めるんだ?」
「なに?」
「善神に悪神。どっちも人間の町とかで崇められてるだろ? 神がその権能で全てを解決できるなら自分達以外は必要ないはずだし、邪神も邪神だけで村なり町なりを作ったっていいはずだ」

 しかし現実は違う。信仰を得られぬ邪神達は放浪し、善神や悪神達も信仰を手放す事はない。

「そ、それは……わざわざ自分ですることでもないからだろう」
「それじゃ、邪神達が放浪を続ける理由にはならない」
「ぐ……」

 そう、たぶん。たぶんの話だ。
 これは、雄太の勝手な想像の話だ。

「必要なんだよ、お互いに。神々には信仰が必要で、生き物には縋るモノが必要だ。だから共存してる。そうだろ?」
「……しかしその理屈だと、お前とてフェルフェトゥ様達を信仰しているのだろう。崇めるのは信仰者として当然の姿勢ではないのか?」
「あー」

 そこで、雄太は頭を掻く。

「そこなんだよ。俺の場合は「信仰」じゃなくて、ほんとに共存っていうか共同生活っていうか。コロナはどうなんだろ。分かんないけど」
「コロナ……あの女か。バーンシェル殿には近づくんじゃねえと殴られてしまったが」
「何やったんだ……?」
「コロナは精霊相手には無条件で膝をつくから調子にのったのよ。で、バーンシェルはそういうの大嫌いだから」

 ドーンよ、と説明してくれるフェルフェトゥに雄太は「あー……」と苦笑する。

「それで分かるだろ? バーンシェルとコロナの場合は鍛冶の師弟みたいなとこあるから特殊だけど。基本的に上も下もないんだよ」
「だが、それでは世界の秩序が……」
「こんな辺境に世界のルールなんて関係ないだろ」

 元々雄太は「この世界」から捨てられた存在だ。
 フェルフェトゥ達も、信仰を得られずにはじき出された邪神だ。
 そこに神がどうとか人間がどうとか、持ち出す方が無粋というものだ。

「ま、今すぐどうとは言わないよ。でも、ここには「一番偉い人」なんてのは居ないんだ」

 村も名目上雄太が村長ではあるが、そこに何かの権力が付随するわけでもない。
 言ってみれば、学級委員とかと然程変わらない。

「仲よくしよう、エルウッド。さっき聞いた話だと、ベルフラットを手伝って畑仕事してるんだろ? 俺は建築とか、今は魔具造りにも挑戦してるけど……そういうの担当」

 雄太の差し出す手をじっと見つめ、エルウッドは小さく呟く。

「……村の奥の神殿」
「ああ、あれか? 内装はフェルフェトゥ達だけど、建物は俺とコロナで頑張ったよ」
「……それなりに頑張っているとは思う。合同で祀るという方式も、悪くはない」
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しい」

 笑う雄太の手を、エルウッドは躊躇いがちにではあるが握る。

「君はおかしな人間だ」
「フェルフェトゥに鍛えられたからかもな」
「あら」

 失礼ね、と怒ったフリをするフェルフェトゥを見て、雄太とエルウッドは同時に笑う。

「ユータ。君の言うこの場所なりのやり方というものを見極めてみよう」
「ああ、そうしてくれ」
「認めるかどうかは別だぞ」
「それでいいさ」

 それは、男同士の不器用な終戦宣言。
 友情とまではいかないまでも、互いを認め合う……なんともめんどくさい儀式であった。

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